世界で一番「孫子の兵法」が読まれている国は日本である
孫子の兵法についての本はたくさん出版されています。
世界で一番孫子の兵法が読まれている国は、日本なのだそうです。
孫子は、「将」について、5つの備えるべき能力を規定しています。
「将」とは、現在でいえば、企業のトップに該当します。
将とは、智、信、仁、勇、厳なり。
智は、物事を明察できる智力
信は、部下からの信頼
仁は、部下を思いやる仁慈の心
勇は、困難に挫けない勇気
厳は、軍律を維持する厳格さ
大事な順に書かれています。
仁は、医療・公衆衛生です。
卒を視ること嬰児のごとし、故にこれと深谿に赴くべし
卒を視ること愛子のごとし、故にこれと倶に死すべし
(兵士は赤ん坊と同じようなものである。そうあってこそ兵士は深い谷底まで行動を共にするのだ。兵士はわが子と同じようなものである。そうあってこそ兵士は喜んで生死を共にしようとするのだ)
こうした孫子の兵法の記述を読んで思い出すのは、電通事件です。
これについては、「過労死ゼロの世界をー高橋まつりさんはなぜ亡くなったのか」(連合出版)に詳しく記載されています。

世界一の広告会社「電通」に務めていた高橋まつりさんが、2015年に自殺した事件について、母の高橋幸美さんと弁護士の川上博氏がまとめた本です。
若く健康で闊達な女性が、あこがれの会社に入って、長時間労働、深夜労働、徹夜勤務により、わずか半年あまりで、心身の健康を崩して、うつ病を発病し、睡眠障害、抑うつ気分、興味と喜びの欠如、易疲労感、希死念慮などの症状が顕著に出現するようになり、クリスマスの日に自殺しました。
24歳でした。
本人のSNSには、次第に追い詰められて自殺に至る過程が残されていました。
まつりさんの自殺は、三田労働基準監督署によって労災認定されました。
電通本社は、東京労働局の労働基準法違反による立ち入り調査、捜査が行われ、法人として検察庁に書類送検されました。
これを受けて、社長が引責辞任をしました。
東京簡易裁判所におえる判決は、法人電通が50万円の罰金刑に処せられました。
電通は、新聞、テレビなどで報道されて、社会的信用が低下し、業績が落ちるなどの社会的制裁を受けました。
長時間残業を許容する構造、非合理的、非効率的な業務プロセス、労働者の健康への配慮不足、労働基準法遵守の軽視などの問題点を乱し、再発を防止するために、午後10時以降、午前5時までの業務の原則禁止などの措置を講じることになりました。

事件を担当した川上弁護士が指摘しています。
①過去に発生した過労死事件を真摯に反省することなく、違法残業を蔓延させ、労基署からの再三の是正勧告にもかかわらず、労務管理を改善しなかったったこと
②健康管理体制が名ばかりで実効性がなく、まつりさんの心身の健康が損なわれていく過程により、健康診断が正当に機能せず、また、産業医等も何らの役割を果たさなかったこと
電通といえば、四代目社長の吉田秀雄社長が1951年につくった社訓「鬼十則」が有名です。
社員手帳に掲載され、「鬼十則」を解説するビジネス書まで出版されました。私も買いました。
鬼十則にはこの項目がありました。
取り組んだら放すな。殺されても放すな。目的完遂までは……。
死ぬことはないと思います。
鬼十則には、健康の規定は全くありません。
2017年に社員手帳から削除されました。

2500年前の「孫子の兵法」は、負けないためには兵を疲弊させないようにすることが大事だとし、休養や食糧、疾病予防について述べています。
兵法はそれこそ山のようにあったと思いますが、多くの兵法書は競争に負けて滅ぼされました。
そんな中で、孫子の兵法は、曹操、武田信玄、ナポレオンなどに影響を与え、今も進化を続けており、毎年のように孫子の兵法を解説したビジネス書が誕生しています。
「鬼十訓」は、わずか70年で滅びました。
つまり、公衆衛生のない兵法は滅びる運命にあると言えます。
