ワクチンは戦略物質である
下北半島出身の中川五郎治の種痘の話をしました。
青森県には、もうひとつ隠れた予防接種のエピソードがあります。
昭和34年に青森県の八戸市で、小児麻痺(ポリオ)が集団発生しました。
八戸市で小児科を開業していた岩淵謙一医師が、ソ連の日本語ラジオ放送で、ソ連にはポリオワクチンがあるのでポリオは発生しないという話を聞きました。
岩淵医師は、ソ連の大使館にワクチンを分けてもらえないかと手紙を書きました。
すると、ソ連の医学アカデミーから返事がありました。
三万人分のポリオのワクチンを無償で寄贈するという内容でした。
驚いたのは日本政府です。
薬事法の承認を受けていないソ連製のワクチンの受け入れはできませんでした。
ところが、NHKで大々的に報道され、ワクチンが届いているのに使えないのは何事かと、社会問題となりました。
ワクチンを望む母親の声は大いに高まり、厚生省は、マスコミからもワクチン導入を迫られました。
最終的に、古井喜実厚生大臣が受け入れを了解しました。
副反応が出たら、自分が腹を斬ると政治決断をしたのです。
旧内務省出身の古井厚生大臣は、サムライのような人物でした。
ワクチンは、さっそく八戸市に届けられ、ワクチン接種が行われます。
その直前に、岩淵医師は急死し、ワクチンを見ることはできませんでした
昭和35年には、ポリオが日本全国で流行し、5000人以上の患者が発生しました。
昭和36年には、厚生省は、ソ連とカナダからワクチンを緊急輸入して、全国的にワクチン接種を行いました。
その結果、患者数は2ケタとなり、その後は終息してゼロとなりました。
昭和34年12月22日に青森県議会は、故岩淵謙一医師に対し、感謝決議を満場一致で採択しています。


新型コロナウイルス感染症では、外国産のワクチンを緊急輸入して、全国一斉に投与しました。
これは、ポリオワクチンの緊急輸入以来のできごとでした。
防衛省で大規模接種センターを担当しましたが、ワクチン嫌いの日本人が、ここまでワクチン接種を受けるとは予想していませんでした。
中国とロシアは、自前でワクチンを製造して、ワクチン外交を進めました。
これらのワクチンは、本当に効果があったかどうかは不明なままです。
ワクチンは戦略物質となります。
自前で生産出来る国は強いのです。
このように公衆衛生は安全保障にも関係し、「ヘルス・セキュリティ」と言われています。
公衆衛生を考えることは、戦争の発生を予防することにもつながります。
公衆衛生は奥が深いです。
今夜もジンを飲みながら、公衆衛生について沈思黙考してみます。

