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【実録】舞台詐欺トラブル!(後編)〜偽名プロデューサーの正体〜

これは、演劇業界で本当に起きた事件の記録。
若手女優23人がタダ働きをさせられたのだ。

スタッフやマネージャーも含めると被害者は50人以上だが、それだけには留まらない問題もある。

応援しているキャストの為にグッズを買ったり、何回も劇場に足を運んでくれたお客さんのお金が利用されたのは許しがたい。

その全ての元凶である自称プロデューサーは、概算で約400万円ほどを持ち逃げしようとしていた……。


前編はこちら ↓



本番初日にクレームの嵐

ようやく開幕!

初回が無事に終わってくれたら自分の仕事は完結する。
前日のリハーサルですらキャスト全員が揃わないという異例の現場だったが、そういった不安の日々からも解放だ。

当の役者たちも、やはり表現者だから本番を楽しみにしている。
楽屋も女子校のクラスみたいにワイワイキャッキャ。

僕自身、お客さんの反応が楽しみだ。
急いで台本を書いたが、稽古を通して登場人物1人1人を深掘りして、演じる本人たちが自ら色づけし、それぞれ愛着のあるキャラクターに育った。

高校の合唱部を舞台にしたこの演目。
彼女たちの合唱シーンは胸を打つ。
何だかんだ素敵な作品に仕上がったと思い、僕の心も弾んでいた。

しかし本番直前。

受付ロビーが何やら混雑している。
というかモメている。

こっそりスタッフに事情を聞く。
どうやらS席(最前列)のチケットを購入した特典が後日発送との事でクレームが発生したらしい。

なるほど。確かにそれは問題だ。

特典は役者の大型ブロマイド写真。
この作品の為だけに撮られた、他では見られない特別なショットとして、それぞれのファンが楽しみにしている。
いわば観劇のA級戦利品みたいなもの。

前もってアナウンスなどされてない限り、通常は劇場で手渡される。
他の舞台でもたいていそうなので、みんなそのつもりで来場している。

それを裏切る形であった。
自分の誕生日パーティーが開かれて「プレゼントは後日届くよ」と言われたらテンションが下がるのと一緒だ。

これもプロデューサー(後にギャラ未払いで自己破産する40代後半の男)による準備不足が招いた事態だった。

他にもお客さんが萎える要素はたくさんあった。

パンフレットやチェキ(インスタントカメラで撮る写真)などといった物販品はどれも事前決済という謎。

作品を見て気に入ったらパンフレットを買ったり、ファンになったキャストのチェキを買う事もある。

それが団体にとってはチケット以外の売り上げとなり、役者にとっては個別の収益にもなるし、お客さんの満足度を後押しする。

なぜそれをしないか?
その答えは後で分かった。

現場にお金を発生させない為。

前編にも書いたが、そのプロデューサー(LINEの名前はシュナイダー)はこれまでにも名前を変えて3つの団体を主催しており、そのどれもがギャラ未払いであった。

なのでもし以前関わった人間が現場に来て「金払え!」となってもすぐに持っていかれないようにしていたのだ。

そういう知恵は回るのに何でブロマイドを間に合わせられないんだ。

サマーウォーズみたいな

ファンにとってツーショットチェキも肝心だ。
応援してる役者と並んで撮る写真は宝物。

今回、そのツーショットを撮る際にまたもテンションを削がれる関門が待ち受けていた。

終演後、事前に申し込んでいた人がスタッフの案内で待機し、呼ばれたらキャストと交流しながら写真を撮る流れ。

撮影用のスペースを即席で設けるのだが、それがステージ上なのだ。
そこは土足厳禁なので、お客さんは靴を脱いで上がらなければならない。

このひと手間が許せる人とそうでない人がいるだろうが、僕だったら後者だ。

推しの前で変な靴下を見せたくない!
推しに高身長だと思われたくてシークレットシューズ履いてるのに!
靴下の裏に想定外のゴミがつく!

などなど色んな事情が浮かび上がる危険性あり。

そもそも何でステージ上なのか。
たぶん営業許可の問題だろう。
ステージ上で行う分には舞台公演扱いとなり、それ以外の場所でやるとなると別途使用料が発生するのだと推測する。

シュナイダーはそういう部分もケチっていたのか。

とあるお客さんが、Xでこれから観に来る人達の為、さらには推しの舞台に来た仲間が不満を抱いてファンを辞めてしまわないようにか、ツーショットチェキは靴を脱ぐ必要があるという説明を丁寧にポストしていた。

本来は公式SNSがこういう事をやるべきだった。

しかし、それを担当していた青髪のスタッフ(求人広告で騙された元ADの20代女性)は、シュナイダーから多くの作業を押し付けられており、小まめに更新も出来ず、出演者紹介もほとんどされていなかった。

そんな状況を見かねてか、キャストの1人が全員のソロ写真を撮って役名と共に紹介。

観劇したお客さんの1人がそれらを組み合わせて編集し、わざわざ相関図を作って画像をアップしていた。

公式がやらないなら自分たちで!

