4001回目の登頂、車椅子で流した涙。神戸・高取山『月見茶屋』100年の終止符
「もう一度あの山に登りたい」とか言い出した
神戸・長田の街を見下ろす高取山。その山頂近くで100年続いてきた「月見茶屋」が、ついにその歴史に幕を下ろすことになった。
2023年11月。一台の特殊な車椅子が、およそ車椅子が通るような場所ではない険しい参道を登っていた。
乗っているのは、もちろんニノさんだ。

かつてこの山を4000回以上も登り、月見茶屋を「我が家」のように愛した男。
数年前に病に倒れ、自由に動く脚を失った。
普通なら「思い出をありがとう」で終わる話だ。
でも、ニノさんは諦めてなかった。
「茶屋が閉まる前に、もっかい行きたい」
いや、ニノさん、車椅子やん。無茶言うなよ。
介護のプロとアウトドアのプロの「おせっかい」
そんなニノさんの「わがまま」を叶えるために、変な大人たちが集まった。
介護の知識はあるが登山は素人の「はっぴーの家ろっけん」チームと、山の険しさは知っているが介護は素人の「OUTDOOR LAB」チーム。
この異色の混成チームが、ニノさんの欲望を車椅子ごと背負い、一歩一歩、山道を押し上げた。


当然、道のりは最悪だ。
車椅子のタイヤが石に取られ、前にも後ろにも進まない。
結局、人力で担ぎ上げる場面も少なくなかった。
なんでニノさんのために、こんな岩場登らなあかんねん。
と、内心思っていたに違いない。

病床の旦那が放った、余計な(?)一言
ようやく目的地の月見茶屋に到着したとき、そこには予想外の光景が待っていた。 当初、茶屋を切り盛りしてきた女将さんは、夫の看病で店にはいないと聞いていた。
しかし、店の前にはニノさんが見慣れた、あの懐かしい顔があった。

「あいつ(ニノさん)がお前に会いたいんちゃうんか。行ってやれ」
病床に伏せっているはずの旦那さんが、奥さんの背中を押したらしい。
再会の瞬間、山頂にニノさんの嗚咽が響いた。


「高取山は逃げへんから、またおいで」
と言ったとか、言わなかったとか。
神戸に根付く「毎日登山」という文化。月見茶屋はその象徴。店は閉まっても、その文化と情景はこれからも消えない。
そして、一人のオッサンの欲望のために、大の大人が岩場を登ったという、不条理で最高な一日のもきっと忘れない。
そして、ニノさんやのに、ええ話になるのが悔しい。

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