カーニバル デュッセルドルフ 第5の季節
11月。
精霊が眠りから目覚め、カーニバルが始まる。
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カーニバルが最高潮を迎えるのは2月。
毎年日付は違うが、今年は2月16日(木)から22日(水)の1週間。
なぜ毎年日付が違うかは、イースターが毎年変わる事に由来する。
イースターの定義は、春分の日以後の満月より後にくる最初の日曜日。
そして、イースターから46日前がカーニバルと定められている。
この1週間をデュッセルドルフでは、春夏秋冬以外の『第5の季節』と呼ぶほど大切にしている。
カーニバルを盛大に祝う都市はそれほど多い訳ではなく、デュッセルドルフ、ケルン、マインツが3大都市。
他の都市に住む方々は、カーニバルをバカ騒ぎだと冷笑する傾向もあるが、私はカーニバルが大好きだ。
この1週間の予定を、時系列に見ていく。
2月16(木)は女性のカーニバルの日Altweiberfastnacht。
その名の通り、この日は女性が権力を握る日。
市庁舎前に女性が集まり、11時11分に市長から市庁舎の鍵を取り上げる。

同僚のおばさまは熱狂的なカーニバルファンで、仕事中に市庁舎に行き、会社に戻ってその様子を詳細に語ってくれる。
上司も、それを窘めることはしない。
だって、その日は女性の日だから!
彼女がビールを飲んで上機嫌でオフィスに帰ってきても、困ったなぁと優しく笑うだけだ。
だって、その日は女性の日だから!
友達の会社では、11:11になると、女性にだけシャンパンが配られるそうだ。
道ですれ違う人々は、Helau!と声を掛け合う。
ケルンでは、Alaafだ。
その後に会社で起こる出来事は?
女性が、男性のネクタイを次々に切るのだ!
そして、ネクタイの代わりに頬にキスを贈る。
入社した年、前述のおばさまにトイレに連れて行かれ、真っ赤な口紅を塗られた。
さあDito、これからみんなのネクタイを切るわよ。
キスの跡が残るように、しっかりキスするのよ!
おばさまは、おおはしゃぎ。
内容を聞いていたとはいえ、私はやっぱり恥ずかしい。
みんなやってきた道よ!と、ハサミを手渡される。
言われるがまま次々にネクタイを切り、頬へキスを贈る。
その間ずっと、おばさまは私の傍にぴったりついて、シャッターチャンスを狙っている。
口紅の跡が残っていないからやり直し!と、おばさまはカーニバルの総監督として、次々に指令を出す。
納得の写真が撮れたら、再び真っ赤な口紅を塗られ、次の餌食を探しに行く。

会社では、ベルリーナーと呼ばれるジャム入りドーナッツが用意される。
ジャムだけでなく、Eierlikörというアルコール入りもあり、アルコールが苦手な同僚がうっかり食べてしまい、真っ赤な顔で仕事をしていた事もあった。

