📘 心理ショートショート#40『八咫烏が照らすほうへ』ー風まかせ文芸部ー
「向日葵ってさ、太陽の方ばかり向くんだって」
そう言ったのは、となりの席の蒼汰だった。
彼はいつも、誰かのことを見ているようで、どこか遠くを見ているような目をしていた。
夏の終わり、神社の境内で偶然、彼とふたりきりになった。
向日葵畑の脇に座って、蒼汰はぽつりとつぶやいた。
「うち、代々“八咫烏”の血が流れてるんだって。導きの鳥ってやつ」
「……信じてるの?」
「信じてない。でも、誰かの“道しるべ”になれたらいいなって思うんだ」
蒼汰は笑ったけれど、その目はいつもよりずっとまっすぐで。
私はふと、自分がどんな表情をしているか気になって、俯いた。
あのときの風が、まだ胸の奥で吹いている。
帰り道、彼が私にだけ囁いた。
「実はね……ずっと君のこと、照らしたかった」
それは、向日葵のような言葉だった。
まっすぐで、あたたかくて、どこにも隠れ場所のない告白。
私はただ、うなずくしかなかった。
あれから、彼の姿は見ない。
けれど、夏の空のどこかで、八咫烏が今も私の行く先を見ている気がする。

💬 神楽坂先生のひと言
「まっすぐな想い」は、時に目を背けたくなるほど強くて純粋。
でも、そんな誰かの“照らす気持ち”に背中を押されて、人は前に進めるのかもしれないね。
👩🏫 神楽坂先生について
学園で国語を教える、冷静で理知的な女性教師。
また、心理学のエキスパートでもある。
恋愛相談の名手としても知られ、的確な言葉とちょっとした毒舌で、
生徒たちの“心のモヤ”を言語化してくれる存在。
もうひとつの顔は、匿名作家 綾瀬 心葉(あやせ・ここは)。
心理学とショートショート文学を融合させた物語作家として、
読者の心を5分でほどくショート作品を連載中。
このシリーズは、そんな彼女が“もうひとつの顔”で描く、
心の機微をテーマにしたショートショート集。
曖昧な関係、言えなかったひとこと、読まれなかったメッセージ──
そんな誰にでもある“感情のほつれ”を、物語として静かにすくい取る。
物語の最後には、神楽坂先生からの“ひと言”も。
感情をことばにすることで、少しだけ心が軽くなる。
そんな時間を、あなたにも。
「感情に名前をつけると、心は少しだけ軽くなるのよ」
🔖 シリーズのご案内
この物語は、
📘 「神楽坂先生の心理ショートショート」 シリーズの一編です。
たった5分で、心が少しほどける話。
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