「こんな田舎じゃ無理」と誰もが言った。父の農地に店を建てると決めた、ある「一瞬の閃き」の話。
前回の記事からの続きです。
異業種交流会をきっかけに、店舗を持たない「出張カフェ」の活動を始めた私。
※注:当時はこうした「イベント出店」自体が珍しく、私は保健所の許可も取らずにやっていましたが、本来はNG。今はイベント出店もメジャーになり、ルールも厳しくなってるので、管轄の保健所でお金を払って「臨時営業許可」を取る必要があります。諸条件あるので、店舗を持たない人が料理やお菓子を作って販売するのはハードルが高いかと。
(地域によって基準など異なるので問い合わせを)
でも、その出張カフェでただコーヒーを売っていたわけではありません。
私はそこで、開業後に店を支えてくれる「未来のお客様」とのご縁を作っていきました。
これは、お金も人脈もなかった私が、自分のお店を持つために仕掛けた「種まき」と、運命の場所を見つけるまでの話です。
「手書き」と「リスト」が最大の武器
出張カフェと同時に、私はフリーペーパーを創刊しました。
プレ創刊号こそ知り合いにパソコンで作ってもらいましたが、創刊号からはあえて「全部手書き&コピー」。
ライター志望だった私の「書くことへの情熱」と、手書きならではの温かみが、お客様との距離を縮めてくれました。
そして、この出張カフェには、売上よりも大事な「裏目的」がありました。
それは、「顧客リスト」を作ることです。
毎回アンケートを実施し、任意でお客様のお名前と住所を書いてもらう。
「実店舗ができたら案内状を送りますね」と約束する。
※場所の目処すらついてなかったのに、今考えると凄い自信ですよね(苦笑)。
そして、個人情報保護に厳しい現在では難しいかもしれません。そもそもこんなアナログじゃなく、メールやLINEの登録になるでしょうか。
一般的には、店ができてから(作っている途中から)「来てください」と宣伝を始めます。
でも私は、店ができる前に「行きます」と言ってくれるファンを作りたかったのです。
この時集めたリストが、のちに大きな財産となりました。
時代を先取りした「ブログ」戦略
当時はまだ珍しかった「ブログ」も、知人に作ってもらったホームページで始めました。
今でこそ開業準備をSNSで公開するのは当たり前ですが、当時はかなり稀な存在。
そのおかげで注目してもらえたのか、なんと地元の新聞などのメディアから3つも取材を受けることに。
「女性の起業」「カフェ開業」というテーマが、当時の社会で少しずつ注目され始めていた波にも乗ったのだと思います。
花屋さん、美容室、洋服屋さん……。
出張カフェを続けるうちに常連さんもでき、応援してくれる仲間も増えていきました。
「物件がない」という田舎の現実
アンケートによって、カフェを待ち望んでいる人はたくさんいる、と確信できた。
毎回通ってくれるファンもできたし、協力者も増えた。
いよいよ実店舗だ! と意気込んで物件探しを始めましたが、ここで地方ならではの壁にぶつかります。
「貸店舗が、ない」
私の地元は田舎すぎて、条件に合う賃貸物件が皆無だったのです。あっても広すぎて家賃が高いか、駐車場がないか。
途方に暮れる私に、工務店を営む親戚がある提案をしました。
「お父さんの農地に店を建てたらどうだ?」
そこは、田んぼと山しか見えないような場所でした。
人通りなんてない。車もほとんど通らない。
しかも、建物を一から建てるとなれば、初期投資は莫大になります。
「こんな田舎じゃ無理だ」
「誰も来てくれないよ」
両親も反対しましたし、何より私自身が一番そう思っていました。
ハイリスクすぎる。もっと街中でないと意味がない、と。
「辺鄙(へんぴ)な場所」が「絶景」に変わった日
物件探しは難航し、「このままでは一生開業できないかもしれない」という焦りが募り始めたある日。
私はたまたま、父の農地(候補地)の前を通りかかりました。
天気の良い日でした。
ぼんやりとそこから見える景色を眺めた瞬間。
私の中で、価値観がひっくり返る音がしました。
「……この景色、めちゃくちゃ綺麗!」
目の前に広がる田園風景、遠くに見える山並み、青い空。
今まで「何もない」と思っていた景色が、その日はとてつもなく贅沢なものに見えたのです。
「そうだ。通りすがりの人を待つ店じゃない」
「この景色を見るために、わざわざここまで来てもらえる店にすればいいんだ」
マイナスがプラスに変わった瞬間でした。
場所が決まると、霧が晴れたように開業計画が一気に進み始めます。具体的な図面が描けるようになったからです。
ついに場所が決まりました。
次に立ちはだかるのは、最大の難関「開業資金」です。
建物を新築するとなれば、当初の予算では到底足りません。貯金はほとんどゼロ。
ここから、私の人生最大のプレゼン。
国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)との戦いが幕を開けます。
(つづく)
