今村翔吾さんの「作家で食っていく方法」には秘境の文筆家の取り組みが紹介されている
今村翔吾さんの「作家で食っていく方法」(SB新書)を読みました。
今村さんは、一般社団法人「ホンミライ」を立ち上げました。
本を通じて地域の発展に貢献し、人と本を未来に繋ぐことを目的する団体です。
このホンミライでは、作家の発掘と育成に力を入れています。その中で「秘境の文筆家」プロジェクトが行われています。
「秘境」として選ばれたのは、宮崎県の椎葉村で、私の出身地です。日本三大秘境の一つとされています。
廃藩置県から既に150年以上経ちましたが、椎葉村の境界が確定したのは、2010年です。
隣り合う熊本県の領土を減らし、現代日本においてまさかの領土拡張を果たした秘境中の秘境だと、今村さんは言っております。
江戸時代に入ってからも長らく村内では戦国時代のような状況が続いていたといいますから、いかに隔絶された地かおわかりいただけるでしょう。
村に入るには、車酔いのするような山道を長い時間走らなくてはいけません。
今村さんがこのように描く椎葉村に、作家志望者が移住し、村に暮らしながら、今村さんや編集者の指導を受けて、デビューを目指すというプロジェクトです。
制度としては、総務省の「地域おこし協力隊」を活用しています。
椎葉村役場の職員として最大3年間、委嘱されます。
家賃は村が負担し、給与も賞与も発生します。
3年間秘境の椎葉で暮らす決意さえあれば、作家を目指す人にとっては、生活に不安を抱えずに執筆ができる、「夢のような環境」です。
一期生は既に募集を終え、2024年7月1日から4人が着任しています。
なんと、「詳細未定ながら二期以降も椎葉村と前向きに検討中」だと今村さんは言っております。

応募者は92名でした。

作品だけではなく、書類と面接も選考材料にしていているのが、文学賞とな異なる点です。
面接はホンミライが行い、今村さんも参加しました。
書類と面接による選考とは、まるで就活です。
実際、選考で今村さんが重視したのも、社会人に求められる能力でした。
今村さんはその理由を述べています。
現在、日本に数ある新人賞がある中で、デビュー作が出版に繋がった内、どれだけの作家が2作目を書けているでしょうか。
デビュー作を読むと、途轍もない才能を感じさせられるのに、なざか2作目が出ないという作家が多いのです。
2作目が出せない理由は、過剰なプライドとコミュニケーション能力の欠如ではないでしょうか。
そういった人は、編集者とのやりとりに躓いてしまし、執筆が続かないのではと想像します。
そこで、選考では、やる気や素直さ、弱点も含めて自己開示できる人なのかを見ていました。
まさに就活において、企業が求める能力です。素直で、やる気があり、忌憚なく話し合える人間の方が、作家になってから一生続く編集者との二人三脚がスムーズだと考えました。
新人賞で華々しい経歴を残してきた応募者もいました。
私たちが選んだのは、そうした「文学エリート」ではなく、コミュニケーション力があってのび代を感じさせる「卵」たちでした。

シリーズは出版社にとって有難い安定収入になります。
シリーズを書ける作家を求めています。
作家からしても、コンスタントにシリーズを作れる能力があれば、業界に使い捨てされる可能性を減らせます。
これまでの新人賞では、シリーズを書く才能があるかは見極められません。
新人賞はあくまで1作品での勝負。
しかも、その1作を、どの程度の時間をかけて書いたかは、問われません。
シリーズ作家に必要な「コンスタントに続編を書いていく力」は、新人賞の選考では見られていないのです。
一般文芸では、本来必要とされているシリーズの才能を発掘できない現状があります。
秘境の文筆家では、このジレンマを乗り越えるべく、新たな作家育成を提案しています。

具体的には、毎日何字書いたのかを記録しています。
同じクオリティの作品を書いた二人がいたとしたら、執筆速度が速い方を評価します。
たとえ100点に届かない、80点のクオリティでもいい。
素早く書けることさえわかれば、フィードバックしてから治すのも速いだろうと編集者は見込みます。
そして、そのような作家の方は、加速度的に実力は伸びていきます。
2作目が続かない、完璧志向の作家の対極にある存在です。
執筆量の記録は、デビュー当初3年間の今村さんがやっていたことに倣っています。
一日の目標字数と実績字数を自分でエクセルにまとめて管理していました。

秘境の文筆家では、速度の重要性だけではなく、商業世界で必要なノウハウをどんどん伝えています。
相手への感謝、プライドを捨てる、ビジネスパーソンとしての流儀から伝えています。
椎葉村から、作家で食っていく人間が登場し、シリーズ化やメディアミックス等で活躍する売れっ子にまで育つのも、そう遠くない未来だと今村さんは信じています。
これは、うかうかしては、いられません。
