あへん系麻薬のうち世界中で最も乱用されているのはヘロインで、すべて密造されたものである
藤野彰さんの「教養としての麻薬」(あさ出版)を読みました。
まさか麻薬が教養になるとは、全く予想はしておりませんでした。
しかし、グローバルな動きをしている麻薬は、これからの安全保障のためにも必須の知識です。
なにより、人生を生きていく上で、子ども達に対して絶対に欠かしては重要教育事項の一つだと思います。
藤野さんは、公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターの理事長をされています。
国連職員とした30年、麻薬規制の現場を見てきた方です。
本のカバーには、次のように指摘しております。
「無責任な”合法化論”に警鐘を鳴らす!」
麻薬の問題は、法の問題である前に、人間の問題である。
うーむ。深い。
麻薬その他の規制薬物は、医療や研究に不可欠である一方、乱用すれば依存や社会的破綻を招きます。
その二面性ゆえに、厳格な国際規制の下に置かれています。
麻薬には、植物由来のものと、化学的に合成されるものがあります。
もともと植物由来ですが、それに化学変化を加えた半合成のものもあります。

けしから採取される「あへん」から「モルヒネ」が抽出されます。
モルヒネからつくられた麻薬が「ヘロイン」です。
あへん→モルヒネ→ヘロインです。
ドイツの製薬会社であるバイエル社は、モルヒネをアセチル化してヘロインを作りました。
ヘロインは、咳止め剤として売り出されます。
鎮痛剤としてもモルヒネより効き目があり、安全で依存性はないとされていました。
しかし後に、モルヒネより強い依存性と離脱症状が現れることが判明します。
今日では、ヘロインは、国際条約上、医療用としても基本的に製造・流通・使用を禁止する規制がかかっています。
今日、あへん系麻薬のうち世界中で最も乱用されているのはヘロインです。
すべて密造されたものです。
ヘロインの不正な供給を絶つのに方法があります。
けしの非合法栽培を減少させることに加えて、ヘロインを製造するために不可欠な化学物質である「無水酢酸」が密造者の手に渡るのを防ぐことです。
100キロのヘロインを密造するためには、100~400リットルの無水酢酸が必要です。
国際機関では、この無水酢酸の国際流通を個別に追跡し、横流しを防いでいます。
このオペレーションの名前は、「トバーズ(トルコ石)」という名前がついています。
トルコ政府が独自に無水酢酸を規制していたことに敬意を表してつけられたそうです。
オペレーション・トパーズが焦点としているのは、黄金の三角地帯(タイ・ラオス・ミャンマーの国境の山岳地帯)、黄金の三日月地帯(アフガニスタン・イラン・パキスタンの国境地帯)、アンデス山脈を含む中南米(メキシコ・コロンビア・ペルー・ボリビア)です。
こうしたヘロイン密造が集中する地域へ無水酢酸の流入を防ぐことが主たる目的です。

さらに、パープル(紫)という名前のオペレーションもあります。
コカインを純度の高いものに精製するために使われる化学物質「過マンガン酸カリウム」が密造者らの手に落ちるのを防ぐ目的で開始されました。
コカインの純度を高めるためには過マンガン酸カリウムを使います。
コカ・ペーストに注いでいけば、その「紫色」が消えるときがきます。
そこで止めさえすれば純度の高いコカインが生成されます。
化学の知識が無くても使えるのです。
過マンガン酸カリウムは、100キロのコカインを精製して純度を高めるために20キロが必要とされています。
したがって、横流しを防げば、その5倍の量のコカイン精製を防ぐことができます。
過マンガン酸カリウムと言えば、水質検査(COD)で使われる試薬です。
川の水や工場の排水に含まれる「有機物(汚れ)」の量を量る際に使用されます。
うーむ。コカインの純度を上げるためにも使われていたのか。

「教養としての麻薬」という本は、公衆衛生的にも必見の本だと感じました。
また植物からの抽出が不要な覚醒剤は、地球上のどこでも密造されます。
原料の前駆物質を手に入れることさえできれば、たとえ掘っ立て小屋でも純度の高い覚醒剤を造ることができます。
アフリカの国々では、前駆物質の合法的な製造は行われていません。
世界のどこかで横流しされたものが廻りまわって持ち込まれて、覚醒剤が密造されています。
最終的にどこへ密輸されているかというと、購買力がある市場。
それは日本です。世界の覚醒剤は日本に集まる。
こうした麻薬・覚醒剤を生成するために必須の化学物質の密輸ルートは次のようになっています。
あちらこちらの国を軽油するルートを取る
架空の会社か実在の会社名を使う
発注したこと自体を否認する
関係のない国のブローカーを関与させる
プリンター用トナーなどと偽装したり、ラベルなしのドラム缶の中に詰め込まれる
これらの手法は、100年以上前の事例とよく似ているそうです。
つまり変わっていないということです。

藤野さんは指摘しております。
過去にあった事実を知ることによってのみ、われわれは進むべき方向を決め得る。
薬物犯罪の取り締まり、山岳地形の農民を支える持続可能な代替開発、乱用を防ぐための教育と啓発、それらはすべて1世紀あまり前に試行錯誤を重ねた先人たちの植えた種にその原点があった。
国際犯罪組織が狙うのは常に、規制が充分ではない無防備な地域であり、乱用防止の努力が充分に浸透していない国々であった。
歴史の証明するところである。
今こそ、過去からの物語に学ぶときである。
そのいずれの事態にも再び陥らないようにするために。
取締に加えて、薬物乱用という需要を減らさなければならない。
それは、ひとりひとりが自分事として関心を持つことから始まる。
日本の若者がちが薬物の乱用を始めないことが、自分自身を救うのみならず、社会を救い、また地球の反対側のどこかで、命をかけて取り締まりにあたる人たちを救う道につながる、第一歩なのだ。
