フォロワー0人の謎アカウントが、私の未来を実況し始めた~第2話~
1話を読んでいない方はこちらからどうぞ
第2話:脚本のない朝
目覚めた瞬間、昨夜の出来事が夢だったのではないかと思った。
ベッドの中で天井を見つめる。
いつもの天井。いつもの部屋。
窓から差し込む朝日も、いつもと変わらない。
でも、枕元のスマホを手に取った瞬間、現実に引き戻された。
通知が異常な数になっている。
Twitter:999+、Instagram:500+、LINE:87件。
何が起きた?
震える手でTwitterを開く。
フォロワー数を見て、息が止まった。
1,247人。
昨日の朝は847人だった。
一晩で400人増えている。
タイムラインを確認すると、
私の昨日の投稿——
出勤前に撮った何気ない朝食の写真——
が異常な数のリツイートをされていた。
リツイート:2,847件 いいね:5,923件
ありえない。私は有名人でも、インフルエンサーでもない。
ただの会社員の朝食写真が、なぜこんなに拡散されているのか。
リツイートしたアカウントを確認してみる。
知らない人ばかり。
しかも、プロフィールを見ると、みんなバラバラな属性だ。
主婦、学生、サラリーマン、経営者、アーティスト。
共通点が見当たらない。
ふと、あのアカウントのことを思い出す。
@future_watcher_00。
検索してみるが、やはりメインアカウントからは見つからない。
裏アカウントに切り替える。
あった。そして、新しい投稿の数に驚愕した。
昨夜から今朝にかけて、100件以上の投稿がされていた。
最新の投稿から読んでいく。
『@future_watcher_00:美咲、おはよう。
フォロワー1,247人。予言より早いペースだ。
世界線が加速している』
『@future_watcher_00:7時23分、
美咲は朝食を食べながら違和感に気づく。
トーストの焼き加減が完璧すぎる。
コーヒーの温度も、ちょうどいい。
まるで、誰かが彼女の好みを完全に把握しているかのように』
時計を見る。7時20分。
キッチンに向かい、いつものようにトーストを焼き、コーヒーを淹れる。
トーストが焼き上がる。
完璧な焼き加減だった。
いつもは少し焦げたり、生焼けだったりするのに。
コーヒーを一口飲む。
ちょうどいい温度。
熱すぎず、ぬるすぎず。
7時23分。
背筋が凍った。
慌ててTwitterに戻る。
過去の投稿を遡って読んでいく。
『@future_watcher_00:世界線シフト完了。
レベル1からレベル2へ。
美咲と遥は、シナリオの外側に立つことを許可された』
『@future_watcher_00:
ただし、完全な自由ではない。
彼女たちは観測者であり、同時に登場人物でもある』
『@future_watcher_00:
他の人間たちは、まだスクリプトの中にいる。
彼らの行動、言葉、すべてが予定調和』
部屋を見回す。
何も変わっていないように見える。
でも、確かに何かが違う。
空気の質感、光の屈折、すべてが少しだけ人工的に感じられる。
着替えて、出勤の準備をする。
ふと鏡を見て、また違和感を覚えた。
顔は同じ。髪型も同じ。
でも、なぜか「完璧」に見える。
寝癖ひとつない。
肌も、まるでファンデーションを塗ったようになめらか。
でも、まだ化粧はしていない。
LINEを確認する。遥さんからメッセージが来ていた。
『遥:おはよう。あなたも気づいた? 何かがおかしい』
『美咲:気づきました。世界が……なんというか』
『遥:人工的?』
『美咲:そう! それです』
『遥:駅で待ち合わせしない? 一人でいるのが怖い』
同意して、いつもより30分早く家を出た。
マンションのエレベーターで、
隣の部屋の住人と一緒になった。
いつも挨拶を交わす程度の関係だ。
「おはようございます」
住人の田村さんが、満面の笑みで挨拶してきた。
「今日はいい天気ですね。
気温は22度、湿度45%、降水確率0%。
絶好の外出日和です」
まるで天気予報を読み上げているような口調。
そして、笑顔が不自然に固定されている。
「そ、そうですね」
エレベーターを降りて、早足でマンションを出る。
通りを歩いていると、さらに異常な光景を目にした。
信号待ちをしている人たちが、全員同じタイミングで信号を見上げた。
まるで振り付けされたダンスのように。
青になると、全員が同じ速度で歩き始める。
歩幅まで揃っている。
私だけが、そのリズムから外れていた。
駅に着くと、遥さんが既に待っていた。
彼女も青ざめた顔をしている。
「見ました? 人々の動き」
「ええ……まるでNPCみたい」
NPC——ノンプレイヤーキャラクター。
ゲームに出てくる、プログラムされたキャラクターたち。
「私のフォロワーも異常に増えてて……」
遥さんがスマホを見せる。
彼女のフォロワーは2,156人になっていた。
昨日は1,000人ちょっとだったはず。
「@future_watcher_00も、すごい数の投稿してるし」
二人で投稿を読み返す。
その中に、不気味な一文を見つけた。
『@future_watcher_00:
レベル2の世界では、フォロワー数が現実改変力を表す。
1,000人を超えると第一段階、5,000人で第二段階、
10,000人で……それは、まだ教えられない』
現実改変力?
