災害時の病院は、孫子の兵法のように己の病院の被災状態をアセスメントして、県庁に報告しなければならない
県の医療政策課が主催した宮崎県災害医療コーディネーター研修があり、参加をしてきました。
県医師会、各病院、県看護協会、県栄養士会、県臨床検査技士会、DMAT、JMAT、DWAT、JRAT、日赤、各市町村、各県市保健所、県庁福祉保健課、医療政策課、障害福祉課、精神保健福祉センターが参加しました。
講師陣には、国立病院機構本部DMAT事務局の近藤次長をはじめ、愛知医科大学の災害医療研究センターの高橋先生、宮崎大学医学部の救急・災害医学の落合教授をはじめ、県内の主要な病院の麻酔科や救急医療を担当されている先生方が参加されました。
日曜日の朝9時半開始で、17時終了という大変ハードな研修会でしたが、大変勉強になりましたので、ハベレオ通信でその内容をお伝えしたいと思います。
医療政策課の押川リーダーの挨拶の後、最初に宮崎大学医学部の救急・災害医学の落合教授から、宮崎県の災害医療体制について話がありました。私の感想をはさんで解説します。
令和6年8月8日に日向灘沖地震が発生しました。
発災当時、私は、休暇をとって椎葉村に帰るところでした。
自宅でバタンバタンで本棚が3つ倒れてきました。
まるで、ポルターガイスト現象でした。

16時42分、地震発生、震度6弱、日向灘の深さ30キロが震源地でした。
16時50分 落合教授から、押川リーダーに、今から県庁に登庁すると連絡がありました。
17時32分 落合教授、押川リーダーが災害対策本部に移動、宮崎県DMAT調整本部立ち上げ
20時40分 DMAT調整本部解散
県内の各医療機関に、大した被害はないことが判明しました。
また、救急搬送が必要だった方は数名でした。
津波のために、避難をされて、長い間日差しをあびて熱中症になって救急搬送になった方がいました。
医療機関からの情報が、早めに県庁の対策本部まで届いたことがよかったと思います。
医療機関の状況は、EMISの入力を通じて行われます。

EMISを知らない病院関係者は、モグリです!
読み方を知らない病院関係者は、退場です。
入力方法を、マスターしておくことは、診療報酬の請求事務と同じように必須の知識です。
EMISは、「イーミス」と呼びます。
広域災害救急医療情報システム(Emergency Medical Information System)の略です。
EMISは、全国共通の情報システムです。
災害が発生したときに、現場の病院は、EMISの入力が一番大事です。
これにより、病院の被災状況が災害対策本部に判ります。
つまり、EMISファーストを徹底する必要があります。
しかし、公衆衛生学のテキストに、EMISの記載がありません。
DMATやらトリアージやら災害拠点病院の記載はありますが、これらは、病院の外で起こった被災者の話です。
その前に、まず、病院内の被災の状況を確認しなければなりません。
孫子の兵法の「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」が有名ですが、己の病院の状態をアセスメントして、報告することが大事です。
今は、DMATの仕事は、震災後の倒壊した建物に挟まれてクラッシュ症候群を起こした患者を治療することではなく、被災病院の支援が中心となっています。そして現在は、病院から福祉施設の支援まで活動が広がっています。
災害対策は生き物です。
被災地域のニーズに応じて変化、進化、深化していくものです。
その最初は、病院の被災状況の確認です。
EMIS(イーミス)の入力ができないというイージーミスはだめ絶対です。
「亡国のイージス」という小説がありましたが、「防院のイーミス」という小説を書こうかしら。

