疲れて眠くなるのは健康であり、疲れたのに眠くならないのは病気である
児湯ブロック民生委員児童委員研究会では、井上病院の米良誠剛先生の講演がありました。
「高齢者のこころの健康~失いながらも得ていく生き方~」というタイトルです。
大変為になる内容でしたので、二回にわたってハベレオ通信で紹介させていただきます。
いつものとおり私の個人的な感想も交えております。
米良先生は精神科の先生で、最初にうつ病の夫を描いた闘病マンガを紹介されました。
細川貉々さんの「つれがうつになりまして。」(幻冬舎文庫)です。
2006年に発売され、大反響でベストセラーとなり、2009年にテレビドラマ化、2011年には映画化されています。
主演は宮﨑あおいさん、堺雅人さんです。
NHKの大河ドラマ「篤姫」のコンビです。
私はテレビでこの映画を見たことがあります。
スーパーサラリーマンだった夫は、半年間激務が続き、家に買ってくると抜け殻のような状態でした。
その結果、疲れすぎて仕事がいやになり、失敗ばかりするようになり、ねられなくなります。
ある朝、真顔で「死にたい……」と口にしました。
驚いた妻は、病院に連れて行きます。
病院の診断結果はうつ病でした。
人間には感情に関する遺伝子があります。
なぜ、こうした遺伝子が残っているのでしょうか?

さて、今日のテーマは、レジリエンスです。
回復力・復元力ともいわれますが、レジリエンスとは何でしょうか。
ボールはこころ、蹴ることはストレスです。
ボールを蹴ると、凹みますが、もとに戻ります。
ストレスは、人が生きていく上でのスパイスのようなものです。
大事なのは、ストレスを受けても心のしなやかさを保つこと。
つまり、心の回復能力です。
回復能力には素因があり、生まれつきの遺伝やこれまでの生き方により人により違っています。
この回復能力に、何らかの”きっかけ”があると、うつを発症します。
今回の講演のキーワードは「しなやかさ」です。
しなやかさとは、心が回復する能力。
「うつ」になりやすい人は、さながらガラスの玉のようで、精神的に健康な人は柔らかいゴムボールのようになっています。
回復する能力は、「レジリエンス」と呼ばれます。
「レジリエンス」を高めることが、メンタルヘルスです。
今日のお話は、このレジリエンス(開封力・復元力)をキーワードに進めていきます。
すなわち、メンタル不調者のレジリエンス、自殺念慮のある方のレジリエンス、会場のみなさんのレジリエンスです……。
ちなみに、高田純次さんは、大変しなやかで、レジリエンス力が高いと感じます。
レジリエンスは、年を取ると低下していきます。

「喪失」という体験や経験は、うつになりやすいです。
高齢者の喪失の場合は、病気やけが、配偶者の死などがあげられます。
うつ病では、気力や集中力が落ちてしまうため、記憶力や知的機能が低下し、一見「認知症」のように見えることもあります。
メンタル不調は、まず身体から始まります。
睡眠障害、頭痛・肩こり、倦怠感・疲労感、食欲不振、便秘、下痢、のどの渇き、動悸、めまい、耳鳴り、寝汗、排尿困難、性欲減退。
これらはメンタル不調者に多く見られる症状です。高齢者のうつでもよく見られます。
うつにおける身体症状は多く、初診受診する診療科は内科で、65%にもなります。
次が婦人科(9%)、脳外科(8%)、精神科(6%)、心療内科(4%)の順となっています。
身体症状は、レジリエンスが低下しているサインです。
不安を感じる
イライラする
自分に自信が持てない
人がうらやましくて仕方がない
外出するのが面倒だ
眠れない
疲れがとれない
食欲がない
考えがまとまらない
些細なことで泣いている
身体などからのサインをキャッチして、次に取る行動は、休養です!
音楽を聴く、キレイな風景を見る、美味しいものを食べる、旅行に行く、映画を見るは、ダメです。
これらは脳神経にとっては、全て×です。
眠ることでしか、脳は休養をとれません。
睡眠とレジリエンスとは大事な関係があります。
「疲れていて眠い」は健康で、「疲れているのに眠れない」は病気です。

