旅先で訃報を聞く。今は言葉が出てこない。
つい先頃亡くなった演藝・演劇評論家の矢野誠一さんは、追悼文の名手でもあった。その極意は残念ながら聞き漏らしたけれども、葬儀についての身の処し方については、伺ったことがある。
「どうも、通夜や告別式が苦手なんです」と私の野暮な質問にこう答えてくれた。
「特に冬場はね。そんなときは、葬儀に行く代わりに、劇場の予定を取りやめて、(物書きだったら亡くなった方の)著書を取り出して、静かに読むようにしている」
毎週の予定が決まっている勤務から離れたので、自由な時間を使って、少し長い旅に出たいと思っているうちに、あっという間にⅠ年半が経った。
亀蔵さんの訃報は、出かける間際に聞いた。トム・ストッパードの訃報は、アジアとヨーロッパの境界にある町で聞いた。
今は、なにも言葉が出てこないけれど、来週には慣れた町に移り、トム・ストッパードの戯曲も容易に手に入る。
長くもなく、短くもないこの旅のあいだに、追悼文を書いてみたいと思っている。

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