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旧日本陸軍は日本の歴史上最大の組織であり、日本人の思想や行動の全てが詰まっている。陸軍を知ることは日本人を知ることである

髙杉洋平さんの「帝国陸軍ーデモクラシーとの相克」(中公新書)を読みました。

大変示唆に富む内容でした。

その中で、私は、二つの点が心に留まりました。

1908年の軍隊内務書の改定と、1912年の第二次西園寺内閣の陸軍大臣上原勇作の二個師団増設の要求事件です。

軍隊内務書は、陸軍内の規律や職務権限、手順などを規定したものです。

軍人としての職務遂行と兵営生活に関する便覧のようなものです。

改定の大きな特徴は、内務規定の厳格化と共に家族主義の強調でした。

兵営を「軍人の家庭」と規定し、上官と部下の関係を「厳父」と「幼児」、下士官と兵の関係を「慈母」と「幼児」にたとえ、厳格の中にも家庭的「融融和楽」と「上下相愛」の気風を求めました。

軍隊内務書改定の背景には、いろいろありましたが、特に深刻だったのは、私的制裁の横行と、それに起因する自殺者や傷病者の増加だったのです。

改定の責任者であった陸軍省軍務局の長岡外史局長は、当時の軍隊内の状況について次のように訓戒しています。

動(やや)もすれば、古兵が新兵を中隊家庭の弟分として可愛がる風がなくして、新兵を虐遇する趣がある、例えば靴を磨かせる、飯桶を搬ばせる、床をとらする位の事は普通と見做され、其の外に私刑が段々行はれる、即ち棚下かがみ、寝台かるひ、木銃、箒の柄等にてする据銃、捧銃等にて苦痛を課するが如き、又鉄拳振舞の如き、往々新兵をして厭世の原因となるもの少なからずして、毎年中耳炎や、鼓膜穿孔にて徐役処分を受くる者の多数は、殴打に基く者多しと云うふに至りては、容易ならぬことと考へらえる、而して是等の事は多く消燈後に行はるるを以て、上級者は余り御存じが無いと云ふ(中略)暗夜右の様なことが往々行はるる、現状の有様に打捨て置くことは出来ぬ。

長岡はこうした兵営生活の荒廃は、「中隊内の家庭の不和から起こるのではないか」と考え、綱紀粛正と共に、家庭的な親睦を兵営生活に導入することを求めたのです。

山本七平さんは、書著「私の中の日本軍」などの中で、昭和の軍隊内の私的制裁の実態を記載しています。

理不尽の日常化:理由がなくても殴られる。あるいは連帯責任という名目で全員が殴られる。

内務班の地獄:戦場の敵よりも、同じ屋根の下にいる上官や古参兵の方が恐ろしいという逆転現象が起きていました。

100年以上たった令和の時代でも、学校や企業にはこうした私的制裁(いじめ)が残っていることに愕然とします。

後者は、宮崎西高の日本史の授業でも習いました。

1912年、第二次西園寺内閣の陸軍大臣である上原勇作が、二個師団を増設して、平時21個師団とするための予算配分を要求しました。

陸軍は、財政の困難は承知しており、部内の行政整理などで費用を捻出し、国庫負担をできるかぎり減らす計画でした。

しかし、西園寺総理は、陸軍の要求を拒絶します。

西園寺総理は、政権運営上、海軍との関係を重視して、海軍拡張を優先するつもりでした。

西園寺総理の決定に、陸軍は態度を硬化させます。

国防方針の所要兵力は天皇の裁可を受けて、西園寺(第一次内閣時)も確認した国会方針ではないか、財政との斟酌を求める首相の要望は理解するが、だからこそ陸軍はすでに努力を払っている、なのになぜ海軍を優先し陸軍が割を食うのか、と。

内閣と陸軍の対立が先鋭化するなか、元老の山縣有朋が両者の調停に乗り出します。

山縣は、西園寺に対して陸軍側の面子をたてるため一定の予算的配慮を求めます。

しかし、西園寺は妥協に応じることはありませんでした。

西園寺の態度は強硬でした。

他方、陸軍側も頑なでした。

後に引けなくなった上原陸軍大臣は、天皇に単独辞表を奏呈します。

西園寺は山縣に後任陸軍大臣の推薦を求めますが、山縣は陸軍との妥協を勧告して後任推薦に難色を示したのです。

陸軍大臣の推薦を得られなかった西園寺は、憤然として総辞職を決行したのです。

外形的には陸軍が「謀殺」した格好ですが、陸軍としては当初から倒閣をめざしたものではありませんでした。

上原は混乱の責任を取らされ、失意のうちに左遷されることになります。

上原勇作は宮崎県の都城市出身です。

この政変により軍部大臣現役制は、倒閣の手段になることが分かったのです。

昭和となり陸軍は、大臣を推薦しないという方法を使って組閣を阻止しています。

つまり政治介入の手段となっていったのです。

こうしたいじめや政治介入の歴史を知ることは、それらの予防に役立ちます。 

陸軍は日本史上最大の組織であり、およそ日本人の思想や行動の全てが詰まっています。

陸軍を知ることは、日本人を知ることに繋がります。


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