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フォロワー0人の謎アカウントが、私の未来を実況し始めた~第1話~

第1話:見えない観察者

朝の通勤電車。スマホの画面が、私の世界のすべてだった。

Twitterのタイムラインをスクロールしながら、
ふと自分のプロフィール画面を確認する。

フォロワー数:847人。昨日より2人減っている。
また誰かにフォローを外されたらしい。

胸の奥に小さな棘が刺さったような感覚。
たかが数字。そう自分に言い聞かせながら、
どうしても気になってフォロワー一覧を開く。

誰が去ったのか。何か気に障ることでも呟いたか。

「次は、新宿〜、新宿〜」

車内アナウンスに我に返る。
慌ててスマホをポケットに突っ込み、
人波に押し出されるようにホームへ降りた。

私の名前は佐藤美咲。
28歳、中堅広告代理店勤務。

特別な才能もなければ、際立った個性もない。
強いて言えば、SNSに費やす時間が人より多いくらい。

オフィスビルのエレベーターで、また画面を開く。
通知が3件。いいねが2つと、リプライが1つ。
昨夜投稿した夕食の写真への反応だ。

「美味しそう!どこのお店?」

知らない人からのリプライ。
プロフィールを確認すると、
フォロワー5万人を超えるグルメアカウント。

少し嬉しくなって、丁寧に店名と場所を返信する。
もしかしたら、この人がリツイートしてくれれば、
私のフォロワーも増えるかもしれない。

そんな淡い期待を抱きながら、オフィスのデスクに着いた。

「おはよう、美咲ちゃん」

隣の席の先輩、田中さんが声をかけてくる。

「おはようございます」

挨拶を返しながら、PCを立ち上げる。
メールチェックをしつつ、こっそりとTwitterアプリを開く。
さっきのグルメアカウントから返信が来ているかもしれない。

だが、通知はゼロ。
少しがっかりしながら、タイムラインを眺める。

フォローしている人たちの投稿が流れていく。
旅行の写真、ペットの動画、時事ニュースへのコメント。
みんな充実した生活を送っているように見える。

それに比べて私は……。

ふと、検索窓に自分の名前を入力してみる。
エゴサーチ。やめた方がいいと分かっていながら、
定期的にやってしまう悪癖だ。

「佐藤美咲」

検索結果に、見慣れない投稿が混じっていた。

『@future_watcher_00:
佐藤美咲、28歳。
今日も朝の電車でフォロワー数を確認。
847人。2人減ったことに落ち込む。
でも大丈夫、来週には900人を超えるから』

投稿時刻を見て、息が止まる。

今朝の7時32分。

私が電車でフォロワー数を確認したのは、
7時35分頃だ。

このアカウントは、私の行動を予測していたのか?
いや、たまたま似た名前の別人のことかもしれない。

震える指でアカウント名をタップする。

@future_watcher_00。
フォロワー0人、フォロー0人。
プロフィール欄は空白。
アイコンは真っ黒な正方形。
投稿は、さっきの1件だけ。

気味が悪い。でも、なぜか目が離せない。

もう一度、投稿を読み返す。

『来週には900人を超えるから』

本当だろうか。

ここ数ヶ月、私のフォロワーは850人前後で停滞している。
何を投稿しても、大きく増えることはない。
それが急に900人を超える?

「美咲ちゃん、ちょっといい?」

田中さんの声で現実に引き戻される。
慌ててスマホをデスクの引き出しにしまう。

「はい、なんでしょう」

「例の化粧品メーカーのプレゼン資料、
今日中に仕上げないといけないんだけど……」

仕事の話を聞きながら、頭の片隅では謎のアカウントのことが離れない。

昼休み。社員食堂でランチを食べながら、またスマホを取り出す。

あのアカウントをもう一度確認しようとTwitterを開く。
だが、いくら検索しても見つからない。

@future_watcher_00と正確に入力しても、
「該当するアカウントは見つかりませんでした」と表示される。

削除されたのか? 
それとも、私がブロックされた?

不安になって、別のアカウントからも検索してみる。
そう、私には複数のアカウントがある。

メインの実名アカウント、
趣味専用の匿名アカウント、
そして誰にも教えていない愚痴専用の裏アカウント。

日本のTwitterユーザーの多くがそうであるように、
私も用途によってアカウントを使い分けていた。

裏アカウントに切り替えて、検索する。

あった。

@future_watcher_00は存在していた。
そして、新しい投稿が追加されていた。

『@future_watcher_00:
美咲は昼休みに私を探す。
メインアカウントからは見つけられない。
でも裏アカウントなら見える。

そう、みさき@misaki_ura28、君のことだよ』

血の気が引いた。

みさき@misaki_ura28は、
私の裏アカウントの名前だ。
誰にも教えていない。

フォロワーも10人程度の、
本当に親しい友人しか知らないアカウント。

どうして知っている?

