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恋愛小説【第16話】あの日、何も持ってなかったけど(あの日から続くもの)

【第4章】見据えるもの

あの日、届かなかった想いを、
僕はまだ胸の奥で握りしめている。

手を伸ばしても届かないなら、
今度は、自分の足で近づけばいい。

悔しさも、焦りも、
いつかは誰かを支える力になると信じて。

失った痛みの向こうに、
新しい光が、確かに見えていた。


📖前回のお話(第15話)

夏の試合の敗北を引きずり、
キャプテンとして結果を求めるあまり焦り続けていた陽翔。
そんな陽翔の変化に気づいた一生は、
部活帰りの夜道で、彼の本音を静かに引き出していった。

陽翔が“誰も特別にしない”ようにしてきた理由。
中学で受けた傷、そして菜桜への想い。
それでも彼女は陽翔を否定せず、
「無いものより、あるものを数える」と言葉をくれた。

その言葉と、一生の変わらない支えに背中を押され、
陽翔はようやく――
「自分を好きになれるように変わりたい」と決意を固めた。



🧑‍🤝‍🧑登場人物紹介

🧁 長谷川 菜桜(なお):パティシエ志望の高校2年生。お菓子作りが得意。夢はフランスに行くこと。
🏐西岡 陽翔(ひろと):バレー部。恋に不器用で、ちょっと奥手。友達は多く社交的。
🌟中森 大輝(だいき):菜桜の幼馴染。元バレー部部長。3年生。先輩としても信頼され、男女問わず人気がある。
🎭佐々木 一生(いっせい):陽翔の親友。ふざけてるけど、いいヤツ。
🎧松田 彰(あきら):陽翔&一生とつるむ落ち着き系ツッコミ担当。ニヤニヤしながら恋を見守る茶々入れ役。


【第16話】あの日から続くもの

🕛️ふたりだけの昼休み

冬の陽射しが柔らかく差すなか、購買へ向かって3人で廊下を歩いていた。
途中で顧問に呼ばれ、陽翔はそのまま体育館の教官室へ向かっていく。

残された彰は購買でパンを買い、
一生と合流して部室棟横の外のベンチに並んで腰を下ろした。
陽翔を待ちながら昼休みを過ごすことにしたのだ。

夕方には息が白くなるほど冷え込む季節だが、
昼の陽射しはまだどこか名残惜しく、外で食べるには十分あたたかい。

「なぁ、陽翔さ、最近長谷川さんのこと避けてる?少し、変だよな?」

彰が購買で買ったコロッケパンを齧りながら、ぽつりと呟いた。

「あー…吹っ切れたんだよ。やっとな。」

一生は牛乳をズズッと飲み、天を仰ぎながら答えた。
その横顔には、どこか引っかかりを抱えたような影が落ちている。

「え?長谷川さんのこと、諦めたってこと?」

「いや、違う。逆。」

「え?逆?どういう意味だよ…」

一生のよくわからない発言に、彰は眉をひそめた。

一生は放り出していた脚を戻し、姿勢を正すようにベンチへ座り直す。
その仕草ひとつで、さっきまでのゆるい昼休みの空気が、微かに張りつめた。

「まぁ、お前には言ってもいいか…彰もヒロを心配してるんだもんな。」

「…中学のこと?」

一生の声色がほんのわずかに低くなり、
その変化に、彰の胸の奥に小さなざわめきが走った。


「そ。ヒロ、中学の時、モテてたって言ったろ?
あいつさ、中学の頃は今よりもっと人当たりよくて、誰とでも話してて……まぁ、優しいやつだったんよ。」

一生は、コンビニのおにぎりの包みをぱりっと外しながら、ぽつりと話し始めた。

「うえ。お前、牛乳とおにぎりとか最悪の組み合わせだろ。」

彰が怪訝な顔を向ける。

「まぁ!健全な男子高校生には必要な栄養よ!」

一生が裏声で返す。
彰は、その軽さの裏に、痛みを隠していると感じた。

一生はおにぎりを一口食べてから、話し始めた。

「ヒロが好きだった子がさ。
どうやらその子もヒロを好きらしいって噂が流れて……
まぁ中坊だし、そりゃ盛り上がるわけよ。
男子人気も高い子でさぁ。余計にな。」

彰が静かに頷く。
一生は「ほんとバカだよな」と苦笑した。

「で、クソガキだからさ。何人かが悪ノリして”告っちゃえよ〜”ってけしかけてさぁ。
ヒロも最初は、そういうのは良くないって、止めてたんだよ。
…あいつ、ああ見えて堅物だしな。
親御さんがそんな感じだからだろうけど。」