「とりあえず、会社に行きましょう。普通に振る舞って」
遥さんの提案に頷く。
電車に乗り込むと、また異様な光景が広がっていた。
乗客全員が、スマホを持っている。
そして全員が、同じ角度で画面を見つめている。
親指の動きまでシンクロしている。
まるで、同じアプリを同じように操作しているかのよう。
こっそりと隣の人の画面を覗き見る。
Twitter。
そして、見ているのは私のアカウントだった。
ゾッとして、車内を見回す。
確認できる範囲で、少なくとも20人が私のアカウントを見ている。
「遥さん……」
小声で呼びかけるが、彼女も気づいていた。
自分のスマホを見せてくる。
遥さんのフォロワーも、
リアルタイムで増え続けている。
2,234、2,235、2,236……。
新宿駅で降りる。
いつもの朝の殺人的な混雑。
でも、今日は違った。
人々が道を開けてくれる。
正確には、私と遥さんの周りだけ、不自然に空間ができる。
まるで見えないバリアがあるように、誰も近づいてこない。
「これって……」
「私たちを避けてる?」
でも、人々の表情は相変わらず無表情で、
私たちを見ているようには見えない。
ただ、プログラムされたように避けているだけ。
オフィスビルに着いて、遥さんと別れる。
彼女は別のビルで働いているらしい。
「また連絡します。気をつけて」
「美咲さんも」
エレベーターで自分の会社のフロアへ。
オフィスに入った瞬間、異様な雰囲気に包まれた。
全員が一斉に振り返り、満面の笑みで迎えてくれた。
「美咲さん、おはようございます!」
シンクロした挨拶。
まるで練習したかのような完璧なタイミング。
「お、おはようございます……」
自席に向かう間、同僚たちの視線を感じる。
でも、振り返ると、みんな自分の仕事をしている。
デスクに座ってPCを立ち上げる。
メールボックスを開いて、また驚愕した。
受信メール:347件。
全て、私のSNS投稿を褒める内容だった。
「美咲さんの朝食写真、素敵でした!」
「フォローさせていただきました!」
「これからも投稿楽しみにしています!」
差出人は、同じ会社の人間ばかり。
普段ほとんど話したことのない他部署の人まで。
Twitterを確認する。フォロワー1,598人。
さらに増えている。
そして、@future_watcher_00の新しい投稿。
『@future_watcher_00:
フォロワー1,500人突破。
第一段階クリア。
美咲の周囲の現実が、さらに歪み始める』
『@future_watcher_00:
10時15分、重要な選択を迫られる。
受け入れるか、拒否するか。
どちらを選んでも、物語は進む』
時計を見る。9時30分。
45分後に何が起きるのか。
仕事に集中しようとするが、無理だった。
同僚たちの動きが気になって仕方ない。
観察していると、恐ろしいことに気づいた。
全員が、10分ごとに同じ動作を繰り返している。
田中さんはコーヒーを飲む。
山口さんは背伸びをする。 鈴木さんは資料をめくる。
10分経つと、また同じ動作。
完全に同じタイミング、同じ角度で。
まるで、ループしているかのよう。
10時10分。
緊張で手が震える。
10時14分。
部長が私のデスクに近づいてくる。
10時15分。
「佐藤さん、ちょっといいかな」
山田部長が、いつもと違う真剣な表情で立っている。
「はい」
「君のSNSアカウント、うちの会社の公式アンバサダーにならないか?」
予想外の申し出に言葉を失う。
「最近の君の投稿の影響力は素晴らしい。
会社としても、その力を活用したい。
もちろん、特別手当も出る。
月額30万円を考えている」
月額30万円。
今の給料にプラスしたら、相当な額になる。
でも、これは罠かもしれない。
@future_watcher_00の言う「選択」がこれなのか。
「少し、考えさせていただけますか」
「もちろん。でも、今日中に返事が欲しい。
このチャンスを逃すのはもったいない」
部長が去った後、スマホを確認する。
『@future_watcher_00:
選択肢A:受け入れる
→フォロワー爆発的増加、でも自由を失う』
『@future_watcher_00:
選択肢B:拒否する
→会社での立場悪化、でも真実に近づく』
どちらを選ぶべきか。
その時、LINEに遥さんからメッセージ。
『遥:大変! 私も会社から同じような申し出が! どうする?』