手が震えて、スマホを落としそうになる。
周りを見回すが、社員食堂にいるのは見慣れた同僚ばかり。

誰かが私を監視しているようには見えない。

画面を見つめていると、また新しい投稿が現れた。

『@future_watcher_00:
14時23分、美咲にメールが届く。
重要な仕事の依頼。
断れない相手から。残業確定』

投稿時刻は13時15分。
今から約1時間後の出来事を予言している。

馬鹿げている。未来が分かるはずがない。
きっと誰かのいたずらだ。私の同僚か、あるいは……。

「美咲〜、午後の会議、資料できてる?」

同期の由香が声をかけてくる。

「あ、うん。できてる」

動揺を悟られないよう、笑顔を作る。
でも、内心は混乱していた。

午後の仕事に集中できない。
時計を見ては、14時23分を意識してしまう。
14時20分になると、思わずメールソフトを開いて、
新着メールを確認する。

何もない。

14時21分。

14時22分。

やっぱり、ただのいたずか。
そう思った瞬間、

ピコン。

新着メールの通知音。

時計を見る。14時23分。

震える手でメールを開く。

差出人:営業部長 山田

件名:【至急】明日のプレゼン資料について

本文:美咲さん、急で申し訳ないが、
明日の重要クライアントへのプレゼン資料を
今日中に仕上げてもらえないか。

通常の3倍のボリュームになるが、
君しか頼める人がいない。
よろしく頼む。

営業部長からの依頼は断れない。
しかも「重要クライアント」という言葉が、
プレッシャーを倍増させる。

残業確定。

謎のアカウントの予言通りだった。

恐怖と好奇心が入り混じった感情が、
胸の中で渦巻く。

このアカウントは何者なのか。
なぜ私の未来を知っているのか。

トイレに駆け込み、個室で再びTwitterを開く。

@future_watcher_00の投稿が、また増えていた。

『@future_watcher_00:
美咲は恐怖を感じている。
でも、もっと強いのは好奇心。
大丈夫、これは悪い物語じゃない。

むしろ、君にとって必要な物語。
今夜21時47分、運命の出会い』

運命の出会い?

『@future_watcher_00:
ヒント。
相手は、君と同じように孤独を抱えている。

フォロワー数では測れない、
本当の繋がりを求めている人』

意味が分からない。
でも、なぜか心臓が高鳴る。

その後、必死で残業をこなした。
プレゼン資料作成に没頭することで、
謎のアカウントのことを忘れようとした。
でも、ふとした瞬間に思い出してしまう。

21時47分、運命の出会い。

時計は21時30分を過ぎていた。
オフィスには私を含めて数人しか残っていない。

21時40分、ようやく資料が完成した。
メールで山田部長に送信し、大きく伸びをする。

帰り支度をしながら、時計を確認。21時43分。

エレベーターに乗り込む。21時45分。

ビルを出る。21時46分。

何も起こらない。
やっぱり、ただの偶然だったのか。

信号待ちをしていると、隣に人が立った。
同じくらいの年齢の女性。
手にはスマホ。画面にはTwitterが表示されている。

彼女のつぶやきが聞こえた。

「フォロワー1000人超えたのに、
誰も本当の私を知らない……」

思わず声をかけていた。

「あの……」

女性が振り返る。

時計を見る。21時47分。

「私も、同じです」

なぜそんなことを言ったのか、
自分でも分からない。

でも、彼女の言葉が、心に突き刺さった。

女性は少し驚いた顔をしたあと、小さく微笑んだ。

「そうなんですか」

信号が青に変わる。
でも、二人とも動かない。

「よかったら……お茶でも」

彼女がそう言った。

頷く自分がいた。

近くのカフェに入り、向かい合って座る。

「私、木村遥といいます」

「佐藤美咲です」

お互いの素性を話し始める。
遥さんも広告業界で働いていること。

SNSでの発信に力を入れているけど、
虚しさを感じていること。

リアルな人間関係が希薄になっていく不安。

話しているうちに、不思議な既視感を覚えた。
まるで、ずっと前から知っている人のような。

「実は今日、変なことがあって」

謎のアカウントの話をしようか迷った。
でも、さすがに初対面の人に言うのは……。

その時、遥さんのスマホが震えた。

「あ、ごめんなさい。ちょっと……」

彼女が画面を見て、顔色が変わった。

「これ……」

差し出された画面を見て、私も息を呑んだ。

『@future_watcher_00:
美咲と遥、運命の出会いを果たす。
これは始まりに過ぎない。

明日の朝、美咲のフォロワーが異常な増え方をする。
そして気づく。何かがおかしいと』

投稿時刻は20時15分。私たちが出会う1時間以上前。

「あなたも、このアカウント知ってるんですか?」

遥さんが震え声で聞いてきた。

「私のところにも、今日から現れて……」

二人で顔を見合わせる。

これは偶然じゃない。何か大きな力が働いている。

「他の投稿も見てみましょう」

遥さんが提案した。
@future_watcher_00のプロフィールページを開く。

投稿が増えていた。
それも、大量に。

『@future_watcher_00:
物語は加速する。
美咲のフォロワーが900を超えるとき、
真実の扉が開く』

『@future_watcher_00:
遥もまた、選ばれし者。
フォロワー1000人の壁の向こうに、
本当の世界が待っている』

『@future_watcher_00:
二人は気づいていない。
自分たちが既に別の世界線にいることに』

世界線?

『@future_watcher_00:
明日、美咲は気づく。
周りの人間の様子がおかしいことに。
みんな、まるで脚本通りに動いているかのよう』

背筋が凍った。

「これって……」

遥さんが言いかけた時、
カフェの照明が一瞬、点滅した。

ほんの一瞬。
でも、その瞬間、店内の他の客の動きが、
まるでコマ送りのように見えた。

「今の、見ました?」

「ええ……」

恐怖で手を握り合う。

スマホを見ると、また新しい投稿。

『@future_watcher_00:
ようこそ、観測者たち。
君たちは選ばれた。

フォロワー0人の私が、
なぜ君たちの未来を知っているか。

答えは簡単。私は未来から来たのではない。
私は、君たちを見ている』

画面が突然真っ暗になった。

そして、一文字ずつ、ゆっくりと文字が浮かび上がる。

『私は、君たちの物語の作者だから』

その瞬間、世界が歪んだ。

(第1話 完)

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