カシの実コンニャクで私の好きな平賀源内と椎葉村とがつながった
平野威馬雄さんの「平賀源内の生涯 甦る江戸のレオナルド・ダ・ビンチ」(ちくま文庫)を読みました。
平賀源内は、NHKの大河ドラマ「べらぼう」にも登場しました。安田顕さんが演じておりました。
われわれ世代では、同じNHKのドラマ「天下御免」で平賀源内にはまりました。
脚本は早坂暁さん、平賀源内は山口崇さんが演じておりました。
語りはチーター水前寺清子さん。ヒロインの紅さんを中野良子さん、相棒の侍を林隆三さん、泥棒を秋野太作さんが演じておりました。
解体新書をつくる杉田玄白は坂本九さん。老中の田沼意次は仲谷昇さん。亡くなった方もおおぜいおります。
当時、小学生だった私は、平賀源内に憧れました。
現代人の平賀源内が、江戸時代に紛れ込んだという感じがしました。
今思えば、ルパン三世のキャラとかぶっているなと思います。
林隆三さんが演じる侍の小野右京之介は、石川五右衛門、秋野太作さんが演じる泥棒の稲葉小僧はルパン。

さてさて、源内はどんぐりの迷信について調べたエピソードがあるとありました。
どんぐりを食べるとどもりになるという迷信がありました。
医師の玄沢に聞いてみました。
どんぐりを食べると、どもりになるというのは本当か。もし本当だとしたらなぜだろう」
「さあ、どんなもんだろうな……だが、どんぐりには、つよい渋があるから、そいつがのどの声の出るところを、一時的にしびれさせるのかもしれないな」
というわけで、結局わからずしまいでした。
源内にはなにか、わからないことがあると、わかるまでほりさげ、しらべ、ためしてみないでは気がすまぬ研究癖がありました。
ときどき、けたはずれなまねを平気でやってのけるので、近所の人たちは「風来山人」だの「酔狂先生」だの面白がって無責任なあだ名をつけて呼ぶようになっていました。
源内は武蔵野の木立にかこまれた茶店に腰掛けて、茶店のおじいさんに声をかけました。
「どんぐりとは、なんの木の実だろうか」
「くぬぎという人もありますが、かしの実とも、こならの実ともいいます」
「どんぐりの実をたべると、どもりになるというが、どんなものだろうな」
茶店のおじいさんは、冗談のつもりでいいました。
「へえ、旦那ひとつためしに召し上がってごらんになっては」
源内は、地面に落ちていたどんぐりの実をひとつ拾い上げ、皮をむくと、ペロリと口の中にほうりこみました。
「うわっ! にがい! しぶい!」
でも食べてしまいました。
いそいで冷え茶を口に含み、一文菓子をほおばりました。
「どうだね、いっこうにどもりになっていないだろう」
茶屋のおじいさんいいました。
「昔から、食べられないとされておりますようですが、山の中の家では、このどんぐりで団子をこしらえます」
源内は、おじいさんの言うことを書き留めました。
陽に干して臼でつき、皮をとってから、また半月くらい陽に干す。
こうすれば、しぶみがすっかり消える。
それから、石臼にかけて粉にして、水につける。
こうすると、渋みもにがみもなくなる。
こうしてできたどんぐりの粉がかたまるだけの米の粉をまぜて団子する。
野菜をたくさんきざんで汁の中にいれ、とろ火で気長に煮てから食べる。
後年、天明三年の大ききんの時、源内はどんぐりを主材として代用食をすすめて、農民はたいへん助かったということです。
源内は、なにかと食料科学の方面にも心をくばっていたのです

これを読んで、椎葉村の「カシの実こんにゃく」のことを思い出しました。
私の母が女将をしていた旅館「山椒」では、ときおり「カシの実こんにゃく」を出していました。
飯田辰彦さんの「生きている日本のスローフード 宮崎県椎葉村、究極の郷土食」という本に、そのことが書かれています。
それはコンニャクというよりも、食感的にはようかんやういろうに近く、茶緑色をした見た目もどちらかといえば練り菓子そのものといった風情だった。何といっても驚いたのは、このカシの実コンニャクは酢味噌で食べるということだ。
じっさい、ようかんのように見えても、カシの実コンニャクにはまったく甘味はない。
要は、カシのみコンニャクはドングリから取り出したデンプンを練り固めたもので、それ自体は無味無臭に近い。
ただ、ほかにドングリ独特の風味が残り、滑らかな心地よい食感とともに、これが食欲をそそるのだ。
初めて接した食べ物であるにもかかわらず、私はそのときペロッとふた皿も平らげてしまった。

飯田さんは、私の父の案内で、村内のカシの実コンニャクをつくる家に行って取材をしています。
ドングリの採集期間は、11月中旬からの三週間。
山で拾い集めたドングリh、大きなバケツやたらいで水洗いする。浮いたドングリは実が詰まっていないので取り除く。
水からあげたドングリは、日当たりのいいところで殻がしぜんに割れるまで天日に干す。1週間が目安。
乾いたドングリは石臼と杵を使って、皮ごと細かくはたす(粉にする)。
はたした粉は、また一日ほど天日に干して、よくいろかす(乾燥する)。
その上で、細かい篩いにかけて粉と鬼皮・殻をしっかり選り分ける。
ドングリ粉は目の粗い布袋に入れられ、水を満たした桶の中でギュウギュウと何度も絞られる。
桶にはデンプンが混じった赤く濁った水が残る。
あとは気長にデンプンが下に沈むのを待ち、上澄みを捨てる。
その後ふたたび水を満たし、同じ作業を繰り返す。
4日くらいかけて何度も何度も水の入れ換えを行う。
とれたデンプンは「カネ、ガネ」と言われる。
デンプンは鍋にすくいあげて、お湯をさしつつ、しゃもじでかき混ぜながらとろ火で炊く。
一度沸騰すればそれで充分で、熱いうちにタッパーなどの容器に取り分ける。
最終的に容器の中で冷えて固まるとカシの実コンニャクの完成となる。

冷蔵庫で冷やすとさらに美味しくなる。温めて出してもいい。
私の母は、ゆすを搾った酢しょう油で、飯田さんに食べさせたようです。
飯田さんは、書いています。
夕食時、「山椒」の食卓にのぼったカシの実コンニャク。
ユズの酢じょう油で食べるのがベストマッチだ。
私の延岡市に住むいとこから連絡がありました。
ソウルに行ったときに、メニューにどんぐりのコンニャクがあったとのこと。

食べてみたら、椎葉のカシの実コンニャクと同じだったそうです。
好きだった源内と椎葉村がつながりました。