一呼吸おいて、一生の声が少しだけ落ちる。


「でもさ、しつこく言われ続けて……結局、ヒロも心が揺れたんだろうな。
本気で好きだったんだと思う。だから、告白した。」

そこまで言うと、一生は空を仰いだ。
冬の陽射しが目に刺さるようで、少しだけまぶしそうに目を細める。


「で、告ってるところをさ、後ろで見てた奴らが、盛り上がりすぎて雪崩れてきたんだよ。
んで、ふたりに見つかった。」

彰が眉をひそめたのを見て、一生は肩を落とす。

「その子、言ったんだ。
“西岡くん、最低”ってさ。
……最後まで事情も聞かずに、すぐに帰っちまった。」

ほんの一瞬、昼下がりの温度が冷えたように感じた。

「ヒロは真面目に好きだったんよ。あの子も、多分……そうだった。
でもさ、自分を見世物にされたみたいで傷ついたんだろ。」

「でも、それってよくある話っていうか…
そこまでトラウマになることでもない気がするけど?」

彰がぽつりと言った。

「ここまでならなぁ。
ただの失恋だよ。時間が経てば、次の恋で忘れられる……普通はなぁ。」


⚡️残る痛み

「続きがあるってこと?」

彰が小さく目を開いた。
一生は、ため息をひとつ落としてから続けた。

「…その子の友達が怒ってさ、拡散したんだよ。
『西岡くんは女子をその気にさせて傷つける酷いやつ』だって。」

「うーわ。女子、怖…」

彰の声が引きつる。

「はは、まぁな。中坊の噂なんて火がつけば勝手に燃えるからなぁ。」

一生は自嘲気味に笑った。

「尾ひれもすげぇついて…実際にはヒロが告白したのに、
“思わせぶりな態度とって女子に告らせて見世物にした” とか、
“賭けの対象にした” とか……。
そのうえ、隠れて見てた奴が撮った写真まで出回って、噂が本物みたいに扱われてさ。」

一生は手に持っていたおにぎりを一度見つめ、
ためらいがちに口へ放り込んだ。
噛むたびに、何かを押し潰すような音が小さく響いた。

「そりゃ……トラウマなるわ。」

彰はため息混じりに呟いて、ふと眉を寄せた。

「一生、お前その時何してたんだよ?」

「俺? ……可哀想なことにさ。インフルで寝込んでたんだよ。」

おにぎりがまだ残っていて、モゴモゴした声になる。

「うわ、間抜けだな。」
「そう、ハッキリ言うなよ。」

一生は笑い返したものの、その笑顔の奥には小さな痛みが滲んでいた。
残りを牛乳で流し込むと、冷たい音が喉に落ちた。
おにぎり×牛乳の残り香に、彰はまた顔をしかめる。

「俺、こんな性格だろ? 
後から “ヒロはそんなことしない!” って言っても、
誰も信じちゃくれなかった。」

風が吹き抜け、落ち葉がベンチの下をカラカラと転がった。

「結局、誤解は解けないまま中学を卒業したよ。
……幸か不幸か、中3冬の出来事だったからなぁ。
表向きは数ヶ月で終わったけど。
アイツにとっちゃ…まだ続いてんだよ。」

一生の顔がわずかに歪んだ。
悔しさとも、自分を責める気持ちともつかない表情だった。

「だから、誰にでも平等に接して、誰のことも特別にしないんだとよ。」
「あの時、俺が止められてたら…誤解解けてたら…
ヒロ、もっと笑えてたのかなぁ。」


その呟きに、彰は胸の奥が少し強く締めつけられるのを感じた。


陽翔だけの傷じゃない。
一生にも同じ痛みが残っているのだと気づいた。


🕐️昼休みの終わり

「…なるほどね。それで陽翔は長谷川さんに告白できなかったと。」

少し間を置いて、彰は眉を寄せた。

「……でも、それならなんで“避けてる”んだよ?
平等にするなら、避けるのも変だろ?」
「あぁ、そこは俺も納得してねーけど。」

一生は、飲み終えた牛乳パックを軽く潰した。

「菜桜ちゃん、大輝先輩と付き合ってるんだって。
だから避けてるらしいよ。
俺からしたら、同クラで席も前後なんだから、グイグイ行きゃいいのになぁ。どうせ先輩、あと数ヶ月で卒業なんだし。」

「いや、お前じゃないんだから。
そんな出し抜くみたいなマネ、陽翔にはできないだろ。」


「ん?何が俺にはできないって?」

不意に背後から声がして、陽翔が用事を済ませて戻ってきていた。

「っわ、ヒロ! 心臓止まるかと思ったわ。」
一生は胸を押さえながら睨みつける。

「え、なに焦ってんだよ?悪口でも言ってた?」

「違うよ。…いや、悪口かもな。」

彰が笑いながら肩をすくめる。

「え、影で言うのはやめろよ?正面から言ってくれる方がいい。」

「冗談だよ。お優しいキャプテンには、スタメン選びができないだろうって話。」

彰がうまく誤魔化すと、陽翔はがっくりと肩を落とした。

「いや、ほんとそれなんだよなぁ。大輝先輩の凄さを痛感してる…」

陽翔は彰の隣に腰を下ろし、肘を膝にのせて顔を覆う。

「今日、紅白戦してスタメン決めるって顧問と話してきて。
ポジションも全部白紙に戻して、ゼロから決めろって。
なんでうち、コーチいないんだろうな?」

大きく溜め息をつく陽翔。

「あぁ、コーチね。欲しいよな。強豪はだいたいいるもんな。
というか、顧問がみつけてくれよって気もするけどな。」

彰が、項垂れている陽翔の肩をポンと叩く。


「コーチ、ね……。あー、そっか。そうだよなぁ…」

一生が顎に手を当てて呟く。その声に、陽翔が顔を上げた。

「一生、お前…なんかアテでもあるのか?」

「んー、まぁあるっちゃあるけど…難しいと思うぜ?」

その言葉に、陽翔の瞳にぱっと光が宿った。
それを見て、一生はニヤリと笑い、すっと立ち上がる。
陽翔と彰は、思わず互いの顔をちらりと見合わせた。

「とりあえず、昼休み終わるし、教室戻ろうぜ。」

一生は潰した牛乳パックをビニール袋に押し込み、
口をきゅっと縛ると、近くのゴミ箱へ軽く放った。
乾いた音がして、歩き出す。

陽翔と彰は、期待していないようで、どこか呆れたように小さく笑い合い、
重い腰をあげるみたいにゆっくりと立ち上がった。
そして、自然と一生の後を追って歩き始めた。


▼陽翔が菜桜を避けるようになったきっかけはこちら▼

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