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二宮尊徳、松下幸之助、ドラッカーを知らず、病院経営を診療や研究の片手間でやって赤字にしているのは犯罪である

山下武志先生の「医師に大切な4つの力 もし1年目の医者が医師歴30年ほどの経験知を得たら-」(南山堂)を読みました。

これまで医者と研究者として生きてきた山下先生が、突然、病院の経営を任されることになりました。

病院経営は慢性的に赤字状態に甘んじていました。

山下先生は、二宮尊徳の精神に戻って病院長職に臨みます。

二宮尊徳は、別名二宮金次郎さんです。

よく、小学校には、たきぎを背負って本を読んでいる二宮金次郎さんの像がありました。

山下先生は私より2つ年上ですが、よくぞ二宮尊徳の言葉を覚えていたと思います。

道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という恐ろしいお言葉です。

赤字だったら、いくら偉いことを言っても寝言に等しいといっております。

山下先生は、パナソニックの創始者の松下幸之助の言葉、「赤字は犯罪であり、企業は社会に対して、一つの過ちを犯したのでという厳しい自覚をもって然るべえきだと考える」を引用し、自分にとっては、まず赤字体質からの脱却が急務だったとおっしゃっています。

山下先生は、二宮尊徳+松下幸之助+ドラッカーの考えを、病院経営に取り入れました。

ドラッカーが病院に特化してそのマネジメントに触れた、「すべてのサービスは患者のためにー伝説の医療機関”メイヨークリニック”に学ぶサービスの核心」という本を買って読んだそうです。

病院を「改善」するのか、「改革」するのかをまず決めました。

医療の質は高く、コストの削減も可能な取組は、既に実施済みでした。

先輩たちが努力しながら改善してきているなかでの慢性的な赤字なので、さらに改善できるところはそう残っていない。

山下先生は、病院の改善ではなく改革に手を付ける必要があると判断しました。

すなわち「不連続」を目指すということでした。

病院が生き物であると考えたらどうか。

病気になっている病院を治療すると考えたらどうか。

これが出発的となりました。

病院という患者がどのような状況にあるかを、あらためて知らなければならない。

院長になってまず行ったのは、これまでの経営に関する数字を読み解くこと、そして病院内をくまなく歩くことでした。

中規模病院の財務は比較的単純であることを知りました。

人件費を中心とする固定費と、医療収入の粗利率はほぼ一定です。

総診療収入に粗利率をかけ、この粗利が固定費を上回れば黒字になるという小学校の算数レベルということを知りました。

病床稼働率を規定する新患数(新しく訪れる患者)を、今以上に増やすしかない、という結論です。

改革には仮説の設定が必要になります。

山下先生は、一つのシンプルな仮説にたどり着きました。

医療の質は高いが、医療のサービスが低い。

そもそも医療人は、医療はサービスであるという概念が乏しい。

「病院をディズニーランド化する」という標語が頭に浮かびました。

ディズニーランドはサービスの象徴であると同時に、訪れた人が実際に満足する場所として知られていました。

医療の質に加えて、医療のサービスが向上すれば、新しく病院を訪れた人は今までよりずっと満足し、安心してくれるに違いない。

患者は、リーピーターとなるだけでなく、かかりつけ医、親族、友達にその感想を話してくれるはずだ。

山下先生の仮説は「アカデミック × サービス」というかけ算です。

口コミを介して、新患者数、ひいては病床稼働率を増加させるという単純なものでした。

山下先生は、病院の職員全体を相手に、自分の考え方を、特にこの病院をどのような病院にしたいかを、直接プレゼンテーションをしようと決めました。

近隣で倒産した病院の話や、二宮尊徳の言葉などで危機感を訴え、皆で病院を改革しなければならないことを伝えました

スライドが分かりにくいという声があったので、スライドを工夫します。

病院内を歩き回り、さまざまな職員に話しかけてみました。

ランチョンミーティングでは、様々な職員とランチを食べながら意見を聞きました。

病院内のさまざまな委員会では、可能な限り出席して自分の意見を説明しました。

毎月の病院運営会議では、連絡事項の報告だけだったのを、自分が司会をしていたので、出席した各代表に自分の疑問をぶつけました。

病院改革に取り組むために、プレゼンテーションだけではなく、コミュニケーション力を総動員しました。

ディズニーランドの中に不人気のアトラクションはないように、病院内に有効利用されていない部門があってはいけません。

山下先生は、医師以外の職種によるプロジェクトチームをつくりました。

そして成功例を一つつくろうと、病院の外来部門に着目します。

新しい患者が初めに病院を体験するのは外来部門です。 

外来はいわば病院の玄関です。

プロジェクトチームのメンバーに、「実際の業務時間中に、紹介された一人の新患として、この病院を受診する体験をしてもらいたい。そのとき感じた感想をもとに、じぶんたちがどのような病院にしたいか話し合って欲しい」と伝えました。

プロジェクトチームでまとめられた外来部門に対する意見は、役員会を経て、職員全体を対象にした発表会で、提案として発表されました。

提案のほとんどは、すぐに実行に移されました。

その結果、病院の外来の雰囲気が一気に変化しました。

その後、病院の各場所で同じような手順で改革を進めていきました。

1年間の改革で、新規の病院患者数は約10%増加し、それに伴い病床稼働率も増加し、最終的に病院は赤字からわずかながらの黒字に転じました。

病院が黒字化したのは、実に何十年ぶりのことでした。

その後、プロジェクトチームは継続され、新たに生じた課題の解消を行いながら、2年目には新患者数・病床稼働率ともにさらに増加し、大幅な黒字に転換しました。

仮説検証がしっかりなされたという結果となりました。

山下先生は、病院長を3年間やって後任に譲ります。 

山下先生は言っています。

病院経営は、真剣に行えば、診療や研究の片手間でできるような生半可な仕事ではない。

中途半端な覚悟で行えば、おそらく失敗する。

時代の変化を感じれば、今後さらに難しい仕事になっていくことも確実だ。

それにしても、二宮尊徳、松下幸之助、ドラッカーを知っている病院長が、日本にどのくらいいるのでしょうか。

この三人を知らず、病院経営を診療や研究の片手間でやって、赤字にしているのであれば、まさに犯罪です。

これは山下先生の本を読んで、感じた個人の感想ですので念のため。

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