という不思議な連帯感が生まれていた。

シュナイダーという悪の存在によって、普通の安心安全な興行では芽生えない絆が誕生する妙な現象だった。


千秋楽前日の夜

お客さんからのクレームは多かったが、作品そのものへの評価は上々で、僕もホッとした。

千秋楽前日。
この日の夜公演を終えた後、僕はとある役者にセリフの言い方について新たなリクエストをしようと思い立ち、楽屋へ行った。

(本番になってもあーしたいこーしたいという要望が出ないように稽古で完ぺきに仕上げるべきだが、ここに来てようやく作品のクオリティを上げたいという、本来持つべき欲求が高まったのだろう)

大半のキャストは帰っていたが、少数が残っており、何やら深刻な顔でコソコソ話している。

僕を見つけた彼女たちは「畑さん……!」

と、ドアの外を気にしながら駆け寄って来る。

「あの、牧村さんの事なんですが……」

牧村というのは今回の舞台の主催者だ。
下の名前である俊介をモジッてLINEのアカウント名をシュナイダーにしている。
もちろん全て偽名である。

「知り合いの女優さんが連絡くれて、この舞台で起きてるほとんどの事が、前に経験した詐欺事件と共通してるって……」

ポカン。

詳しく聞くと、今までの事 ↓
◯旗揚げ公演と称する
◯予定してた脚本家が病気になって急きょオファー
◯スタッフが直前まで決まらない
◯当日物販をせずに全て事前決済

その他細かい事が全て共通していた。

さらに、シュナイダーの本名は✕✕✕✕。

これまでにも、フレッシュ企画やエクレールシアターなど団体名を変えて興行をし、ギャラ未払いで売り上げ金を持ち逃げしているという話だった。

え?
じゃあ今回もそうなるの?
嘘嘘嘘!
やめてやめて!

夜公演の前、ロビーで休憩中のシュナイダーと交わした会話を思い出す。

僕「請求書ってPDFで送ればいいですか?」
シ「はい」
僕「言ってたギャラって税込みですか? 税抜きですか?」
シ「税抜きです」
僕「お、太っ腹ですね」
シ「じゃあ税込みで(笑)」
僕「ちょっとちょっとー!(笑)」

彼はどんな気持ちでこの話をしてたのだろう。

払う気もないのに急に雇用主ジョークを飛ばしていた。
僕はもらえるはずの49万5000円がもらえなくなるなんてありえないと思い、というか信じたくない、そんな未来は訪れないと自分に言い聞かせるかのごとく、シュナイダーの噂を半笑いで聞き流そうとしていた。

しかしキャストたちは戦々恐々としていた。
「マネージャーに相談します」と連絡している。

僕もどうなるのか分からないながら、彼女たちとお互いの不安を分散させるかのようにシュナイダーの怪しい言動(オファー前なのに僕の名前を企画書に載せて各事務所に出演依頼をしていたり……)について話して騒いでいた。

キャストのマネージャーからの返事も気になり、僕は帰るに帰れなかった。
そこで荷物をロビーに置いてきたままだった事を思い出し、楽屋から一時退却。

ロビーに行くと、そこにはシュナイダーが1人。
壁に寄りかかってスマホをいじっていた。

「お疲れ様です……」

連続殺人犯かもしれない相手と対峙する刑事みたいな気分だった。

こちらが相手を怪しんでると思われないように平静を装う。緊張感が走る。

荷物を持って楽屋へ戻る。

キャストへのスマホにマネージャーからの返事が来たが、まだ事実確認が出来ないので様子を見るという内容だった。

警察と同じで、やはり事件が起きてからじゃないと動けないのか。

そうなってからではもう遅いのに。

そして最終日……

千秋楽の朝。

キャストにシュナイダーの過去について警告してきた女優は、偶然にも数年前に僕が脚本を書いた舞台に出演してる人だった事が判明。

急いで連絡を取って事情を聞く。
彼女が関わった舞台の本番初日、シュナイダーの過去が知れ渡り、スタッフたちが彼を問い詰めたそうだ。

「今ギャラを払わなければスタッフ全員でボイコットして公演を中止させる」

そう強く言って、シュナイダーはすぐに銀行へ行き、事前決済で集まっていた金を下ろして支払いをしたという。

そして「念の為これがそいつの顔です」と写真が送られてくる。

シュナイダー本人だ。

これ以上の悪さをしないよう、強制的に写真を撮ったらしい。

確かに彼は今まで絶対に写真に写ろうとしなかった。
詐欺師として情報を拡散されないように予防していたのか。

今回も舞台詐欺に遭う未来がどんどん現実味を帯びていき、マズいと思った自分はマネージャーだけのLINEグループを作って情報を共有した。

(キャストは公演があるので、余計な動揺を与えて本番に影響が出ないよう、わざわざ知らせなかった。とは言ってもすでに耳にしてる人は多かったであろう……)

