トヨタ社長は「どういう状況であれ、お客様のせいにすることはできません」と答えてクライシスを乗り切った
防衛省に勤務していたときに、危機管理の広報対応について、クレアブ(株)の土井正巳社長の講演を聞きました。
土井社長は、30年間トヨタの広報を担当してきた方です。
以下講演の概要です。
最近のクライシス会見は、日大、吉本興業など皆失敗している。
これは戦略性がないからだ。
自分の言いたいことを言う会見は、社会からの信頼を得るようなものになっていない。
クライシスは、シームレスにやってくるので、いつからが「クライシス」なのか判らないが、一刻も早く「クライシス認定」をすることが大事。
クライシス時には、徹底的な情報収集が必要。
防衛省ならば、全省体制で立ち向かわなければならない。
会見では、防衛省の論理や法的根拠を説明するだけではなく、世論をとらえるような両方のメッセージを発信する必要がある。
クライシス時における会見は、事実を明確にする場であり、防衛省の論理と社会の論理との間に開いている距離を縮めることが必要。
そのために相互理解が大事。
相互不理解だと防衛省の信頼が失墜することになる。
防衛には右と左の立場がある。
極端な「左」はそもそも話を聞かず、防衛を頭から否定しているところが難しい。
例として、自分が経験した「トヨタ存亡の危機」の話をする。

2009年8月サンジエゴの高速道路で一家4人が死亡した。
トヨタ車であるレクサスを運転中で、警察への電話で「ブレーキがきかない」を連呼。
全米にこの音声が流れた。
一方、車は炎上したので、証拠はなかった。
米国では、フロアーマットが挟まったからではなく、車の電子制御システムが機能不全になったからではとのうわさが広がった。
2月3日、朝日新聞の1面記事が掲載された。
千葉県でプリウスのブレーキ異常で事故が発生したとの記事が載った。
舞台は、米国から日本に移った。
日本のテレビで、切羽詰まった米国トヨタの役員の映像が流された。
このとき、トヨタでは、2つの対応方針を定めた。
年60万台増産していたので、兵站が広がった。
それによる品質の悪化があり、リコールの増加につながった。
この件については、謝罪して反省し、再発防止策をとった。
一方の電子システムについては、エンジンの根幹にかかわることで、絶対に誤りはないことを主張することとした。
米国でのトヨタ批判は燃え上がり、タイム、ニューズウィークなど批判報道が相次いた。
トヨタの社員が3人いて、「今度は誰を殺そうか」と相談する絵も掲載された。
日本人差別、日本人は信用できないところまできていた。

そこで、米国のマスコミから20人を日本に呼んで、現物を見せた。
エンジンであらゆる不都合が生じたら全てダウンする思想で作っているところを見せた。
つまり、なにかあればエンジンが止まるという思想。
こうした思想で作られた車は、絶対に暴走することはないということを説明した。
記者たちは納得し、米国の方がおかしいのではないかと調査を始めた。
NASAに依頼して原因究明も行った。
米国の運輸長官が、トヨタを叩く方針をとっていたことが判明し、最終的にはシロだと分かった。
ドライバーの踏み間違いだった。
トヨタの社長は「なぜドライバーの踏み間違いだと言わなかったのか」と聞かれたとき、「どういう状況であれ、お客様のせいにすることはできません」と答えた。
これは、Q&Aで用意した答えではなかった。
企業の論理を抑え、社会の論理を考えた発言だった。
もし、「踏み間違えだ」と言えば、「踏み間違えたら死んでもいいと言うのか?」となる。
社長の一言で、トヨタはクライシスを乗り切った。
一方、エアバックの会社であるタカタは、クライシスを乗り切れずに、会社は倒産した。
弁護士が「取材に応えるな」と指導していたと聞いている。
実際に、会見もしなかった。
憶測記事が増幅して、もはや手遅れだった。
報道分析ができていないとだめだ。
反省すべきことと、主張すべきことを明確にする。
反省は、原因究明や再発防止策のセットで発信する。
主張すべきことは、ここだけは守らないといけないことで、トヨタにとってエンジン。
これは絶対に守り抜かねばならない。
防衛省は、守り抜くべきものが多いが、社会に寄り添う姿勢も大事。

報道の論調分析をしておく必要がある。
右と中間と左がある。
ネガティブな報道は、無知によるものと、誰かからふきこまれた誤解によるものがある。
もう一つは、そもそも防衛が嫌いなもの。
無知と誤解は、ポジティブに変えることができる。
フェイスツーフェイスで寄り添うことが効果的。
つまり「浮動票」の部分を味方に変え、態勢をリードしていく必要がある。

ちなみに、トヨタでは、2月24日は、「品質安全の日」にしている。
これは、米国の議会の公聴会にトヨタ社長が呼ばれた日。
社長は、米国トヨタ社員を集めて、社長自らが語った。
米国の社員たちは、社長の言うことを信用した。
その会議の光景は、米国のテレビで流された。
それを見た米国の視聴者は、「トヨタって、そんなに悪い会社じゃないよね」と思うようになった。
米国内での世論が変わった。
クライシス対応は、広報だけにまかして他は高みの見物で犯人探しをするようなことをすると必ず失敗する。
毎朝8時30分から、副社長をヘッドに全社的なミーティングを開催した。
人事担当の幹部も参加した。
人事担当者が入ることが大事。
トヨタは各部を通じて、会社全員に今の会社の状況を伝えた。
トヨタ車を売る販売会社にもこうした状況を伝えた。
会社のマネジメントでは、社員から信頼を失うと、SNSで資料などが外に流れ、2次災害、3次災害となる。
舛添東京都知事の会見はこれで失敗した。
勉強になりました。
