雷舞ノ巫女 (ライブノミコ) 第12話「神々の絆、デュオグランプリ開幕」
夜が明けきらぬ都心の空。
あの熱狂のハロウィンナイトミュージックフェスから、数日。
「最高だった!」
「今年の伝説!」
「推しが輝いてた!」
SNSのタイムラインには七つの名前がトレンド入りし、動画が拡散されている。
だが、それも少しずつ静かになっていく。
その翌朝。
陽菜は制服に袖を通しながら、ふと思う。
(あのステージは夢じゃなかったんだよね)
鏡越しに見える自分は、ほんの少しだけ強くなった気がした。
登校途中の駅前。
「ねえ、知ってる?デュオグランプリって噂」
同じ電車に乗る女子たちが、ささやく声が耳に届く。
「前のフェスの子たち、今度はペアで出るんだって!」
「なにそれ、公式じゃないんでしょ?」
「でも、なんか本物のアイドルよりヤバいってウワサ…」
陽菜は驚く。
(次は、二人組?)
一方、ライブハウスの楽屋。夜魅は天井を見上げていた。
「はあ?デュオ?」
バンド仲間がSNSのメッセージを見せる。
「夜魅、またグランプリやるって噂あるけど、今度はソロじゃないんだって?」
「誰と組むのさ~。アタシはバンドでいいってば」
けれど胸の奥で、何かが疼く。
(あの時。陽菜と一緒に立ったステージ、不思議な気持ちだった。誰かとなら、違う景色が見えるのかな)
蓮は小さなカフェで、ひとりノートパソコンを開いていた。
フォロワーから「次は誰かと組むの?」「月光のソリストのデュオ、見たい!」と、たくさんのメッセージ。
「誰かと一緒に、音楽を?」
月はひとりで昇るもの。そう信じてきた自分。
誰かと紡ぐ旋律は、想像出来ない。
美沙はマンションの自室。
鏡の前でダンスの型のトレーニング。
「デュオ?アタシに、そんなの向いてるかなぁ」
自分だけの輝き、誰にも渡さない。
でも、ハロウィンナイトで背中を押されたあの嵐の感覚が、まだ身体に残っていた。
「でも…、ぶっ壊すのも、誰かとならもっと面白いかも」
星はいつもの屋上、スマホを構えてセルフィーを撮る。
「やっほー、星だよ!次のフェス、デュオだってさ!誰か、アタシと組みたい子いる~?」
配信のコメントは「#星ちゃんデュオ希望」で溢れる。
だけど内心、胸がざわめいていた。
(誰かと組むって、寂しさも半分になるのかな。画面越しの友だちじゃなく、リアルに肩並べる相手…)
その夜。
陽菜は神社の境内で、ひとり鈴の音を聞いていた。
ふと、鏡の中から三女神が現れる。
「デュオグランプリ。この島で、絆の本当の力を見せてごらん」
タキリビメは扇を鳴らす。
「厳島神社は、わたしたち三姉妹のルーツ。そこで器が試されるの、悪くないわ」
イチキシマヒメは華やかに微笑む。
「独りで強くなるのも素敵。でも、誰かと手を取り合ってこそ生まれる美があるのよ」
タキツヒメは陽菜の肩にそっと手を置く。
「陽菜、あなたが誰と組み、どんな歌を紡ぐのか。私たちも楽しみです」
陽菜は不安とわくわくの狭間で、小さく頷いた。
(みんな、どう思ってるんだろう。二人で歌うって、やっぱり少し怖いな)
高天原、雲の切れ間に浮かぶ神々の庭。
厳島神社を見下ろしながら、三女神が集まっていた。
そばにはスサノオとツクヨミもいる。
タキリビメが口を開く。
「それにしても、デュオとは不思議ね。なぜ今回は、二人一組で競わせるのかしら」
イチキシマヒメが扇で口元を隠して微笑む。
「一人の美しさもいいけれど、誰かと重なるときだけ生まれる響きもあるものよ」
タキツヒメは、静かに海を見つめる。
「でも、ペアって難しいわ。衝突もすれば、すれ違いもする。相手を選ぶ勇気も、手を離す痛みも、独りとは比べものにならない」
そこへスサノオが、ふっと笑う。
「一人じゃ暴れきれない時もあるだろ?オレは好きだぜ、誰かとぶつかるのもな。でも、なんで二人なんだろうな?」
ツクヨミは、淡く光る月を見上げながら呟く。
「夜空の星も、月と太陽も。いつも二つが並ぶことで世界が巡る。孤独な光より、交わる瞬間に奇跡が宿るのかもしれぬ」
三女神もスサノオも、しばし黙り込む。
静かな問いが、空に満ちていく。
そして、雲間から金色の光が差す。