宮崎大学医学部救急・災害医学の落合教授の話の続きです。
宮崎県における発災急性期の災害医療体制です。
DMAT活動拠点本部が3つあり、設置場所、担当する医療圏は、以下のとおりです。
①延岡西臼杵・日向入郷 県立延岡病院
②西都児湯・宮崎東諸県・日南串間 宮崎大学附属病院
③都城・北諸県、西諸 都城市郡医師会病院
県庁に保健医療福祉調整本部があり、ここに宮崎県DMAT調整本部が立ち上がります。
ドクターヘリ調整本部もここに位置づけられます。
高鍋保健所管内は、「西都児湯・宮崎東諸県・日南串間DMAT活動拠点本部」に属しております。
この県域の災害拠点病院・DMAT指定病院は、宮崎大学附属病院、県立宮崎病院、宮崎市郡医師会病院、宮崎善仁会病院、西都児湯医療センター、県立日南病院です。
このうちDMAT指定病院が、2m~5mの津波で浸水する可能性があります。
つまり実際の南海トラフ地震が起こって、津波が発生した場合は、病院の外来や入院医療が機能しない可能性が高くなります。
宮崎県内には病院が130ほどありますが、外来や入院医療の機能の維持困難が予想されるものがあります。
西臼杵・延岡 病院避難3 病院籠城10
日向・入郷 病院避難1 病院籠城 7
西都・児湯 病院避難3
宮崎・東諸県 病院避難7 病院籠城3
小林・西諸県 病院避難3
都城・三股 病院避難4
日南・串間 病院避難1 病院籠城4
病院避難という事態は、災害による影響で、病院の建物が倒壊する、またはその恐れのあるような状況下で生じます。
建築された時期が古く、耐震構造がなされていない病院や、耐震検査が実施されていない病院は、そうしたリスクがあります。
外来や入院機能を停止して病院が籠城する場合には、外部からの物資支援が不可欠です。
病院への補給が途絶えれば、入院患者は、低栄養となり、低体温症になる場合があります。
実際に昨年元旦に発生した能登の地震では、入院している患者さんが餓死・凍死しないように頑張った、とDMATの近藤先生が言っておられました。
病院の主要なライフラインは、以下がありますが、政府の補給体制が構築されています。
電気 ← 電源車
飲料水 ← 給水車
燃料 ← 給油
医薬品 ← 補充
食糧 ← 補給
しかし、実際に現場の病院に届くかどうかは、道路が通じていない場合など困難なことが多いのです。
最後のラスト1マイルが重要だと、言っておられました。
例えば、食糧を集積場所まで取りに来ることができないところもあったそうです。
誰かに略奪されたこともあるとのこと。

私が厚労省にいたときの災害時での経験では、以下のようなことがありました。
熊本地震のときは、熊本市民病院は倒壊の恐れがあって、入院患者を別の病院に避難させました。
数年後に、移転して新築しております。そのときは地域医療介護総合確保基金を使いました。
広島の水害のときは、広島県の病院の多くが、水道が使えなくなりました。
井戸水が使えた病院は、大丈夫でした。
自衛隊の給水車で病院に給水してもらいました。
市町村の給水車は1トンが普通ですが、自衛隊は5トンなので、重宝しました。
市町村の給水車は事後報告がなく、給水したかどうか担当者に聞かないと判りませんでした。
その点、自衛隊は病院名と、目標給水量をお願いすれば、目標を達成するまで給水作業をしてくださり、事後報告は完璧でした。
厚労省から広島の本部に職員がかわりばんこに派遣されましたが、私は、自衛隊員へのお土産を持ってくるように指導しておりました。
広島県の対策本部に到着したら、まず自衛隊の班長に着任の挨拶をして、お土産を手渡すように言いました。
これは極めて有効でした。自衛隊員は病院への給水作業を最優先でやってくれました。

さて、病院避難の場合は、患者を搬送するのに、ヘリコプターを利用する空路と、救急車を利用する陸路の二つがあります。
災害時における航空搬送の原則は、次の3つです。
①緊急性を有するものは原則ドクターヘリで対応
②救助を要するものは、原則消防防災ヘリもしくは自衛隊ヘリで対応
③上記以外の航空搬送は、災害時ヘリ運用調整本部で調整
使用できるヘリコプターの台数が限られており、きちんとしたコマンドが定められています。
警察、消防、海上保安庁、自衛隊、国土交通省による運用調整本部と調整する必要があります。
県内では、病院の屋上にヘリポートがあるのは、
県立延岡病院、共立病院、宮崎市郡医師会病院、県立宮崎病院、宮崎大学病院、都城市郡医師会病院、です。
その他、地上グランドが使用できるものが、川南病院、小林市立病院があります。
航空自衛隊の新田原基地に比較的近い場所にある西都児湯医療センターは、別の敷地でヘリコプターが着陸できます。
高千穂町国民健康保険病院は、熊本の医療機関に陸路で搬送する場合の中継基地としての機能も考えられます。
宮崎県における災害医療活動の課題としては、以下があります。
①孤立が予想される地域をどう支援するか。
例えば、串間市などは、県境を越えた検討が必要になります。
②社会福祉施設の情報収集と支援をどのように進めていくか。
宮崎県では沿岸地域に多くの社会福祉施設が位置しており、災害発生時は、それらの施設の被害状況の迅速な収集が必要となります。
福祉施設には、病院のような全国統一のEMISはありません。取り残された福祉施設の入所者は、一番の災害弱者となります。
③在宅医療を受けている人の情報収集と支援をどうするか。
人工呼吸器を使用している在宅患者には、あらかじめBCP計画を作っておくとか、病院で酸素ボンベを準備しておくことが大事です。
④鹿児島県側に、宮崎県の患者を受け入れることは可能か。
熊本県は南海トラフの被害は少ないと予想されるが、鹿児島県は大隅半島、種子島、屋久島など島に津波被害が生じ、鹿児島県内に患者が避難する可能性が高いです。
こうした中で、現実的に宮崎県の患者の受け入れをしてもらうことができるかどうか判りません。
以上、宮崎大学医学部の救急・災害医学の落合教授の講演を中心にまとめてみました。
