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雷舞ノ巫女(ライブノミコ)第27話「光を脱ぐ時間」

【物語あらすじ】

神の声が届かない時代に、歌だけが神域へ届いてしまった。
現代アイドルと八百万の神々が交差する物語、第29話。

第1話から読む


プリンセスオーパーツ(Princess Ooparts)
「人類が到達し得なかった、美の遺物」
アイドル文化の果てに現れた現役最強のトップグループ。

天堂 凛(エゴイストプリンセス)
グループを率いる絶対的リーダー。
光を纏う理想の偶像。
ハロウィンフェスで天野光の歌声に心を奪われる。

九鳳院 咲良(カルマプリンセス)
静かに勝利を描く知性派プリンセス。
眠たげな微笑の裏で、次の一手を組み立てる。

白鳥 雫(ナルシストプリンセス)
可憐な妹キャラに見えて、実は鋭い観察眼の持ち主。
言葉と歌で人の心に触れる存在。

***

完璧なステージが終わった。

歓声がまだ熱い。照明が落ちる。

三人のプリンセスは、最後まで“王女”の笑顔のまま袖へ消えた。

控室の扉が閉まった瞬間。

「……っはぁ」

天堂凛の呼吸が、やっと音になった。

「終わったぁ……」

「廊下、まだカメラ回ってるかもよ〜」

九鳳院咲良が、間延びした声で言う。

「大丈夫。ここは完全に裏だよ」

白鳥雫がイヤモニを外しながら笑った。

甘い声のまま、机の端の台本をさりげなく揃える。誰かの動線を邪魔しない癖が、身体に染みている。

控室というより、作戦司令室。

壁のモニターには分単位の予定が流れ、机の上にはドリンクと台本とアクセサリーケース。

華やかなトップアイドルの裏側は、驚くほど泥臭い。

スタッフが扉の外から畳みかける。

「次、十五分後に衣装チェンジです!」

「そのあとラジオ出演。生です!」

「戻ってきたら振り確認。振り直し一箇所増えました!」

このビルの中だけで三本。
廊下とエレベーターで回されるやつだ。

「了解」

凛は、笑顔を貼り直す速度が早い。

胸の奥に残った“終わったぁ”を、器用にポケットへしまう。

咲良はソファに沈み込んだまま、タブレットを開いた。

スケジュールを確認する指が、別の画面へ滑る。

「……よし、できた」

「え?」

雫が顔を上げる。

「できたって、なにが?」

「曲」

「えっ、今?」

「うん。今」

「……咲良ちゃん、それ、さらっと言うことじゃないよ」

咲良は悪びれず、眠たそうに言う。

「コード・リリカル用。二人で立つなら、二人の曲が要るでしょ」

デモが雫の端末に送られる。

雫はイヤホンを片耳だけ入れて、数秒聴いた。

「……うわぁ」

「なに」

「逃げ場、ないね」

「うん。逃がさない」

咲良の声はおとぼけに聞こえるのに、内容は冷静で容赦がない。

凛はアクセサリーを外しながら、デモに耳を澄ませ、数秒で答えを出す。

「咲良、これ、いい」

「ふーん」

咲良は褒められた顔をしない。
代わりに、わざとらしく肩を落とす。

「眠い」

「眠いのに作るのやめて」

「眠いから作れるの」

意味が分からないのに、なぜか納得してしまうのが咲良の怖さだった。

凛は雫を見る。

「作詞は雫だね」

「えっ」

「この曲、言葉が座る場所がある。雫がいちばん上手い」

雫は照れたように笑う。
妹っぽい顔のまま、芯だけ外さない。

「……任されちゃった」

「うん。でも、雫なら言える」

咲良が、さらっと追い打ちを入れる。

「言葉、雑だと死ぬ構造にしといた」

「ひどい」

「優しいよ。だって嘘が入りにくいもん」

凛がくすっと笑った。

「ふたりとも、相変わらずだね」

その一言で空気が少し軽くなる。

三人の間だけにある、少女っぽい温度が戻ってくる。

「凛ちゃんは?」雫が聞く。

「私は見守り係」

「出ないの?」

「今回はね。二人の番」

凛は胸を張る。
直後、アクセサリーケースを倒しかけて、咲良が無言で受け止める。

「ほら、そういうとこ」雫が笑う。

「今のは床が悪い」

「床のせいにするの、強いね」

「リーダーなので」

スタッフがもう一度扉を叩く。

「衣装室、行きます!」

「はい!」

三人は同時に立つ。迷いなく動く。

息つく暇もないのに、息切れに見えないのが、最強の異常さだった。

***

衣装室。

着替えは戦闘に近い。
髪がまとめられ、ピンが打たれ、リップが塗り直される。

ラジオブース。

凛は一秒で声色を切り替える。
雫は笑いながら間を作り、咲良は“ぼんやり顔”のまま急所だけ刺す。

戻って振り確認。

増えた一箇所を、三人は一度で揃える。
揃えるのが当たり前みたいに。

気づけば夜。

それでもスケジュールはまだ終わらない。

***

黒い車内。次の収録スタジオへ向かう移動。

窓の外、ネオンが流れる。
車内は静かだけど、誰も休んでいない。

咲良はイヤホンでデモの構造を微調整している。

雫はメモ帳に言葉を落としていく。
甘い表情のまま、人の心に刺さる言葉だけ拾っていく。

凛は台本を一度閉じ、スマホを開いた。

検索窓に打ち込む。あの夜の名前。

天野 光

関連ページは少ない。

それでも断片は拾えた。
短い情報が点のように並ぶ。

ハロウィンナイトフェス出演、優勝
天野陽菜の姉
19歳
大学1年
高校卒業後、三重へ
伊勢神宮…巫女

凛は、息を止めた。

(……巫女?)

芸能でも業界でもなく、神宮の白の中にいる。

(……東京じゃないんだ。なんで……?)

答えは出ない。
でも、出ないからこそ、確かめたくなる。

凛はスマホを伏せ、軽い調子で言った。

「ねえ。明日、私オフなんだ」

「珍しい」咲良が言う。

雫も目を丸くする。

「凛ちゃん、オフの日ってだいたい自主トレじゃなかった?」

「ね。奇跡」

凛はさらりと言う。

「だからさ、神様に会いに行ってくる」

「……えっ。凛ちゃんってそんなキャラだった?」

「たまには、ね。気になることがあると放っておけない性格だから」

咲良がぼそっと言う。

「凛、そういうとこだけ即決だね」

「リーダーなので」

胸を張って、凛は少しだけ声を落とす。

「……答えが出るかは、わからないけど」

車がスタジオ前で止まる。

ドアが開き、外の空気が流れ込む。

三人は、同じタイミングで“仕事の顔”に戻る。

廊下に出ると、スタッフが待っていた。

三人は流れるように分かれ、それぞれの持ち場へ散っていく。

凛が最後に振り返ると、雫が小さく手を振っていた。

甘い笑顔のまま、でも目だけはまっすぐ。

「……行ってらっしゃい、かな」

声は小さくて、たぶん凛にしか届かない。

でも、届けば十分だった。

凛は一瞬だけ、少女みたいに笑う。

知らないままじゃ前に進めない。

確かめないままじゃ追いつけない。

明日の目的地を、ひとつだけ決める。伊勢。

そして舞台は――伊勢神宮へ


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全話まとめ


#創作大賞2026
#ファンタジー小説部門

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