午後遅い時間になると、休憩室に軽食と大きなビール樽が用意され、みんなが仕事を切り上げビールを飲み始める。
カーニバル音楽が大音量で流され、踊りはじめ、仕事などしていられなくなる。
私は、カーニバルのメインの薔薇の月曜日よりも、会社のみんなでお祝いするこの日のほうがずっと好きだ。
朝の電車の中から、みんなが仮装している。
この日に何か問題が起きると、面白い。
仮装で滑稽な格好をしているのに、電話口で真剣に謝罪している姿を見ると、思わず笑ってしまうのだ。
お客様の中には、わざわざ私の会社に来てくれるかたもいらっしゃった。
いつもお世話になっているので、遠慮なく切ってくださいと、ネクタイを差し出された。
そして、キスが欲しいからここまで来たわけじゃないですよ、とニヤリとするお客様。
この風習を逆手に取り、こんなリクエストをしてくるなんて、一本取られた!と笑ってしまった。
2月17日(金)はカーニバル行事はないが、前日にたくさんお酒を飲むことを予定している同僚は、必ず有給休暇を申請する。
翌日を気にすることなく、はしゃげる訳だ。
2月18(土)は子供達のカーニバルの日。
お気に入りの仮装をし、街を歩く姿が可愛らしい。
子供の頃からカーニバルが身近にあるから、大人になっても好きな人が多いのかもしれない。
2月19日(日)はカーニバル・サンデーと呼ばれ、街では仮装パーティーが開かれる。
2月20日(月)は、カーニバルのメイン
薔薇の月曜日Rosenmontag。
街は仮装した人で溢れ、デュッセルドルフの多くの企業は、この日をお休みにしている。
近隣の街やカーニバルのない地域からも、人々が集まってくる。
デュッセルドルフは、毎年70万人もの訪問者を迎えるそうだ。
クリスマスが終わると、カーニバル用のコスチュームが売り出され始める。
今年は何の仮装をしようかと悩むのが楽しい。
みんなが一生懸命に、真剣にバカ騒ぎを楽しむのだ。
お堅いイメージのドイツ人が、ここまではしゃぐのを見るのは、本当に楽しくて仕方ない。
たくさんの山車から、お菓子やチョコ、飴などが節分の豆のように配られ、カーニバルの中心地ケーニヒスアレーはお祭り騒ぎとなる。
写真の山車は、2020年の様子。
2021年はキャンセル。
2022年は5月に延期されたが、開催されなかったので、事実上のキャンセル。
今年は3年ぶりの開催だ。
デュッセルドルフの山車は、社会的風刺を基に作られるものが多い。


2月21日(火)はイベントはないが、お休みを取る同僚が多い。
理由は同じ。
飲み過ぎてしまうから翌日は起きられない、という事だ。
2月22日(水)は灰の水曜日。
11月11日、カーニバル開幕時に目覚めた精霊ホッペディッツを象った人形が焼かれ、灰になることに由来する。
みんなを狂気させたカーニバルの精霊は、次の年までマスタードの壺の中でおやすみだ。
これで、11月から始まったカーニバルがようやく終わる。
そして、この日から46日後が、復活祭イースター。
イースターまでは、肉を断つ断食期間であり、また日ごろの行いを悔い改める期間。
カーニバルは、断食期間に入る前に肉に感謝する行事。
クリスマスが終わった後のドイツの冬は、暗く寒く、そして長い。
会社に着く頃は、まだ外が真っ暗。
そして、会社を出る頃も真っ暗だ。
太陽の光を全く浴びる事無く、数日が過ぎてしまうことすらある。
それでも、カーニバルがあるお陰で、私達はその日を楽しみにし、浮かれ騒ぎ、暗い冬を越える力に変える。
以前、北ドイツフリース地方の人は渋いイメージがあると書いた事があるが、デュッセルドルフやケルン地域の人は、陽気だと形容される事がある。
それはもしかして、カーニバルにも関係しているのではないだろうか。
カーニバルが終わってからイースターまで、肉を食べない人もいらっしゃるし、チョコや飴など甘いものを我慢するという代用断食をする人もいる。
イースターが来る春まで、暗い冬を、そのように自分と向き合いながら何とかやり過ごす。

ドイツに来たばかりの時は、様々な行事を知らなかったので、おばさまからたくさんの事を教わった。
すでに定年を迎えたおばさま。
仕事を辞めて普段は何をしているの?と聞いた時の返答に、思わず笑ってしまった。
Dito、私は年金受給者なのよ!
やることがありすぎて、時間が足りないわ!
ご主人と一緒に庭の手入れをし、家の修復をし、お孫さんの遊び相手になる。
仕事をしていた時よりも毎日が忙しいと、おばさまは嬉しそうに言う。
彼女は、いつもエネルギーに満ち溢れている。
カーニバルを愛する情熱が、いつまでも彼女を生き生きとさせているのかもしれない。
カーニバルには毎年彼女にHelau!とメッセージを送る。
そして私も、彼女のように歳を重ねていきたいと思うのだ。
さぁ、今年はどんな山車が見られるのだろう?
3年ぶりのカーニバルは、私達を例年以上に熱狂させる事だろう。
今から楽しみだ!

