「失踪日記」は世界初のアルコール依存症の患者さんが描いた漫画である
吾妻ひでおさんという漫画家がいます。
Geminiに聞いたら、「2019年10月13日、食道がんのため69歳で逝去。死後もその唯一無二の作品群と独特のユーモア感覚は、多くのクリエーターや読者に愛され続けています。」とありました。
不条理ギャグ漫画やSFギャグ漫画の草分け的存在
80年代の「美少女描法」の確立
いわゆるオタク文化における萌え漫画の先駆者
自身の壮絶な体験を描いたエッセイ漫画で漫画史に大きな足跡を残した

私が初めて見たのは、少年チャンピオンも「ふたりと五人」でした。
そして再会したのは、「失踪日記」です。
2005年、自身の失踪劇やホームレス生活、アルコール依存症体験を自虐的かつ客観的なギャグとして描いたものです。
この「失踪日記」は、漫画界・文学界で極めて高い評価を受けました。
日本漫画家協会賞大賞、手塚治虫文化賞まんが大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞の三冠を達成しました。史上初の快挙です。
およそ20年ぶりに読んでみました。

一番感動したシーンは、失踪してホームレス生活を送っていたときに、警察官に職務質問をされて、警察署で取調べを受けるところです。
捜索願が出されており、漫画家だったことが判明しました。
取調べを担当した警察官から、「なんか描いてみ」と言われ、絵を描きました。
その絵を見て、警察官たちは驚きます。
へー
プロだなー
かわいい女の子描くじゃないか
そこで、ロリコンの警察官を呼ぶように言いました。あいつなら、この漫画家のことを知っているかもしれない。
ロリコンの警察官は、一目見て、かけよって叫びました。
あずま先生?!
先生ほどのひとがなぜこんな……。
そして涙を流して悔しがりました。
ところが一転して、「色紙買ってきます」と言って飛び出します。
ずっこける吾妻ひでお先生。
奥さんが迎えに来るまで、警察ではとことん説教を受けました。
ロリコンの警察官が買ってきた色紙に、セーラー服の美少女がガッツポーズをしている絵を描きました。
ロリコンの警察官が言いました。
わたし小さい子供がいるもので
ここにひとつお言葉を書いていただければ
なぜか「夢」と書かされました。
20年前に初めて読んだときに、このシーンは覚えておりました。

あらためて読むと、公衆衛生が学べる構成となっていると感じました。
炎天下での肉体労働で気を失ってスコップを持ったまま立っていたエピソードで熱中症の症状が学べます。
家の解体作業で、チェーンソーで木を切るときに、気に登って作業をしていた同僚が誤って落としたチェーンソーが飛んできたエピソードで労働安全衛生が学べます。
極めつけは、アルコール依存症の知識が学べることです。
漫画なので、リアルに学べます。
文字と絵では、圧倒的に情報量が違っています。
最大のウリは、当事者が描いているということでしょう。
世界初のアルコール依存症の患者さんが描いた漫画だと思いました。
昔、精神医学の教科書で小人が襲ってくる古い日本画を見たことがありますが、絵は医学と密接に関係していると感じます。
解剖の図はまさに美術です。
漫画は芸術だと心底思います。

私の理解では、以下の症状が描かれています。
専門家がみれば、もっと詳細に解説できると思いました。
手の震え
どろどろの不快感
嘔吐
寝ゲロ(死ぬので気をつけよう)
不眠
幻覚(大好きな女子高生までが恐ろしい)
幻聴
禁断症状(離脱)
自殺念慮
記憶喪失
強制入院させられてからのアルコール病棟の描写もリアルです。
拘束
金銭管理
自治会
AA(アルコーリクス・アノニマス)
コルサコフ症候群
肝硬変
勉強になります!
世界最強のアルコール依存症の本だと思いました。
ちなみに歌人の若山牧水は、アルコール依存症で、肝硬変で亡くなっています。