マネージャーたちの反応は最初こそイマイチだったが、熱を持った1人の方が事の重大さを察知して「逃げられないように現場に行きます!」と返事をくれた。

それに押されたのか、他のマネージャーも「間に合うように急ぎます!」など頼もしいリアクション。

そんな中で最後の公演が幕を開け、ラストの合唱シーンではキャスト全員が感極まって号泣するという事態にもなったが、それはそれでライブとして最強のショーとなった気がする。

お客さんたちが退場した後、スタッフは機材の片付けなど撤収作業があるので、マネージャーたちがシュナイダーを取り囲んで事の真相を追及。

彼は自分がやった事が全てバレて意気消沈。
肩を落として幽霊みたいになっていた。

銀行へ向かおうとするも、1日で引き落とせる金額には限度があり、全員にギャラを支払わせる事は出来ない。

情報提供により、本名と住所は判明していたので、改めて誓約書を交わした方がいいという意見が出る。

即座に作成された書面を関係者の人数分コピーし、それぞれのギャラを記し、シュナイダーが署名捺印する事となる。

その為のテーブルが設置され、彼の前には誓約書を持ったマネージャーやスタッフたちが長蛇の列を作る。

まるでアイドルのサイン会のようだ。

端っこで若いキャストが「こんな事になるんだったらお母さんの言う事ちゃんと聞いてれば良かった」と泣いていた。

夢を持って東京に出てきたのか。
上手い話には気をつけろと親から心配されていたのかもしれない。

ほぼ全ての関係者が書面を交わし、続々と帰って行く。

しかしこのままでは逃がすわけにはいかないと考えたタレント事務所の社長と一部のスタッフは、シュナイダーを最寄りの警察署へ連れて行った。

事情を話し、シュナイダーも個別で取り調べを受けたが、条件的には詐欺に当たらないという不服な結論を言い渡された。

確かにまだ支払期日になっていない。
具体的な被害が起きるとしたらこれからなのだ。

引き続き注意しつつ、必ずギャラを振り込むように念を押して解散。

この時、僕は心のどこかで、きっと彼も改心してちゃんとギャラを支払ってくれるだろうと信じていた……。


シュナイダーの目的

1ヶ月後、支払期日が訪れる。
僕の銀行口座には1円も入金されなかった。

代わりに弁護士からの通知が届く。

シュナイダーが自己破産の手続きを進めるという内容の手紙だった。

誓約書を交わしたが、自己破産されたらそれも無駄になるわけだ。

LINEで連絡しても応答なし。
今後は弁護士を通じてやり取りせざるを得なくなった。
それもFAXのみという回りくどい形なので腹が立つ。持ってる人ほとんどいないだろ。

また、複数の人から詳しく聞いたところ、シュナイダーは公演を行うたび、売り上げの一部をその前に行った公演の関係者数名にギャラとして支払っていたのだ。

つまり自転車操業だ。

しかも全額ではなく、少額で分割払いをしていたとの事。ちなみに完済はせず。

何だそれ。
申し訳なさなのか、ちょっとでも支払って罪の意識を軽くしようとしてるのか。

野菜の無人販売所で10円だけ入れて100円のキャベツを持ち去るようなごまかし行為にしか思えない。

彼は一体何がしたかったのか……。

しかも、法的なバックアップ体制が取れている大手の事務所だったり、最初に本名や住所などを申請しないと契約出来ない劇場にはちゃんと金を支払い、そうではないフリーランスの役者やスタッフにはノータッチ。

完全に相手を選んでいた。
僕も事務所を辞めてフリーになっていたので、隙を突かれた。

とても悔しく、悲しく、腹立たしく残念だ。

奴の自己破産を食い止める為に裁判など法的手段を取るには時間とお金がかかり、勝てる見込みも定かではないので、だいたいみんな泣き寝入りする。

僕自身も、次の仕事に取り組まなければならず、割り切って前に進まなければ生活できないのだ。

決して許せはしないが、時間の経過と共に戦う意思も薄れてしまう。
それがシュナイダーの手法なのか。

あれから数カ月が経ち、
僕は未だ、本人に会って聞きたい事がある。

「良い舞台を作ろうとしていたのも嘘だったんですか?」

きっとシュナイダー本人も、元は舞台が好きな人間で、純粋に作品づくりをしたかったのではないだろうか。

それが、極度な不器用さゆえに、おかしな方向へと舵を切ってしまい、よく分からない資金繰りを続ける事になった。

舞台興行を利用したギャラの持ち逃げ行為が、癖や病気として身に染み付いてしまったのか。

たった1人の行動が、50人以上の関係者を振り回す結果となった今回の出来事……。
お客さんも含めたら数百人。

逆を言えば、僕もたった1人の人間として、数百名やそれ以上の人達を振り回す事が出来るかもしれないのだ。

みんなを笑顔にするクリエイターとして。

彼はその可能性を教えてくれた。

そう思う事にした。


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