鎌倉市内の海岸に打ち寄せられて大量に廃棄されていた海藻を、障害者が集めて高齢者が洗って干して餌にして、ブランド豚を育てた
関東信越厚生局に勤務していたときに、鎌倉市が主催した「地域共生推進全国サミットinかまくら」が開催されました。
新型コロナウイルス感染症の影響で、オンラインでの参加でした。
ちなみに各厚生局には地域包括ケア推進課があり、こうした自治体における取組を支援しています。
このサミットで、いい話を聞きましたので紹介します。
鎌倉市内の海岸に打ち寄せられて、大量に廃棄されていた海藻を、障害者福祉サービス事業場の利用者が集めて、老人福祉施設の利用者が洗って干して餌にして、ブランド豚「鎌倉海藻ポーク」を育てた話です。
考案したのは、鎌倉市内に住む料理研究家の矢野ふき子さんです。
鎌倉の由比ヶ浜には、多くの海藻が打ち上げられます。
地元では食べる習慣がなく、海岸の海藻は苦情の元となるので、日々回収して廃棄していました。
そんな中で、矢野さんは、捨てられる海藻を使って何か新しい取組ができないものかと考えておりました。
以前に矢野さんは、名物のシラス漁で網にかかったカタクチイワシが廃棄されていることを知って心を痛めたことがあります。
矢野さんは鎌倉漁業協同組合に出向いて、カタクチイワシを捨てずに「鎌倉アンチョビ」にして販売してはどうか、と提案しました。
このことがきっかけとなり、鎌倉漁協の食品アドバイザーに任命されたのです。

鎌倉漁協からは、海岸に漂着した大量の海藻を廃棄していることを知らされました。
ある日、矢野さんはひらめきました。
スペインのイベリコ豚は、どんぐりを食べて美味しくなります。
日本には、お茶っ葉を食べて美味しくなる豚もいます。
海藻にはミネラル分が豊富で、昆布のように旨味もあります。
豚は食べるものによって肉質が変わります。
豚に真珠、いや豚に海藻だ!!!
矢野さんは、ためしに拾った海藻を干して、低温のオーブンで乾燥させて、粉末状の飼料をつくりました。
この飼料を持って、神奈川県の畜産技術センターに行きました。
すると、厚木市内に住んでいる養豚家を訪ねるようにアドバイスされました。
紹介された養豚家は、地元の誇りとなるような豚を飼育したいと考えて、過去に海藻を餌にすることを試したことがある方でした。
矢野さんが持ってきた海藻でつくった飼料を見て、「協力します!」と即答されたそうです。
漁業権の問題は、鎌倉漁協に相談して、障害者の方々に海岸に漂着した海藻の回収許可証を発行してもらえるようになりました。
海藻を餌にするためには、「塩」と「水」という二つの課題がありました。
塩辛いと豚が食べないのです。
水を含んだままの状態だと、重くてしかもすぐ腐ってしまいます。
水洗いを繰り返して塩分を抜き、干して乾燥させて水を抜いて、さらに豚が食べやすいように細かくする作業が必要でした。
この一連の作業を、高齢者の福祉施設の利用者がやるようにしたのです。
こうしたバトンをつなぐ作業で飼料になった海藻を食べて育った豚は、「海藻ポーク」として売り出されました。
鎌倉市内のレストランで提供され、鎌倉市のふるさと納税の返礼品にも採用されました。
ごみとして捨てられていた漂着海藻に価値を見いだし、障害者や高齢者施設の利用者に新たな役割を与えて、地元の名産品として提供するという取組は、まさにマーケティング的な地域包括ケアの展開です。

ドラッカーは、「価値の創造」がマーケティングの本質だと言っております。
名前がいいです。
「海藻ポーク」と聞けば、食べてみたいと思います。
厚労省の職員が担当したら「地域包括ケアポーク」と名前を付けたかも。
これでは食欲をそそりません。
岩崎夏海氏の「もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は、200万部売れたそうです。
これをまねして、「もし福祉施設のケアマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という地域包括ケアのマーケティング本を書いたら、売れるかもしれません。
地域包括ケアの取組が持続可能性を持つためには、自分たちで稼ぐ仕組みが必要です。
これまで価値のなかったものに価値を見いだし、それを集める作業や加工して商品を作り出す作業に障害者や高齢者が関与できる仕組みをつくれば、動き出します。
ただ、マーケティングで一番怖いのは、絶対的な強者が、同じ業界に参入してくることです。
他の業者が参入できない、圧倒的な技術力を持つとか、採算が合わないので参入できないニッチな分野でやるとかポジショニングを考える必要があります。
いろいろとノウハウを考える必要があることから、こうした本は売れるかもしれません。
地域おこしとつながると面白いと思います。
地域おこし協力隊に考えてもらおうかしら。

ちなみに、椎葉村では地域おこし協力隊が、「秘境の文筆家」となって3年以内に小説家を目指す取組を開始しました。
「私の発案か?」という問い合わせがありました。
違います。
直木賞作家の今村翔吾先生と椎葉村の図書館の館長さんの企画に、椎葉村の黒木村長がのったのです。
全国から92人の応募があり、4人が選ばれました。
面白い取組だと思いますが、ライバルが増えてしまいました。
彼ら彼女らよりも先にデビューしたいと思います。
目の中に炎がめらめらめら。

