T3CはMARCHである。この「見出し」がわかる人はグローバルな救急のプロである
戦術的戦傷救護(T3C:Tactical combat casualty care)は、米軍と米軍保健衛生大学が作成した戦傷救護のガイドラインです。
出血の制御を救命の要としています。
一言で言えば、「止血ファースト」です。
米国特殊作戦司令部のフランク軍医が作成の立役者で、一九九七年から米軍の特殊部隊に導入され、二〇一〇年からは米軍全軍に導入されています。
T3Cは、負傷者救護、救命処置の標準と位置付けられており、米国外科学会からも推奨されています。
過去の戦争における米軍兵士の死因分析をした結果、生存した可能性のある死因は、出血が九一%、気道閉塞が八%、緊張性気胸が一%であることが判りました。
特に、四肢の外傷からの出血が全体の死因の九%を占めていました。
米国は、アフガニスタン紛争、イラク戦争において四肢からの出血に対して軍用止血帯CAT(combat application tourniquet)による止血を全軍に指示した結果、四肢からの出血で死亡した例が全体の三%までに減少しました。
戦争や紛争などの戦闘で発生する外傷は、爆弾の破片や銃創が大半を占めます。
また、多数の負傷者が同時に発生します。
こうした銃や爆弾による血管損傷は、わずか数分で致死的な状態に陥ることもあります。
T3Cは、まず大量出血の処置を行い、次に気道、呼吸、循環、頭部外傷及び低体温の順番に処置を行うことが特徴です。

T3Cでは、頭文字を取って「MARCH」と教えています。
①Mは大量出血、
②Aは気道管理、
③Rは呼吸管理で、緊急性気胸に対する緊急脱気や開放性気胸に対するシーリング処置が重要です。
④Cは、循環管理で、静脈路の確保やショックへの処置です。
⑤Hは頭部外傷と体温管理で、低酸素や低血圧による頭部外傷の悪化回避、低体温による凝固障害や出血助長を防ぎ、そのために負傷者の保温や皮膚の露出を最小限にします。

第一線救護衛生員
防衛省においては、出血コントロール、気道確保、脱気、鎮痛剤等の薬剤投与などの救命率を向上させるために必要な医療行為について検討し、平成二八年九月に最終報告をとりまとめました。
准看護と救急救命士の資格を持つ自衛隊員で一定の訓練を受けた者は、第一線救護衛生員として、胸腔穿刺、輪状甲状靭帯切開、穿刺、骨髄路確保、輸液、抗生剤及び鎮痛剤投与などの緊急救命処置を行うことが可能になりました。
平成三一年度から養成が開始されています。
第一線救護衛生員を配置し、受傷後一〇分以内の救護の質の向上、救命率の向上を図ることにしています。
石破茂議員、中谷元議員の二人の防衛大臣経験者が、訓練を視察に来られました。
内局の人事教育局長、教育訓練研究本部長も随行されています。
基本処置である、MARCHの大量出血、気道、呼吸、循環、低体温等の対策の手技を見てもらいました。
第一線救護衛生員は、止血、甲状軟骨切開、骨髄への輸液、麻酔薬の投与、抗生物質の投与など、流れるようにスムーズに手技を披露しました。

救命ドクトリン
救命ドクトリンの目的は、受傷から救護を受けるまで及び外傷のダメージコントロール手術を受けるまでの時間を短縮するとともに、各段階における治療施設までの後送時間も短縮し、真に救命率を上げることです。
そのための目標として、受傷後一〇分以内に救護が受けられる衛生支援態勢の構築、一時間以内にダメージコントロール手術が受けられる衛生支援態勢の構築、あらゆる後送手段を用いた迅速・確実な後送態勢の構築、の三つを設定しています。

個人携行救急品
米国陸軍が、二〇一三年に公表した個人用救急品セットはアイファックと言われています(IFAK―Ⅱ:individual first aid kit Ⅱ)。
現在の陸上自衛隊員の個人携行救急品は、米軍とほぼ同じものを揃えています。
明治時代の陸軍創世期には、三角巾一枚で、包帯と止血の用途に使用しました。
三角巾は、軍医や衛生の下士官が近くにいなくても兵卒自ら初期治療ができる装備として配布されました。
一八七三(明治六)年に、陸軍衛生部の石黒忠悳が考案しました。
ドイツの軍医総監エスマルクが作った三角巾を参考にしています。

三角巾には、使用方法の図が印刷されていました。
一八七〇~七一年の普仏戦争では、ドイツ軍兵士は、三角巾の使用法をよく訓練していたので大いに助けになったとされています。
石黒は、「願わくば、我が国の兵士も平日よく之を習得おき万一の時、之を施せば大いに治療の助けになり、又、軍医の事欠けても補うに足る」と数千枚印刷して、繰り返して兵たちに練習をさせたそうです。
明治一〇年の西南戦争の田原坂などの戦場や、後送先の大阪臨時陸軍病院などで使用されました。現在の救急包帯につながっています。
昭和の陸軍では、兵隊一人ひとりに持たせる応急治療セットを支給しました。
中身は、ガーゼ、油紙、繃帯を小さくひとまとめにして国防色の三角巾で包んだもので、表に使い方が印刷されていました。
繃帯包は、軍服の上衣の左ポケットに入れることに定められていました。
負傷したときは、繃帯包を取り出して自分自身が重傷のときは、戦友の手で応急処置をしてもらい、後方の野戦繃帯所か軍医のいる野戦病院まで後送しました。
戦場では、兵器、弾薬の次に大事なものでした。
戦争中、陸海軍の病院を皇后陛下が行啓し、従徒をつかわさして戦傷の将校を見舞うことがあり、病床では繃帯包が配られました。
菊の御紋章、「賜」の一字があり、皇后陛下お手巻きの繃帯といった伝承を持ったありがたい見舞い品でした。

ターニケット
ターニケットは、大出血の場合に第一選択の止血デバイスとなっています。
安全の目安は二時間とされています。
ターニケットにより切断となった例はありません。
ターニケットは、前腕、大腿でも十分に機能します。
また骨間動脈が走行している場所でも有効です。
使用後に定期的に緩めることはかえって障害の原因となり、生命の危険にさらす恐れがあることから行うべきではないとされています。
ターニケットを締めると痛がりますが、効果の証左とされています。
昭和一八年「軍陣衛生要務講義録(第一巻)」(陸軍軍医団編)では、救急法について、古来から武人の嗜みとして手技を錬磨したが、今ではそれがなくなっていると危機感を持っています。
救急法の大切さは、日露戦争や第一次世界大戦でも証明されているとし、ノモンハン事変では、塹壕で衛生兵の活動が制約を受けて、負傷したときに周到狼狽し衛生兵を呼んで時期を逸し、失血死した兵が多かったことを述べています。
こうしたノモンハンの教訓を鑑みて、四肢の出血は完全に止血できるようにするよう指摘しています。
止血ファーストです。
T3Cの解説は、noteクリエイターの元自の新人看護師・2児の父さんの記事が参考になります。
必見です。
