PCR検査を発明してノーベル賞を獲得したアメリカ人化学者は、カリフォルニア州ナバロ河で地球外生命体と会っている
感染症・食中毒の検査で感染しているかどうかを判定する際に、PCR検査を使うことが一般的になりました。
PCR検査という名前は、ポリメラーゼ連鎖反応検査の略語です。
目的とするDNA(遺伝子)を、増幅させる装置を使って判定します。
ターゲットとする細菌やウイルスの遺伝子の範囲を決めて、増幅を繰り返すと、ある一定時間が経過すれば莫大な量の遺伝子が増幅されます。
これを測定することによって、感染しているかどうか、陽性・陰性が判定できます。
人から採取された唾液や糞便などの検体中に細菌やウイルスがあるかどうか短時間で判定できる、まさにイノベーションです。
これまでは特別な検査法でしたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで世界の標準的検査法となり、今では知らない人はいません。
保健所に発生届け出がなされた食中毒や結核などの感染症の疫学調査でも真価を発揮しています。

このPCR検査法を発明したのは、アメリカのサンフランシスコにある民間の遺伝子工学の会社のキャリー・マリスという技術者です。
一九八三年四月の金曜日の夜に、ガールフレンドと一緒に別荘に向かって月明かりの夜道をドライブしていました。
会話がとぎれ彼女が寝息を立て始めたときに、PCR法の原理を思いついたそうです。
道路の脇に車を停めて、紙と鉛筆を取り出して、思いついたことを書き留めました。
車の灯りがまぶしい、と彼女が文句を言いました。
それは、一個のDNAからたくさんのコピーを作る方法でした。
まず、前処理です。
・九五℃で一分間熱して、二本鎖のDNAを一本ずつに引き離します。
・五五℃で二分間熱して、増幅したいDNAの範囲を、プライマーという短い合成塩基配列で区切ります。
次に、増幅過程です。
・七二℃で三分熱して、DNA合成酵素(ポリメラーゼ)によって合成すると二本鎖DNAが二本、合計四本のDNAができます。
・この行程を繰り返すと、六分ごとに倍々ゲームでDNAが増幅していきます。
ポリメラーゼは、イエローストーン公園にある温泉の源泉から取った熱に強い細菌の酵素を用いました。
温度を正確にコントロールする機械に入れておくだけで、すべて自動的に増幅できるようになりました。

一九九三年、PCR検査の開発によりマリスはノーベル化学賞を受賞しました。
その前年に、マリスは日本国際賞を受賞しています。
日本での授賞式のパーティーで、ガールフレンドとドライブしたときのエピソードが紹介されました。
そのパーティーには、当時の美智子皇后陛下が出席されていました。
皇后陛下から「今日、一緒に来られている方がその方ですね」と尋ねられたマリスは、「いや、別の人です」と答えました。
これはしまった、と凍り付くのは普通の人です。
美智子皇后陛下は、すかさずおっしゃられました。
「それでは、もう一つ大発見ができますね!」
こうした面白いエピソード満載の黒木登志雄先生の新書は勉強になります。おすすめです。

しかし、このマリスは、とんでもない人でした。
カリフォルニア大学バークレー校で博士号を受けており、たぐいまれな知性の持ち主でしたが、カリフォルニア州のナバロ川付近で、地球外生命体(宇宙人)に誘拐されたと言っています。
ずるがしこそうな黒い目をして、キラキラ輝くアライグマに化けた奇妙な生命体で、「このちびのろくでなしにご丁寧な挨拶を受けたあとのことは、まったく覚えていない」とし、「その晩の記憶は完全に消えているが、地球外生命がかかわっていたのは間違いない」と指摘しています。
またマリスは、エイズの原因がHIVであることに科学的根拠はゼロだと言っています。
昔、精神医学の本に、妄想の例として、
「私は佐渡島でスターリンに会ったことがある」と主張する患者の話が載っていて、吹き出したことがあります。
アップルの創業者スティーブ・ジョブズもまた知性にあふれた人間ですが、強靭な意思、目的達成のためなら事実を曲げることも厭わない情熱が入り混じって生まれる、周囲を困惑させるような状況があったと指摘されています。
この断固たる意志の力は、テクノロジーに革命をもたらす原動力となりましたが、私生活において裏目に出ることも多かったようです。
2003年にすい臓がんと診断されました。
ジョブズは主治医のアドバイスを無視して、ハーブ療養、スピリチュアル治療、果汁中心の厳格な食事療法など、いんちきな治療法に従いました。
周囲の人々によると、ジョブズは自分の力でがんを治せると確信しており、その驚くべき知性をあらゆる反対意見を退けるために使ったそうです。
ようやく手術を受けようと決めたときには、がんは手の施しようもないほど進行していました。
医師のなかには、主治医の助言を素直に受け入れていれば、ジョブズは今も生きていたかもしれない、という見方もあるそうです。
そういうことが書かれている「知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか」デビッド・ロブソン著・土方奈美訳もおすすめです。