朝の強い光は大事です。
ヒトは一日にほぼ1時間遅れる体内時計があり、正しい時刻にあわせようとします。
このリセットのために光が重要な役割を果たしています。
もしヒトが外の光を浴びずに生活をしていたら、ヒトの体内時計を、24時間に修正できなくなります。
睡眠中は大事な時間で、この間に成長ホルモンが作られます。
成長ホルモンは、組織の成長、代謝の促進、病気への抵抗力を高める、細胞の修復を促進するための役割を果たしています。
寝る子は育つといいますが、子どもだけのホルモンではありません。
健康や若さを維持する重要なホルモンです。
決まった時刻に寝ることよりも、決まった時刻に起きることが大事。これは休日も同じです。
改めて、強い光を浴びるのは……「朝」です。

宮崎県出身の儒学者安井息軒は、江戸に「三計塾」を開きました。
三計とは、①1日の計は朝にあり、②一年の計は春にあり、③一生の計は少壮にあり、から来ています。
息軒は、朝を大事にしていました。
ちなみに安井息軒の妻を、森鴎外は小説にしております。「安井夫人」です。
宮﨑一の美人の佐代さんが、あばただらけで醜い顔の息軒に嫁ぎました。
周囲の人は不思議に思いましたが、佐代さんは、夫の才能を信じて、その学問を世に出すことを自らの使命としたのです。
なんと羨ましい息軒先生です。
その結果、三計塾には、約2000人もの門下生を輩出しています。
その後成長して、明治時代に大臣となった谷干城、陸奥宗光、品川弥二郎が有名です。
話が横道にそれました。

うつからの回復のために、レジリエンスのために何が必要でしょうか。
薬物療法と運動療養があります。
大人も子どもも運動(遊び)をする。夢中になって遊ぶ。
たくさん汗をかく。暑さや寒さを体験する。勝ち負けでワクワクしたり、がっかりする。
たくさん頑張ったあと、からだは疲れます。
当たり前の事のようですが、これはなかなか理解されていません。
言い方を変えれば、休まなければ頑張れない。
昭和時代に私が受けてきた教育は、頑張ることだけが大事で美徳とされてきました。
しかし、精神的健康という面からみれば、間違っていた。
頑張ることは大事ですが、同じように休むことも大事だと教育する必要があった。
健康時は、場面に合わせた速度で、必要なときにガソリンが給油されます。
うつの前駆状態は、休まずに常に高速で疾走している状態ですが、給油ができません。
うつ病の状態は、アクセルに無反応で、ガス欠状態です。

人格(personality)の由来は、仮面(persona)です。
「人格=人間の本質」では、ありません。
その人の社会への適応の仕方なのです。
表面的で類型的な特徴です。周囲の人に印象付けられる「その人らしさ」です。
柔軟に、しなやかに生きるために、「仮面」をたくさん持ちましょう。
レジリエンスは、形を変えることができる能力とも言えます。
人格は変化します。環境の適応の仕方で変わります。
職場での自分
家庭での自分
友人の中での自分
自分ひとりのときの自分
仲良しの中での自分
苦手な人の前での自分
いつも同じで一貫性があるわけではないのです。
「うら・おもて」、「かげ・ひなた」も結構。
この「人格=仮面」をほどほど持っている人が、「柔軟性・しなやかさ」を発揮できます。
自殺のサインを見逃してはいけません。
介入する際に場合によっては、自殺の気持ちの存在を確認する必要があります。
もう消えてなくなってしまいたいとまで思う?
死んだほうが楽になるのでは、と思い詰めている?
自分がいないほうがみんなのためだ、と自分を責めていない?
これらが認められれば、もはやレジリエンスを期待できる状況ではありません。
医療への橋渡しを「すぐに」行わなくてはなりません。
自殺の気持ちを確認する前に、非言語のメッセージを読み取りましょう。
目の動き、表情の変化、態度、わずかな体の動きに注目しましょう。
特に質問の直後の様子を注意深く
返事の際、一瞬のためらいやひっかかりがあれば多少あると思われます。
自殺予防のための声かけは、「死にたくなるほどつらかったんですね」と「つらさ」に目を向けます。
自殺をしない約束をしましょう。「ゆびきりげんまん」も効果的です。
その他の自殺のサインには以下があります。
・死にたい、消えてしまいたい、遠くへ行きたい
・自殺の準備をする、遺書を書く
・周囲の人に別れやお礼を告げ、大切なモノを渡す
・身の回りのものを整理する
・無茶な飲酒
ここまでは、まだ介入できる(レジリエンス的)可能性があります。
しかし、自殺を本気で考え始めた人は、隠避・否定をします。
自殺直前に援助者にその意図を伝える者は、実は少ない。
自殺を決意した者は、援助者を敵とみなす傾向があります。
できることの”限界”も認識しておく必要があります。
