マクロ加算残高を計算する際の基準比率のメモ
今回は、前回の投稿を受けて、マクロ加算残高における「基準比率」について記載します。下記の内容について必要に応じて、加筆・修正します。
三層構造に関するメモ:マクロ加算残高について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
各銀行のマクロ加算残高の算出のイメージは、2015年の平残に「基準比率」を掛けることで算出がなされていますが、そもそも各銀行で共通に用いられる基準比率は、完全裁定後の政策金利残高が5兆円になるように計算されています。以下では完全裁定後がどういうことを意味しているかを説明をしますが、基準比率の具体的な計算式については(筆者の理解では)公表されていない点に注意してください(例えば短資会社などが予測をだしており、そこに考え方が示されることがあります。この点は必要に応じて追記します)。
それでは完全裁定後を考えるため、次のような例を考えます。銀行Aと銀行Bがあります。銀行Aの当座預金は、100億円だけマイナス金利が課させられており、銀行Bは全くマイナス金利が課せられておらず、さらに、50億円だけマクロ加算残高が余っている状態とします。下記の通りです。

この場合、例えば、銀行Aから50億円分、銀行Bが借り入れたらどうでしょう。銀行Aとしてはマイナス0.1%の付利がかかる当座預金を減らすことができます。また、銀行Bとしては当座預金50億円までであればマクロ加算残高が余っているので、借りてきた分を0%で当座預金預けることができます。
したがって、銀行Aから銀行Bが、例えば-0.05%で借り入れれば、銀行Aにとっては、-0.1%負担であったところ、そのコストが軽減され、また、銀行Bは-0.05%で借り入れて(マイナス金利で借りるので金利が得られる状態)、それを0%で当座に置くことができるため、両者にとってwin-winであることがわかります。
逆に言えば、銀行Aと銀行Bにとっては、-0.1%~0%の間であれば、お互いにとって取引をするメリットがあり、裁定機会があると解釈されます。この裁定行動を最もリスクを落として行うため、無担保コール市場(1営業日の無担保取引)で貸借を行うとすると、そこで取引される金利(これをTONAといいました。TONAについて知りたい人は私が記載した「リスクフリーレート入門」を参照してください)には、-0.1%~0%のコリドーができる、ということになります(実際下記のずのとおり、TONAはこのレンジで推移しています)。この際、仮に銀行Bにマクロ加算残高の余裕枠がなければ裁定機会がないことにも注意してください。

「2020年度の金融市場調節」の概要 (boj.or.jp)
「完全裁定後の政策金利残高が5兆円」とは、このような銀行間の裁定取引が完全になくなった世界においても、銀行セクター全体でみた政策金利残高(マイナス金利がかかる当座)が5兆円になるように、基準比率を日銀が決めているということになります(再び強調しますが、この計算方法については開示されていません)。日銀は、マイナス金利政策を実施しているため、必ず当座にマイナス金利を課すため、少なくとも5兆円は当座がマイナス金利になるよう、この基準比率をコントロールしていると解釈できます(繰り返しますが、マクロ加算残高については、一定の計算ルールに基づいた当座残高に各行共通の基準比率をかけることで算出されています)。
もっとも、実際に課されている政策金利残高は5兆円を超えています(下記を参照)。これはこの裁定行動が完全になされていないことを意味しています。

(論文)三層構造のもとでの金融調節運営―準備需要曲線モデルを使った解説― (boj.or.jp)
ちなみに、この「完全裁定後の政策金利残高が5兆円」は現在の水準ですが、2018年7月の決定会合時に、10兆円から5兆円に低下させています。それは、報道等では、銀行の収益に配慮したからと記載される傾向があります(この点は必要に応じて追記します)。
情報BOX:日銀が決定した金融政策の変更点 | ロイター (reuters.com)
基準比率の推移を見たものが下記ですが、これをみると基準比率は大きく動く値であることがわかります(0%に近くなっているところもあります)。コロナ禍から、特にこの比率が低下していることもわかりますが、このことは特にコロナオペと関係しているため、次回はコロナオペについて説明します。また、ここで記載したことは、下記の論文の2節でより厳密に説明しているため、正確な理解を得たい読者は下記を参考にしてください。
(論文)三層構造のもとでの金融調節運営―準備需要曲線モデルを使った解説― (boj.or.jp)

(注)上図の出所は下記です
【経済統計】日銀の政策変更への期待で高まる「基準比率」 - ニュース・コラム - Yahoo!ファイナンス
