社会的共通資本の医療には、市場メカニズムではなく、人間的な立場からその営みを守るために協力していかなければならない
英国の保守党のサッチャーが、1979年に首相に就任して、1期目に国鉄、郵便局、電信電話局の民営化に着手しました。
改革に成功して、二期目に入って、国立保健サービス(NHS)に手をつけようとしました。
英国では、NHSにより、国営で医療サービスが提供されています。
サービスの財源は税金です。
サッチャーは、増え続ける医療費の伸びを抑制するために、米国から助っ人を呼びました。
経済学者のアラン・エントホーフェンです。
エントフォーフェンは、さっそく医療費の徹底的な抑制を開始しました。

ターゲットにしたのは老人。
60歳以上の高齢者の医療費を抑制することにしました。
現在私は62歳ですが、あまりいい気はしないですね。(←影の声)
60歳以上の高齢者の腎臓透析にはNHSサービスの適用をしない
という通達を発しました。
高齢者に腎臓透析をしたところで、すぐ死ぬのだし、金がかかるだけであまり効果がない、コストを安く抑えよう、という考え方が根底にありました。
実は、エントフォーフェンは、ベトナム戦争のときに、マクナマラ国防長官から抜擢された経済学者だったのです。
ペンタゴン(国防省)でエントフォーフェンは、
ベトナム戦争の目標を、
ひとりでも多くの北ベトナム軍の兵士であるベトコン戦士を殺すこと、に設定しました。
Kill Rate(殺人率)という指標を設定し、
限られた戦争予算を可能な限り効率的に使うことにしました。
コンピューターではじき出された計算によると、ベトコン1人を殺すのに、33万ドル(当時のレートで約1億円)かかるというものでした。
このKill Rateなる指標が、
ニューヨークタイムズにすっぱ抜かれたことから、米国政府は国内のみからならず、世界中から非難を浴びました。
このせいで、マクナマラ国防長官は、メンタルをやられて、ジョンソン大統領から解雇されてしまいます。
エントフォーフェンは、英国のNHS改革では、Death Rate(死亡率)という指標を新たに掲げました。
一人の患者が死に至るまでの医療費を、効率化して、できるだけ安く抑えようという考えでした。
サッチャーによる、NHSの市場システム導入で、公平性を失い、医療の質も悪化したといわれています。
サッチャー政権は倒れます。

日本の代表的な経済学者に、宇沢弘文さんという方がおられます。
ひげもじゃの先生で、もう亡くなりましたが、新書が何冊か出ており、おすすめです。
近代経済学の効率性の考え方を、医療に適用することは厳しい批判がある。
社会的共通資本としての核心部分である医療に対しては、市場メカニズムを使うのではなく、もっと人間的な立場から、その営みを守るために協力していかなければならない。
宇沢先生はそう述べております。
1983年に宇沢先生は、文化功労者となりました
宮中での顕彰式の後に、昭和天皇の前で、ひとりひとり話をすることがありました。
もともと天皇制に反対していた宇沢先生は、
自分の番が来たら、
「ケインズは間違っている。古典経済学はうんぬん。社会的共通基盤はかんぬん」
と支離滅裂なことをまくしたてました。
昭和天皇が、話をさえぎりました。
「君! 君は経済、経済というが、つまり人間の心が大事だと、そういいたいのだね」
宇沢先生は、
この昭和天皇のお言葉がきっかけとなり、
人間の心を大事にする経済学の研究を続けることができた、
と述べています。
さすが昭和天皇陛下です。
「あっ、そう」
しか言わないと思っていた私は、
不敬の極みであり、猛省しております。
もともと経済学は、人間の心は考えてはいけないとされてきました。
安いものと高いものがあれば、安いものを買う。
人間はそういった合理的な判断をするもの、そのような前提で理論が組み立てられていました。
しかし今の経済学は、人間の心理を取り入れた「行動経済学」が花盛りです。
人は高くても、ストーリーを感じて、心が動くものがあれば、買います。

椎葉村に「菓te-ri」というお菓子屋さんがあります。
そもそも椎葉村で菓子屋を開いても、都会から遠く離れた不便な場所なので、売れるはずはないと思うでしょう。
ところが、大方の予想に反して売れました。
店頭販売よりもネット販売を主にして、なかなか手に入らないという希少価値を武器にしたのです。
かてーりとは、椎葉の方言で、助け合いのことです。
手伝ってもらったら、「かてーり返し」として手伝いをします。
そうした店名の由来や、宮崎の食材で作ったバターサンドが受けて、口コミで広がりました。
私が防衛省に勤務していたときにお土産で持って帰ってたら美味しいと大人気でした。
女性職員がネットで注文したら、届くのに半年待ちです、と嘆いておりました。
店長は、東京の料理屋で修行をして、またマーケティングの学校に通って勉強もしたそうです。
医療関係者がマーケティングを勉強すれば、患者(顧客)満足度はかなり上がって、黒字の方向に行くのではないかと思います。
宮崎大学は総合大学なので、医学部の学生にマーケティングを学ばせるカリキュラムをつくるといいかも。
医療と観光は似ています。ホスピタリティーが大事です。まずはマーケティングの勉強からはじめてみませんか。
