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地域医療は畳水練では学べない。大学病院という「畳」の上で、地域医療という「泳ぎ」を学ぶことはできない

稲森和夫さんの「生き方」はどこを読んでも参考になります。

この「生き方」に登場する主な経済人で、多くを割いてそのエピソードを紹介しているのは、松下幸之助と本田宗一郎の二人です。

いずれも講演を聴いたという話です。

松下幸之助のダム経営の「失笑失望」講演の話は、以前書きましたので、本田宗一郎の「クソミソ」講演の話を紹介します。

京セラをつくって間もないころ、稲森さんはある経営セミナーに参加しました。

講師の中に、本田技研工業を創業した本田宗一郎の名前があったので、稲森さんは高名な経営者の話を一度聴いてみたいと思いました。

ある温泉旅館を借りて二泊三日で行われるもので、参加費用は数万円と、当時は大金でした。

とにかく、本田宗一郎さんの顔を見て、声を聴いてみたいという想いが強く、周囲の反対を押し切ってなかば強引に参加をしました。

現在で言えば、なんとしてもアイドルに会って握手するためにCDを大量買いする「本田宗一郎推し」のひとりです。

失礼ですが、なんとなくかわいい感じがします。

さて参加者は温泉に入って浴衣に着替え、大広間に座って、本田さんが来るのを待っていました。

しばらくして本田さんが姿を現しました。

コスプレではなく、浜松の工場から直行してきたような油のしみた作業衣姿でした。

マイクを手に、開口一番、こう一喝したのです。

みなさんは、いったいここへ何しに来たのか。

経営の勉強をしにきたらしいが、そんなことをするひまがあるなら、一刻も早く会社に帰って仕事をしなさい。

温泉に入って、飲み食いしながら経営が学べるわけがない。

それが証拠に、私はだれからも経営について教わっていない。

そんな男でも経営ができるのだから、やることは一つ。

さっさと会社に戻って仕事に励みなさい。

歯切れの良い口調でクソミソにいい、おまけに、「こんな高い参加費払ってくるバカがどこにいる」とまで毒づかれたのです。

こちらはグウの音も出ない。

まったく本田宗一郎さんのいうとおりだったのです。

そんな姿を見て、稲森さんは本田宗一郎さんによりいっそう魅せられるとともに、よし、オレも早く会社に帰って仕事にとりかかろうと思ったそうです。

稲森さんは、人生では「知識より体得を重視する」ことは大切な原理原則だと言っています。

「知っていること」と「できる」ことは必ずしもイコールではない。

知っているだけで、できるつもりになってはいけない、という戒めです。

理論どおりにやってみても思い通りのものはできません。

現場で何度も経験を積むうちに次第に真髄が把握できる。

知識に経験が加わって初めて、物事は「できる」ようになる。

それまでは、単に「知っている」に過ぎません。

情報社会となり知識偏重の時代となって、「知っていればできる」と思う人も増えたようですが、それは大きな間違いだ。と稲森さんは指摘しています。

できる」と「知っている」の間には、深くて大きな溝がある!

それを埋めてくれるのが、現場での経験だ!

温泉旅館の経営セミナーに出席していた稲森さんたちを叱責した本田宗一郎さんは、「畳水練」のバカバカしさを教えていたのだ、と稲森さんは言っております。

畳の上で泳ぎをいくらうまく習ったところで、泳げるようにはならない。

それよりもいきなり水に飛び込んで、無我夢中で手足を動かせ、現場で自ら汗をかかないかぎり、経営なんてものはできやしない。

本田さん自身がそうであったように、偉大な仕事をなしうる知恵は、経験を積むことによってしか得られません。

自らが体を張って取り組んだ実体験こそが、もっとも貴い財産になります。

このエピソードを医学に置き換えてみました。

地域医療は畳水練では学べません。

大学病院という「畳」の上では、地域医療という「泳ぎ」を学ぶことはできません。

人間は、生まれてまもなく泳ぐことができる水鳥や海獣ではありません。

その証拠に、漫画「ワンピース」の主人公で海賊王になる野望を持ったルフィーは泳げません。ちょっと違うきもしますが……。

水泳と同様に、最初から地域医療ができる医師はいません。

ヒポクラテスも地域医療に従事する医師用のマニュアルを作っています。昔は医師は定住せず、地域を渡り歩く存在でした。

地域にまきこまれ、もがくことにより、地元の住民や医療従事者から教えられてはじめてご当地の地域医療がどのようなものであるかが体得できます。

あれこれ考えるよりも、環境を変えるとマインドが変わります。

地域医療は、まず行動です。

昨年のベストセラー、長倉顕太さんの「移動する人はうまくいく」(すばる社)は、おすすめです。

宮崎県にドクターヘリを導入した県立延岡病院の救命救急センターの金丸先生も宮崎大学医学部地域枠の学生の講義で、この本を勧めておりました。

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