雷舞ノ巫女 (ライブノミコ) 第10話「天照らす者 」
AIアイドルカグヤのステージが終わった後も、会場はしばらく静まり返っていた。
まるで現実と幻想の境が、まだ戻っていないかのように。
スタッフの間ではざわめきが走る。
「すごいな…」
「AIがここまで感情を出せるのか」
そして観客の誰もが、その余韻を胸に残したまま、
次のアナウンスを待っていた。
やがて、MCの声が響く。
「それでは本日最後のステージ!特別招待枠より登場していただきましょう!」
「天野光(あまのひかり)!」
その名が響いた瞬間、陽菜は驚愕する。
(…え? 今、なんて?天野光――まさか…お姉ちゃん!?)
自分の胸に響くその名。
聞き間違えようがない。
それは、姉の名前だった。
「お姉ちゃん…、なんでここに…?」
ステージが暗転する。
静寂の中、ひと筋の光が天井から差した。
まるで天がその一点を選び照らすように。
そこに立つのは、純白の衣装に金の装飾をまとった少女――天野光。
その存在自体が、すでに現象だった。
髪は朝日のように揺れ、瞳には太陽の炎と慈愛の両方が宿る。
だが、彼女の表情はあくまで自然体。
特別な意図や誇りを誇示する様子はない。
ただ「そこに在る」だけで、舞台そのものが空気を変える。
(光自身も知らない。今、自分が神界と無意識に周波数を合わせていることを)
彼女が一歩踏み出すごとに、床のLEDが反応し、光の花が自然に咲き誇る。
腕を広げれば、空調や演出では説明できない温かな風が観客席を包み込む。
♪――この身、ひとひらの光として 闇を越え、君を照らす――♪
声が響いた瞬間、観客席の空気が変わる。
温度が上がり、風が生まれる。
ステージ上に、まるで見えない太陽が昇っていく。
カグヤの月光が静謐な幻想だったなら、光のパフォーマンスは生きた現象そのものだった。
彼女の腕がひらりと舞えば、そこに花が咲く。
髪がなびけば、柔らかな風が流れ、足元に光が落ちれば、空間そのものが呼吸する。
それは、まるで自然そのものが彼女に従っているようだった。
舞台裏のプロデューサーやスタッフも、技術を超えた奇跡を目の当たりにし、
「これ…どうなってるんだ?演出じゃないよな」
「むしろ、あの子の在り方が、空間そのものを変えてる」
と戸惑いの声が漏れる。
だが、その神々しい現象の裏では、
アマテラスの存在が微かに呼応していた。
高天原。
アマテラスは、静かに自身の器――光を見つめていた。
「見事なものじゃ。人の世に生まれ、無意識にわらわの周波数を捉えるとは」
タキリビメが呟く。
「アマテラス様、あれは…あなたの意思で動いているのですか?」
「否」
アマテラスは微笑む。
「光の意思ではなく、わらわの指示でもない。ただ器の在り方が、わらわの力と自然に共鳴し、現象を呼び寄せておるのじゃ。本人には、その自覚もないようじゃが」
タキツヒメが目を丸くする。
「神も意図しない交信。これこそが選ばれし器…」
「そうじゃ。奇跡とは、意図なき現象、作為なき光のことなのじゃ」
ステージ上。
光は、まるで太陽そのものが微笑むように、ただ一心に歌う。
♪――すべての影よ わたしの中で ひとつの朝となれ――♪
最後の一節を歌い終えた瞬間、本物の陽光が天井から降り注ぐように、観客全員の顔が、自然な輝きに包まれた。
静寂。
祝祭を超えた、誰にも説明できない現象だけが、会場に満ちていた。
数秒の静寂の後、嵐のような拍手と歓声が湧き起こる。
「…なんだ、あの子は」
「人間、なのか…?」
夜魅は腕を組みながら見つめる。
「あれが、陽菜の姉…?作られた神性じゃなく、持って生まれた奇跡…」
陽菜は涙をこらえきれず、立ち尽くしていた。
「お姉ちゃん、すごい。本当に…光そのもの…」
スタッフ席、
「これ、演出超えてね?次元が違うんだけど」
「あの子は、存在そのものが現象だ」
と、誰もがささやいている。
高天原では、アマテラスが穏やかに立ち上がった。
「太陽は、ただ照らすためにあるのではない。誰かの影を受け入れ、共に昇るためにあるのじゃ」
ツクヨミが頷く。
「ならば、あの光は人でありながら、神と並ぶ存在と言えるのかもしれぬ」
アマテラスは静かに笑った。
「そうじゃ。あの子が見せたのは、わらわの力ではなく、人が到達し得る神性という作為なき光そのものじゃ」
ステージ上では、光が最後に観客へと手を振る。
まぶしさの中で、彼女の声が響く。
「光は――誰のものでもない。誰もが、胸の奥に宿すもの。だから、今日という夜を忘れないで。」
その瞬間、夜空に一筋の流星が走った。
それはまるで、神々の祝福のように。
天野光という名を、その場に刻みつけていた。
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