世界の公衆衛生を牛耳るハーバード大学スクール・オブ・パブリックヘルスに対抗するためには、日本の漫画しかない
昔、アメリカに行ったことがあります。
ワシントンのスミソニアン航空宇宙博物館で、
ゼロ戦を見たときは感動しました。
そのときは、日本にゼロ戦を見ることができる施設がなかったのです。
今では東京の靖国神社や、鹿児島の鹿屋でも、
美しい機体を見ることができます。
厚労省のときに、
原爆の被爆者対策を担当したことがあります。
広島と長崎に放射線影響研究所があります。
もともとは、広島と長崎に原子爆弾を落とした米国が、被爆者の健康観察を行う研究機関として創設されました。
この研究所は、漫画の「はだしのゲン」にも登場します。
漫画の中では、
治療はせず、研究だけをしており、被爆者をモルモット扱いにしていると批判されています。
放射線影響研究所の疫学データにより、
現在の放射線の安全基準がつくられています。
日本が独立した後も、
米国政府が研究を続けてきました。
しかし、米国の研究予算が削減されて、
研究所の予算の半額を
日本政府が折半することになりました。
3年に一度、渡米して
アメリカ連邦政府のエネルギー省の担当官と、
予算執行や研究所の運営について
協議をすることになっておりました。
ちょうど、この当たり年に
私が厚生省健康局総務課に勤務しておりました。
放射線影響研究所の職員と一緒に
アメリカに行きました。

レストランで注文をしたところ、
アメリカ人の食事の量に驚きました。
一緒に食べた放射線影響研究所の人が、
運ばれてきたサラダの大量の野菜を見て
「俺は馬じゃない!」
と笑っていました。
隣を見ると、丸々と太った親子が、
どでかいカップに入ったポテトチップスを食べながら、巨大コーラをがぶ飲みしていました。
こらー、食べ過ぎだろーっ!
このとき、アメリカ人は「腹八部目」という日本のことわざを知らない、と徹底的に感じました。
アンドリュー・ドイグというイギリス人で、
マンチェスター大学教授が書いた
「死因の人類史」(秋山勝訳・草思社)
を読んだところ、
そのことが、ズバリ書かれていました。
「腹八分目」この言い伝えの意味は、
食事の量は満腹の80%に控えるということで、欧米ではほとんど見られない習慣だ。
アメリカだけでなく、
欧州も知らなかったとはしらなんだ。
ドイグ先生は、
日本の長寿の原因はこうした食事習慣にある
と述べております。
この「腹八分目」という言葉は、
「もったいない」が世界に広まったように、
世界に伝えるべきだと思いました。
harahachibu もしくは harahachibume これは世界の公衆衛生を変える力があります。
mottainai 以外にも前例があります。
バレーでは、日本が開発した「一人時間差攻撃」は、日本語そのままで hitorijikansa と呼ばれて世界に広まっています。

ハーバード大学公衆衛生大学院で研究をされていた林英恵先生の「健康になる技術大全」(ダイヤモンド社)にも面白いことが書かれておりました。
アメリカでは、お皿のサイズが1990年代に比べて、約23%も大きくなっています。
お皿や飲み物の容器が大きくなるのに伴って、
食べる食べ物・飲み物の量も
必然的に増えました。
これが肥満を作り出す1つの理由
だと言われています。
ハーバード大学の公衆衛生の教授らが、
相次いで日本の食文化を絶賛していたそうです。
食べ物はもちろんですが、食べ方が素晴らしい!
アメリカの大皿に比べて、
小さな茶碗にご飯を盛りつけ、
おかわりをするのに、
わざわざ声をかけなければいけない
という日本の食文化は、
まさに行動経済学を応用して
自然に食べ過ぎを防いでいるのではないか
という仮説で盛り上がりました。
彼らにはとても新鮮だったようです。
なぬ?
「おかわり」は、日本の食文化だったのか?
知らんかった。
こうしてみると、
お酒のおちょこが小さいのも、
飲酒量を抑えるために合理的なつくり
だと感じました。
冨山県にいたときに、配置薬を日本に研修に来たモンゴル人の女性が、日本酒のおちょこを見て、「子ども用か?。日本は子どもにも酒を飲ませるのか?」
と聞いてきたのには笑ってしまいました。
我が国の食文化のことを改めて研究してみると、健康寿命のさらなる延伸が図られるような気がします。

林先生によると、
ハーバード大学のパブリックヘルスの専門家が
日本を訪れて感嘆することは、
日本の食文化です。
専門家が驚くのは、
食事の内容だけではなく、
伝統的な日本の食文化が提供する
テーブルの上の環境や
それに伴う行動様式だとのこと。
精進料理や伝統的な日本料理にあるような
小さい皿に少しの量を盛るというスタイルに、
感心しています。
日本では
様々な野菜や食品を小さなお皿に盛り付けたり、お酒をおちょこで飲みます。
アメリカでは、大きな皿、
しかも年々皿のサイズが大きくなっているものに大盛りで、
アルコールも大きなグラスになみなみと注ぎます。
さらに日本の弁当が、来日した教授たちの注目の的になっているそうです。
アメリカには弁当箱がなく、
タッパーに肉がたっぷり載ったサラダ一品のみ、あるいはビーナッツバターを塗ったパンを
紙で包む、といった状態でした。
アメリカは弁当後進国?
日本の弁当箱は、
行動経済学の分野で人を動かす方法の1つとして知られている
「選択アーキテクチャー(選択のための構造・チョイスアーキテクチャー)」
と呼ばれる手法を
とても賢く使っているとのこと。
アーキテクチャーとか言っても、
なんのこっちゃーわかりませんが、
つまりこういうことです。
細かい仕切りがあることで、
様々な食材を別のところに
個々に入れなければならず、
それにより自然と食材が豊富になったり、
食べ過ぎないような構造にできるとのこと。
うーむ。
弁当箱にここまで公衆衛生学的な意味合いを見いだすとは、さすがハーバード大学!

世界の公衆衛生を牛耳るハーバード大学スクール・オブ・パブリックヘルスに対抗するためには、日本の漫画しかありません。
弁当をタイトルにした柵原望さんの「高杉さんちのお弁当」という漫画があります。
これは、弁当に地理学の視点を持ち込んだ、
地理漫画でもあります。
ゴミ漫画ではなく、地理ですので念のため。
日本地理学会から2014年度に日本地理学会賞(社会貢献部門)を受けており、学術的にも評価された漫画です。
弁当を公衆衛生学的に解釈する米国と、
地理学的に解釈する日本漫画。
私的には、ハーバード大学に一票。
弁当を、公衆衛生学的に解釈するとは、あっぱれです。
「高杉さんちのお弁当」は全10巻あり、おすすめです。また、「健康になる技術大全」も勉強になります。