偶然とは思えない。
『美咲:罠かもしれません』
『遥:でも、断ったら……』
『美咲:お昼に会いませんか? 相談しましょう』
昼休み、約束した喫茶店で遥さんと会う。
店に入った瞬間、また違和感。
客が全員、同じメニューを頼んでいる。
コーヒーとサンドイッチのAセット。
「いらっしゃいませ。Aセットでよろしいですか?」
店員が聞いてくる前に、メニューも見ずに言ってくる。
「いえ、メニューを……」
「Aセットがおすすめです。
皆様に大変ご好評いただいております」
店員の笑顔が不気味なほど固定されている。
結局、Aセットを頼んだ。
「これ、どんどんおかしくなってません?」
遥さんが小声で言う。
「ええ。まるで、
世界が私たちに合わせて書き換えられているような」
「フォロワー数も、もう2,500人超えちゃって……」
二人でスマホを見つめる。
数字がリアルタイムで増えていく。
「@future_watcher_00の正体、知りたくないですか?」
遥さんの問いに頷く。
「でも、どうやって?」
その時、@future_watcher_00の新しい投稿が現れた。
『@future_watcher_00:
二人が真実を求めるなら、
今夜0時、渋谷スクランブル交差点。
フォロワー3,000人以上が条件。
そこで、次のレベルへの扉が開く』
『@future_watcher_00:
警告。レベル3に進むと、もう後戻りはできない。
NPCには戻れない。それでも進む?』
顔を見合わせる。
「行きますか?」
「行きましょう」
午後の仕事時間、フォロワーは順調に増え続けた。
何を投稿しても、即座に拡散される。
そして気づいた。
私の投稿内容が、現実に影響を与え始めている。
試しに「今日は社内でドーナツの差し入れがあるといいな」
と投稿してみた。
30分後、総務部からドーナツが配られた。
偶然?
「会議室のエアコン、効きすぎて寒い」と投稿。
10分後、温度が調整された。
恐怖と興奮が入り混じる。
これが「現実改変力」なのか。
夕方、山田部長に返事をした。
「申し訳ありません。辞退させていただきます」
部長の顔が一瞬、機械的に歪んだ。
まるでバグったプログラムのように。
「それは……残念だ。君の将来にとって、大きな損失になるだろう」
そのセリフも、まるで用意されていたかのように平坦だった。
退社時刻。
フォロワー2,897人。
3,000人まであと少し。
遥さんと渋谷で待ち合わせる約束をして、一度家に帰った。
部屋に入ると、また異変に気づく。
家具の配置が微妙に変わっている。
いや、変わっているのではない。
「完璧」になっている。
風水的に理想的な配置というか、
雑誌に出てくるようなモデルルームのような。
冷蔵庫を開けると、好きな食べ物ばかりが綺麗に並んでいた。
賞味期限も全て新しい。
誰が?
いや、「何が」と言うべきか。
シャワーを浴びて、着替える。
鏡を見ると、また完璧な自分がいる。
23時、家を出る。
フォロワー3,156人。
条件クリア。
渋谷へ向かう電車の中、
他の乗客は全員眠っているように見えた。
目は開いているが、焦点が合っていない。
渋谷駅に着く。
改札を出ると、人の波に驚く。
金曜の夜の渋谷。
普通なら混雑しているはずだが、なぜか人がまばら。
スクランブル交差点に向かう。
遥さんが既に待っていた。
「来ましたね」
「ええ」
時計を確認。23時55分。
交差点を見渡す。
信号が変わるたびに、少ない人数が機械的に渡っていく。
23時58分。
人が完全にいなくなった。
まるで、舞台がセットされたかのよう。
23時59分。
スマホが震える。
『@future_watcher_00:準備はいい?』
0時00分。
世界が止まった。
信号も、風も、すべてが静止した。
そして、目の前の空間が歪み始めた。
(第2話 完)
第3話のリンクはこちら
ここまで購読ありがとうございます!
他の記事も是非購読してみて下さい。
あなたにとっての幸せレシピ揃っています。
幸せレシピ|サイトマップリンク
いいなと思ったら応援しよう!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「変わりたい」と思う気持ちに寄り添える記事を、これからも書き続けたいです。
もし記事が心に響いたら、サポートいただけると本当に嬉しいです。
全て、より良い記事作りに使わせていただきます。