制度を「廃止」して「改名」した。でも、問うべきことはまだ残っている。
この連載を通じて、外国人技能実習制度の構造を追ってきた。
日本語要件の緩さ(第1回)、借金と送出機関の搾取(第2回)、効力のない二国間協定(第3回)、失踪から犯罪への経路(第4回)、そして30年間この構造を守ってきた利害関係者たち(第5回)。
最終回では、では何が必要かを考えたい。ただし「こうすれば解決する」という単純な答えは出さない。問うべき問いを整理することが、この回の目的だ。
育成就労制度は何を変え、何を変えなかったか
2024年に成立した育成就労制度が変えたこと:制度の目的を「国際貢献」から「人材育成・人材確保」へ正直に変更した。転籍を原則1年後から認めた。監理団体の要件を厳格化した。
変えなかったこと:入国前の日本語要件はN5のまま。監理団体を介する構造は継続。送出機関の手数料上限の実効的な執行手段は不明確なまま。家族帯同は育成就労段階では不可のまま。
変えたことは評価に値する。変えなかったことの多くは、利害関係者の抵抗によるものだ。
参照すべき他国の仕組み
韓国の雇用許可制(EPS)は、送出国の政府機関が直接求職者を管理し、民間ブローカーを介在させない。送出国で不正が発覚した場合、その国への受け入れ枠を停止できる制裁が制度化されている。日本のMOCにはこの制裁がない。
台湾は2023年以降、外国人労働者の雇用主変更をより柔軟に認める改革を進めた。転籍の自由度を高めることで、劣悪な雇用主から労働者が逃げられる構造を作った。
「日本が選ばれなくなる」という議論がある。しかし、日本が選ばれているのは送出国の若者に選択肢が少ないからであり、処遇が良いからではない。ベトナムの平均月収の15カ月分の借金を背負わせてでも来る人がいる、という事実が示しているのは、日本の魅力ではなく送出国の切実さだ。
問うべき三つのこと
① 監理団体は本当に必要か
監理団体は現在、受け入れ企業から費用を受け取り、外国人労働者を管理する。この構造では、監理団体の顧客は企業であり、労働者ではない。韓国EPSのように政府機関が直接管理する仕組みか、少なくとも監理団体の利益相反を解消する設計が必要ではないか。
② 入国前借金を誰が禁止するのか
送出機関の手数料上限を法定化しても、それが守られなければ意味がない。日本政府がMOC締結国の送出機関に対して「違反した場合は認定を取り消し、その国からの受け入れを一時停止する」という実効的な制裁を持たない限り、上限は数字に過ぎない。
③ 失踪後のセーフティネットをどう設計するか
現行制度では、失踪した実習生は即座に不法残留者となり、公的支援から切り離される。この「助けを求められない空白」が犯罪組織の入り込む余地を作っている。在留資格を失った場合でも、一定期間の保護と相談窓口へのアクセスを保障する仕組みが必要ではないか。これは「不法滞在を認める」ことではなく、追い詰められた人間を犯罪に追いやらないための安全設計だ。
この連載を終えるにあたって
外国人労働者を「増やすべきか・減らすべきか」という問いには、この連載は答えていない。
問い続けてきたのは、現在の受け入れ構造が、来日する外国人にとっても、受け入れる日本社会にとっても、誰かの利益のために意図的に歪められてきたのではないか、ということだ。
「外国人が増えると問題が起きる」のではない。問題が起きるように設計された制度のもとで外国人を増やしてきた、というのが、この連載が示してきたことの核心だ。
育成就労制度が2027年に施行される。名称が変わっても、構造が変わらなければ同じことが繰り返される。制度の設計に誰が参加し、誰の利益が優先されているか。そこを見続けることが、市民として問い続けるべきことだと思う。
この連載は全6回です。第1回:日本語要件、第2回:借金と送出機関、第3回:MOCの実態、第4回:失踪から犯罪へ、第5回:誰が守ってきたのか、第6回(本稿):では何が必要か。お読みいただきありがとうございました。
参考:韓国雇用労働部「雇用許可制(EPS)」、法務省「育成就労制度の概要」(2024年)、有識者会議最終報告書(2023年11月)、米国務省「人身売買報告書2023年版」
