リハビリテーション医学の初歩的知識が欠如していた日本は、寝たきり老人大国だった
イチロー・カワチという医師がいます。
ああ、知っているよという貴方、
それは野球のイチロー・スズキです。
本物(?)のイチローは、
「命の格差はとめられるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業」(小学館新書)を書いています。
初版は2013年で10年前の本ですが、
内容はまったく古くなっておらず、
新書で安いのでお得です。
本の中で
米国の医療社会学者のジョン・マッキンリー
のことが紹介されています。
ああ、知っているよという貴方、
それはジョン・マッケンローです。
審判の判定にぶち切れて、ラケットを破壊して、
「悪童」と言われたプロテニスプレイヤーです。
本物(?)のジョンは、
「健康と疾病の社会学」という本を書いています。
その中の一節です。
岸辺を歩いていると、助けて!という声が聞こえます。
誰かが溺れかけているのです。
そこで私は飛び込み、その人を岸に引きずり上げます。
心臓マッサージをして、呼吸を確保して、一命をとりとめてホッとするのもつかの間。
また助けを呼ぶ声が聞こえるのです。
私はその声を聞いてまた川に飛び込み、患者を岸までひっぱり、緊急処置をほどこします。
すると、また声が聞こえてきます。
次々と声が聞こえてくるのです。
気がつくと私は常に川に飛び込んで、
人の命を救ってばかりいるのですが、
一体誰が上流で
これだけの人を川に突き落としているのか、
見に行く時間が一切ないのです。
イチロー教授は、
上流の対策をするのが公衆衛生、
下流が医療
だと言っています。
この「川の流れ」理論を読んで、
美空ひばりさんではなく、
かつての「寝たきり老人」のことを
思い出しました。
80年から90年代にかけて
日本全国に大流行した「疾患」です。
高齢者が
心肺や消化器症状などの疾患や腰痛などになり、医師から臥床など過度な安静の指示を受け、
ずっと横になっていたら機能低下が進み、
起きて動いたら疲労や不快感があるので
また横になる。
この繰り返しで、
寝たきり老人がつくられました。
医師のなにげない「お大事に」という言葉や、
病院や施設で普通に使われる「安静度」が、
過度な安静、長期臥床につながりました。
気がつくと、
日本は寝たきり老人大国となっていたのです。
欧米には「寝たきり老人」という言葉がないと、朝日新聞の記者の大熊由紀子さんが
警告しました。
1988年の厚生科学研究で、
日本の高齢者ケア施設入居者の33%が
寝たきりなのに対し、
デンマーク4.5%
スウェーデン4.2%
米国6.5%
という結果が示されました。
我が国は、リハビリテーション医学の初歩的知識が欠如していたのです。
褥瘡(床ずれ)や拘縮は当たり前、という状況になっていました。

1989年に
高齢者福祉保健10カ年戦略(ゴールドプラン)が開始されます。
その柱の一つが「寝たきり老人ゼロ作戦」です。
1991年には、
寝たきり予防への10か条、
寝たきり度判定基準
が設けられました。
市町村が実施する老人保健事業では、
健康教育に「寝たきり予防」が導入され、
保健師や理学療法士による機能訓練も
積極的に行われました。
10か条はよくできています。
さわりの部分はこんな感じです。
第1条 脳卒中と骨折予防 寝たきりゼロへの第一歩
第2条 寝たきりは、寝かせきりから作られる 過度の安静 逆効果
第3条 リハビリは 早期開始が効果的 始めよう ベッドの上から訓練を
第4条 くらしの中での リハビリは食事と排泄、着替えから
寝たきり老人対策は、
最終的に介護保険法の制定に結びつきます。

介護保険法第4条にはこのような規定があります。
国民は、
自ら要介護状態となることを予防するため、
加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して
常に健康の保持増進に努めるとともに、
要介護状態となった場合においても、
進んでリハビリテーション
その他の適切な保健医療サービス
及び福祉サービスを利用することにより、
その有する能力の維持向上に努めるものとする。
寝たきり老人の教訓から、
リハビリテーション・ファースト
になったのです!
現在は、
寝たきりにかわって
「認知症」が最大の敵となっています。
認知症にならないための、予防対策が大事です。
介護保険法第4条は、国民全ての努力義務。
加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚し、
常に健康の保持増進に努めましょう。
