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【実録】舞台詐欺トラブル!(前編)〜若手女優23人の悲劇〜




序文

脚本料25万円。演出料20万円。
合計45万円。

これが最初に提示されたギャラの金額だった。

全ての仕事を終えた翌月、ギャラの振込予定日になったが口座の残高は変動なし。

代わりに予期せぬメールが届く。

「この度、自己破産手続きを進める事となりました」

目の前が真っ暗になった。


突然のメール

それは10月半ばに届いた。

「はじめてご連絡をさせていただきます。
レヴェリースケニック代表 牧村俊介と申します。

この度、私どもは新たな表現の場としてレヴェリースケニックという運営団体を立ち上げ、旗揚げ公演として、

舞台『花のカンタービレ』を
新宿村LIVEにて12月18日(水)〜12月22日(日)に全8公演を上演する事となりました。

畑雅文様へ脚本・演出のお仕事依頼でご連絡をさせて頂きました。

本番の日程が12月なのですが、演出・脚本の依頼をお願いしていた方が急病で困難になってしまいました為、このようなタイミングでのお声がけをして誠に申し訳御座いません。

内容・スケジュール等含めましてご相談が可能でしたらご検討の程、お願い申し上げます。

本作『花のカンタービレ』は合唱をテーマに友情、努力、そして音楽のチカラを通じて成長していくキャストの姿を描く青春群像劇です。

ぜひともご一緒に素晴らしい舞台を作り上げたいと強く願っております。」

後で分かる事だが、牧村俊介というのは偽名だ。

LINEのアカウント名はシュナイダー。
下の名前である俊介から取ったそうだ。
調べてみたらドイツ語で「仕立屋」という意味らしい。

(今思えば、売り上げ金を持ち去る為、裁縫のごとく綿密に計算をしているというヒントだったのかもしれない。)

出来るだけ多くの脚本を書きたい自分としては、基本的にオファーは何でも受ける。
しかも今回は演出も兼ねるという事で、経験や学習にもなるから嬉しいオファーであった。

スケジュール的にも工夫すれば取り組めそうだと思って引き受ける。

それが悪夢の始まりとはつゆ知らず。


ご対面

急きょ打ち合わせをしなければならなかったが、リアル対面に要する移動や準備時間を台本執筆に充てたかったので、リモートでの打ち合わせを希望すると、彼はZOOMなどを使った事が無いのでやり方が分からないと言う。

なのでLINEのビデオ通話を行うと、相手はマスクをしており、下からの角度で画質も悪かった。

(これも録画によって顔を記録されない為の工夫だったのか?)

50歳過ぎに見えたが、実際は40代半ば。
真面目で気の弱そうな印象を受けた。

その時に、何で自分にオファーをくれたのか聞くと「昨年、畑さんが脚本と演出を担当した『あの花※』を観まして……」との事だった。

※舞台「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2023)

なるほど。それは光栄だ。
調子に乗った僕は台本も早く仕上げられると息巻く。

とにかく急な依頼と作業というイメージだったが、それがシュナイダーの手口で、相手に深く考えさせる余地を与えず、ニンジンをぶら下げて走らせる算段だったのだろう。

自分も注意深く対応するべきだったが、脚本家や演出家はよっぽどの売れっ子じゃなければ不安定な仕事。

依頼主には良い顔をする生き物だ。

シュナイダーは「舞台を作るのは初めてなので、分からない事ばかりですが……」と腰を低くする。
こちらも「出来る限りフォローはしますから一緒に頑張りましょう!」と優しくなってしまう。

まあ結局その初舞台というのも嘘で、実際は主催するのも4回目。

そのたびに名前を変え、旗揚げ公演と称して色んな脚本・演出家、およびスタッフやキャストに声をかけていたらしい。

たまたま不慮の事故に4回遭ってそのたびに記憶喪失になったわけじゃあるまいし、99%確信犯であろう。

だがこの時、関係者の誰もがそんな過去は知らなかった。


稽古スタート

すでに23人の若手女優が出演決定していた。

シュナイダーが用意した原案とはアンバランスな人数だったが、何とか内容を膨らませて23人分の役どころを作って台本も書き終えた。

こうして稽古が始まる。
しかしスケジュール表を見ると役者が全員揃う日が全く無い。
ちゃんと管理してくれよと思いながら取り組む。

そんな中、本番まで1カ月を切っているのに音響・照明・美術・舞台監督すら決まってないという事実を聞いてビビる。

いくら何でもそれはヤバいですよと苦笑しつつ、スタッフィングを煽る。

ここらへんは僕の脳天気な部分が出て楽観視していた。

一応、現場にはシュナイダーの他にテレビ局でADをやっていた女性がおり、この方は求人広告を見て応募したらしい。

ちなみに時給は1800円だ。

↓こういう形で堂々と掲載していた。

こりゃ飛びつくよ。なかなか魅力的な案件だ。

彼女は舞台づくりの経験が無く右往左往はしてたが、色んな事に気配りをしつつ、慣れない作業でも一生懸命に取り組む頑張り屋さんだった。

ちなみに初対面の時は金髪で、次に会った時は青髪だった。

(スーパーサイヤ人からスーパーサイヤ人ゴッドを飛び越えてスーパーサイヤ人ブルーになっている状態)

結果的にこの女性が2カ月ほぼ毎日働いていたので、僕のギャラより多く収入を得てしかるべきだったのだが、タダ働きに終わってしまう事になる。

とても不憫で仕方ない。


顔面傷だらけ

さて、そんな布陣で進む稽古だったが、ある日の事……

シュナイダーが顔面傷だらけで現れたのだ。

おでこにはガーゼが貼ってあり、血もにじんでいる。
左目のまぶたが大きく腫れ、マスクの下から生傷とかさぶたが覗く。

「どうしたんですか!?」

と思わぬ異変に半笑いで聞いてしまう僕。

「転んで顔面から地面に激突してしまって……」

舞台の小道具や衣装を管理していた彼は、毎回キャリーケースと大きなバッグを持ち運んでいた。
そのせいで両手の自由がきかず、顔が犠牲になったそうだ。

可哀想に……

と誰もが思っていた。

声も小さく、仕切りも下手だけど、優しくて舞台が好きな人。知識や情報は無いけど挑戦してみた。必要事項の共有にだいぶ不足があってマネージャー陣も心配してるけど、それなりにギャラもくれるみたいだし、大目に見てあげよう。共に頑張りましょう。

そんな感じで見えない手を差し伸べていたように思える。

だが今考えたら、あれは顔面を激突したようなケガには見えない。

人間の顔は凹凸があるので、どこかしらの出っ張りに負担が集中するはずだが、あちこち傷があったのだ。

しょくぱんまんみたいな平面顔をしてたら一度の激突で全体をケガするが、そうではない。

つまり、シュナイダーは誰かに殴られたのだ。

彼に騙された人による闇討ちか、もしくは借金取りによる一時的な制裁だったと推測。

いやはや、この時にそんな想像なんて浮かびはせず、非常に気の毒な思いだったが、今となってはもっとボコボコにしても良いくらいの奴だった。


次回予告

本番初日にクレームの嵐
前代未聞の不手際が巻き起こる。

サマーウォーズみたいな
逆境によって芽生えたチームワーク。

千秋楽前日の夜
シュナイダーの前科について情報提供者現る。

そして最終日
全包囲網によって暴かれる罪。

シュナイダーの目的
彼に対して思う事……。


後編はこちら↓

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