アマテラスが現れる。
「おやおや、みな真面目に悩んでおるのう」
その声に、場の空気がやわらぐ。
タキリビメが問う。
「アマテラス様、なぜデュオなのですか?」
アマテラスはしばらく空を眺め、やがて微笑む。
「光は一筋でも尊いが、二筋が重なれば色となる。音も然り、声と声が重なりあって初めて調べとなる。人も神も、ひとりきりでは届かぬ場所があるものじゃ」
イチキシマヒメが小さく頷く。
「ひとつの美しさだけで満たされるなら、この世界に恋も憧れも生まれはしない。だから、二つの光は、ぶつかり、溶け合い、新しい景色をつくるのですね」
アマテラスはやわらかく微笑む。
「そのとおりじゃ。絆というものは、孤独を恐れぬ者たちだけが手にできる宝。そして今、歌も踊りも、舞台も。二人の間でこそ、真の奇跡となって花開く」
スサノオが笑う。
「なんだよ、それ。ちょっと気障すぎじゃねーか?」
アマテラスは愉快そうに口角を上げる。
「それでいいのじゃ。神も人も、絆の中でしか見つからぬ光がある。このデュオグランプリで、それを見せてもらいたいだけじゃ」
ツクヨミが、そっと月明かりを浴びて言う。
「答えは、舞台の上でこそ現れる。二人でしか開けぬ扉。…その向こうの光を見てみたい」
金色の風が、神々の間を通り抜ける。
なぜデュオなのか。
その問いに、誰も明確な答えは持っていない。
だが、このわからなさこそが、きっと彼女たちの物語に新しい意味を与えてくれる。
静かに、舞台の幕が再び上がろうとしていた。
同じ頃、プロダクションの会議室。
「新しい例のグランプリが動くらしいぞ」
「前回のレベル、相当高かったからな。新人スカウトは全員注目だ」
「だが、あくまで非公式。表向きはお祭りだ」
プロの業界人は冷静だが、一部の敏腕プロデューサーやネットメディアは、
「ネットの地下アイドルから、本物のスターが生まれる時代かも」
「人間もAIも、才能だけが光る場だ」と盛り上がっていた。
ネットやSNSでは、前回覇者・天野光の正体や、
「厳島神社という聖地でなぜ開催されるのか?」という考察も拡散。
「もしかして、次は神様が動くイベントなんじゃ…?」
夜。
陽菜は自室のベッドで、スマホの画面を何度も見返していた。
「次は、誰と組むのが正解なんだろう」
三女神からメッセージが届く。
『陽菜。デュオは答えを選ぶんじゃない。誰かと答えを探す旅よ』
どこかで、夜魅も、蓮も、美沙も、星も、それぞれの夜を過ごしながら考えていた。
(もし、誰かとなら、もっと高く飛べるかも。でも、どうやって相棒を選ぶの?)
星は画面越しにこうつぶやいた。
「一緒に組む相手、どうやって決めるのかな。SNSで募集? それとも運命?」
SNSでは、ハッシュタグ「#デュオグランプリ」「#厳島決戦」「#神プロデュース」など、新たな火種が広がっていく。
厳島神社。
干潮の刻、海に浮かぶ社殿。
そこへ続く神々の橋が、今また架けられようとしていた。
三女神の視線も、天野光の微笑みも、次なるステージを見つめている。
誰と組むのか、どんな絆を選ぶのか、まだ誰も知らない。
第二回アイドルグランプリ、デュオの物語。
夜明けの光は、まだ、ほんの序章。
厳島神社の海に、静かな月光が降り注ぐ。
各地で、誰かがSNSを開き、画面の向こうのざわめきに耳を澄ませていた。
そのとき、ネットにひとつのニュースが駆け巡る。
《現役No.1アイドルグループ・プリンセスオーパーツ、デュオグランプリへ異例の参戦表明!?》
匿名掲示板が沸き、SNSのトレンドが一気に塗り替わる。
「…まさか、あの本物が来るの?」
「冗談でしょ?」
「公式が反応した!」
プリンセスオーパーツ、本物のトップアイドルが一体なぜ?
それは、地下と表舞台、神と人間、あらゆる垣根を揺るがす新たな波だった。
夜の静寂を切り裂くニュースの光が、この物語に、また新しい夜明けを告げようとしていた。
物語は、次のステージへ。
誰もが想像しなかった、伝説の始まりが静かに動き出す。
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