見出し画像

「真珠女」16話【遺骨】

【遺骨】

今年の夏は長かった、日中は冷房の効いた部屋から一歩も出ずに、深夜コンビニに向かう時だけ肌に纏わり付く湿度の高い熱気で夏を感じていた。

気がついたらシャツ1枚で深夜出歩くには肌寒くなり、あっという間に冬が来た。

貯金の額が心許なくなってきた事に少し焦り、風香の知り合いがキャバクラで働けるキャストを探してると言っていたのを思い出して、風香に連絡をした。「週2日くらいでいいなら働きたいんだけど」と伝えると、問題が無さそうだったので後日面接に行く事に。
家から電車に乗らないと通えないのが最初少しだるいと思ったけど、前に働いてた地域と別の場所の方が何かと都合はよかった。

面接当日は、風香に紹介してもらった福井というボーイが大通り沿いのディスカウントストアまで迎えに来てくれて、店まで案内してくれると言う。
約束の時間より少し早めに着き、ディスカウントストアをうろうろしてると着信があり、どの辺に居ますか?と聞かれ外に出ると、スーツを着た男が耳にスマホを当てて立っていた。この男が福井だと気が付き、福井も私に気が付いたようで、お疲れ様ですと軽く挨拶をして店に向かった。
面接をしてくれたのは私より3つ年上の店長で、他のボーイも全員私と同い年くらいに見える。
店長に、ブランクがあり今は自分の客がゼロな事を伝えたけど、フリーの客もたくさん来るから大丈夫だよとハッキリ答えられほっとする。

今まで自分で源氏名を決めた事が無くて、この店の源氏名も店長に決めてもらった「ミオちゃんは?」と提案されその瞬間から私はミオと名乗る。約1年ぶりにドレスを着て、久しぶりのキャバ嬢を今日は楽しもうと気合いを入れる。

体験入店後、次いつ来れるか聞かれて来週の金曜日と土曜日にシフトを入れてもらった。頑張ろうねと言ってくれた店長は少し酔っているように見えたけど、いい人なんだろうと思う。
どれくらいの期間この店で働くだろうと考えた。風香の紹介である以上、しばらく続けないと申し訳ない。
そういえば営業中に福井が風香の事をしつこく聞いてきて、爬虫類顔の福井は風香のタイプでは無いと思ったけど実際どうなのか聞こう、送りの車の中から繁華街のネオンを見つめる。

出勤する時、鞄に必ず涼の香水を入れて行った。
自分に付けてしまうと鼻が慣れてしまうから持って行くだけ。涼が恋しくて寂しくて、電車に乗っている間、接客をしていない時間、送りの車の中、触れる時は常に鞄に手を入れ、遺骨を愛でるように大切にした。

#創作大賞2024
#恋愛小説部門


いいなと思ったら応援しよう!

春野憂美 最後まで読んでくださり、ありがとうございます。 いただいたチップは【読書】【映画鑑賞】【展示会のチケット代】など、今後の創作活動のために大切に使わせていただきます。