「治す医療」から「治し支える医療」への転換は、長期政権を保った臓器別専門医時代の終焉を意味する
西野亮廣さんの「夢と金」(幻冬舎)を読むと、地域医療構想を考えるのに参考となります。
西野さんは、未来を予測することなんてできないけど、一つだけ確実に分かっている未来がある。「人口だ」と言っています。
人口は出生数以上にはならない。
2022年の日本の出生数はついに80万人を割った。
2012年と比べると、約26万人も減ったそうだ。
国立社会保障・人口問題研究所は、2017年に「日本の出生数が80万人を下回るのは2030年!」と算出したが、とんでもない。
日本の少子化は、想定を上回るペースで進んでいる。
厳密にいうと「少母化」だ。
国立社会保障・人口問題研究所ですら”出生数”の予測を外すくらいなのだから、素人の僕らは予測をベースに行動するのはもうやめて、目の前にある確実な数字(人口)と向き合った方がいい。
とにもかくにも、泣いても笑っても日本の人口は減っている。
20年後、20歳の日本人が80万人以上になることは、確実にない。
日本人向けに商売する人間にとっては、「お客さんが激減している」という危機的状況だ。
長い引用でしたが、2025年の出生数は70万5809人です。
もはや70万人台割れ目前です。
医療界では、まだピンと来ていない関係者が多い状況です。

一方の2025年の死亡数は、160万5654人。
2025年に90万人が減ったことになります。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、死亡数は団塊の世代が90代を迎える2040年頃にピーク(167万人)に達すると予測されています。
今後もしばらくは、年間160万前後が亡くなる状況が続く見込みです。
とすると、日本の人口は、毎年90万人減っていくことになります。
宮崎県の人口は103万人です。宮崎県においても死亡数が出生数をはるかに上回っており、2024年の「自然減」は1万1000人。「町」が毎年2つ減っていく状況です。
人口減は、医療では二つの影響があります。
患者の減少と医療従事者になる人の減少です。
医療従事者の確保は、致命的です。
日本の医療機関は、ほとんどが保険診療により収入を得ています。
「診療報酬」は国が定めた公定価格ですが、医師数や看護師数といった医療従事者の数で算定されます。
看護師を集められない医療機関は、病床の削減などを行うことになります。
人口の減る地域の医療機関では患者の取り合いだけでなく、医療従事者の取り合いが起こります。

2026年度から開始する新しい「地域医療構想」では、2040年には85歳以上の患者さんが主体となると言っています。
厚生労働省は、「治す医療」から「治し支える医療」への転換を打ち出しています。
これは長期政権を保った臓器別専門医時代の終焉を意味します。
85歳以上の患者は、多くの疾患を抱えています。
外国のプライマリケアの世界では、マルチモビィディティ(多疾患併存)について研究がなされてきました。
マルチモビィディティの患者に、個別疾病のガイドラインどおりに治療を進めると、かえって患者の状況を悪くします。
多疾患併存状態を支える最適解は何かを探して、患者と家族と多職種間の連絡調整するマネジメント力が必要になります。
85歳以上の患者は、6割が介護保険を利用しています。
ということは、85歳以上の患者を診る医師は、介護保険の知識も必要です。
入院よりも住み慣れた在宅でフォローする方が理にかなっています。
こうした多疾患併存状態のマネジメントが可能で、介護保険の知識もあり、在宅医療もできる医師が求められています。
ハイスペックな臓器別専門医は、85歳以上が主流となるこれからの地域医療ではオーバースペックとなってしまうのです。

西野さんは、日本の携帯電話の歴史の例を挙げています。
いろいろなメーカーが多種多様な携帯電話を売り出し、群雄割拠の様相を呈していました。
ガラケー時代は、日本の携帯電話は、「軽さ」を競っていました。
新機種が出る度に「コンパクト」「軽い」を売り込んでいました。
携帯電話のルーツは1985年に出た「ショルダーフォン」です。
当時の携帯電話には、名前のとおり「肩ヒモ」が付いていました。
肩ヒモが必要になるぐらい、大きくて重かったのです。
それでも当時は、それが最新テクノロジーで「電話を外に持ち歩けるなんて!」と全員がひっくり返っていました。
1989年に発売されたマイクロタックが、携帯電話の流れを大きくかえました。
キャッチコピーは、「着信はポケットで」
携帯電話がポケットに入れて持ち運べるサイズになりました、が携帯電話の最大のセールスポイントでした。
日本の携帯電話業界は、軽量化、コンパクト化に進んでいき、ついにはオーバースペック状態となってしまいます。
その後、まったく軽くもない「iPhone」が登場し、この1機種で駆逐されることになります。
「別の価値」を提案した黒船に日本は大敗を喫しました。
西野さんは、言います。
オーバースペックが職人の矜持や自己満足であり、社会的には無駄骨になる可能性を多分に秘めていることは分かっておいた方がいい。
すでにあらゆるサービスは「満足ライン」を越えている。
自分の商品を高く売るには、「技術以外の何か」を提供する必要がある。

AIは医療の黒船。
AI搭載の外来診療ツールが一般化すれば、へき地でも大学病院でも同じレベルの外来診療が可能になります。
AIは過去のエビデンスを集めて提示するには極めて優秀です。
医学との親和性が極めて高く、これまでの医学常識を駆逐するほどのポテンシャルを持っています。
2026年の診療報酬改定では、AIが登場しました。
2040年までは14年。今回が新しい地域医療構想を踏まえた報酬改定元年で、今回を含めると7回の改定があります。
AIの進化はドッグイヤー。
1年で人口90万人規模の政令指定都市が一つ消滅する時代です。
黒船が来てから幕府が崩壊するまでの期間は14年。
人口減少下の医療、いわゆる「地域医療構想」について、関係者は、それこそ脳みそから汗をかくほど、生き残りをかけた勉強が必要です。
