【ザルミス・2000字同時チャレンジ!】プリンを食べたいと言い出したのは誰?
「イージー コーナーのプリン美味しいね」
みんなで和やかに食べていた時、父が帰宅した。
「なにを食べているんだ?」
「なにをってプリンだけど」
「俺がいない間になに食べてるんだよぉぉ!」
心なしかパパの目が涙目になっている。いけないものを見た気がして僕はさっと下を向いた。
「パパの分もあるよ?」
妹が冷蔵庫を指さす。ママはため息をつきながら立ち上がり、冷蔵庫を開けプリンを出す。言いたいこともあるだろうに、黙ってプリンを差し出すママを僕は尊敬する、が。ママの口元がかすかに動いたのを見逃さなかった。
チイサイオトコネ
僕は、日常を観察するのが好きな小学6年男子。そのせいか、教室内での紛失物や諍いの元を簡単に見つけだしてしまう。友達や先生からも「名探偵」と呼ばれている。特に難しいことをしているわけではないのに。
ただ普段の出来事を観察するだけ。
誰もができることをしているだけなのに、みんなからは尊敬をされている。このプリン、ママがPTAの会合の帰りに買ってきたもの。校長先生に僕のことを褒められたのが嬉しく買ったのだとか。1年生の帽子から、友人の上履きの行方まですぐに探してくれるので、トラブルが少なくて済みますと言われたそうだ。
「ママ、もう嬉しくて」
そう言われると僕もまんざらじゃない気がする。日常を観察するだけでこんなに喜んでくれるのなら、もう少し名探偵ごっこをしていてもいいかなと思うのだが。
「そういうことじゃないんだよ!」
パパの上ずった声を聞き、現実に引き戻される。パパを待たずにプリンを食べたことが許せないのだ。僕もプリンを食べようという話になった時、パパの顔がチラついて不安になった。待った方がいいんじゃないかと言ったのだけれど、大丈夫と押し切られ食べてしまった。
今回ばかりはささやかな観察が足りなかった。
自分の観察の甘さに顔をしかめていると、父がキッと僕を睨んだ。
「お前が食べたいって言ったんだな?小6男子の胃袋は底なしだから待てなかったんだ!」
僕は慌てて否定した。そんな提案するわけないじゃないか。惨劇が目に見えているのに。食べちゃったけど。
「じゃあ、みーちゃんか!ちょっと前まで俺と結婚するって言ってたくせに!」
妹がげんなりとした顔をする。パパと結婚すると言っていたのは幼稚園の年少までだ。それを小4になってまで言われるとは。プリンを口に含みながら妹はギロリとパパを睨む。かすかに口が「ウザッ」と動いたのは僕だけでなくパパも気づいたようだ。
「み、みーちゃんなわけないよな」
慌てて視線をずらす。娘に嫌われたくなくて必死な姿が哀れを誘う。妹が結婚する時、パパは心神喪失してしまうのではないか。今から不安で仕方がない。
「お前だよな!ったく母親ってのは息子に甘いんだから!」
パパはママを犯人と決めつけ早口でまくし立てる。
俺がイージーのプリンを好きなの知ってるくせに
一家の大黒柱を仲間外れにして平気なのか
だいたいお前は俺の言うことを半分も聞かない
くどくどと文句を言うパパを無視しママは台所へと向かう。夕食の準備をするためだ。
「夕食も作らずにプリンかよ!食後のデザートにとっておけば俺も一緒に食べれただろ!夕食前に食べさせるってお前はっ……」
あまりにうるさかったのだろう。ママの包丁を握る手に力が入った。だがパパは気づかずにギャーギャーわめいている。やばい!パパ!それ以上はダメだって!
思わず、テーブルの方を振り返る。妹はママの怒りなど全く気にせずプリンを食べ続けていた。おい!今、修羅場だぞ!惨劇が起きるかもしれないのになにを呑気に!
こういう時に周囲の空気が気になる性格は損だ。僕のプリンはまだ半分以上残っているのに、食欲が失せてしまっている。なんとかママをなだめなくちゃ、と思った時、ママがクルリとパパの方へ顔を向け口を開けた。心なしか包丁もパパの方へ向いている。ひぃぃぃ。無力な小学6年生男子はただただ固まるしかない。
「私が待たずに食べようって言いました」
「ほら!やっぱりお前が……え?」
パパの目が泳ぐ。発言したのはおばあちゃんだった。
「私が言ったのよ。恵美さんは私をかばって黙っていたの」
お義母さん、とママがつぶやく。感動で顔が輝いている。我が家は嫁と姑の仲がいい。
「娘さんとお出かけですか?」
なんて近所からも言われるほどだ。自分が大切にされないと癇癪を起すパパがいない時の方が我が家は平和だった。
「全くお前は小さなことをグチグチと」
「か、母さんが言ったのか。ハハハ」
「だいたいね、お前は小さな時からいっつもいっつも……」
パパはその後、おばあちゃんの小言を聞きながらプリンを食べた。夕食と風呂を済ませると早々に寝室に行ってしまった。
「ごめんね、あんな息子で」
「お義母さん、ありがとう♪」
ママとおばあちゃんが祝杯をあげている。明日の朝、家族の平和維持のためにも、後でこっそり僕が片付けておかなきゃ。
(1997字)
参加、遅すぎたかなと思ったのですが。みなさんがあまりに楽しそうなので、思い立って書いてしまいました。
豆島さん、遅くなったお詫びにザルミスとセットで参加です♪
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