知らないと損をする、イランを知る四冊(Politics of Oil and Nuclear Technology in Iran)

イランと米国の緊張は予断を許さない状況にある。現時点(2月27日(金))現在では外交交渉が継続しているようであるが、米側が武力行使に踏み切る可能性も依然としてあり、状況は一進一退である。そのような状況の中、本シリーズではイランを深く知るための最適な書籍4冊を紹介する。第一回は本書『Politics of Oil and Nuclear Technology in Iran』(Akbar E. Torbat, 2020)である。本書は、イランを国際政治経済構造における「周辺者」として位置づけ、その歴史的形成過程と、周辺的地位からの脱却を目指す国家戦略を、石油国有化と核開発政策を軸に分析した研究である。著者は国際関係論、とりわけ依存理論や経済帝国主義の枠組みを用い、19世紀以降の欧米列強との関係の中でイランがいかにして従属的地位に組み込まれていったのかを明らかにする。

第1~3章では理論的枠組みが提示されるとともに、かつて地域的強国であったイランが、欧米の経済的浸透によって周辺化されていく過程が描かれる。英国は工場、鉱山、灌漑事業など産業部門に深く介入し、利権を掌握した。イランはロシアとの通商関係を強化するなど勢力均衡を図り、完全な植民地化を回避しようとしたが、経済主権は大きく制限された。

第4~6章では石油産業が中心的テーマとなる。イランにとって石油は国家主権と経済的自立の象徴であったが、英国のアングロ・イラニアン石油会社(AIOC)が生産と利潤を独占し、不平等な構造が固定化された。これに対抗する形で進められた国有化政策は、経済的自立を目指す試みであると同時に、国際政治上の緊張を高める契機ともなった。

第7~13章では核開発の歴史が検討される。1970年代、イランは石油依存経済からの転換とエネルギー多角化を目指し、原子力発電の導入を推進した。著者はこれを単なる軍事的野心ではなく、経済発展戦略および安全保障上の脆弱性への対応として位置づける。イランは自国を地政学的に脆弱な国家と認識し、米国や西側諸国からの圧力に対抗するため、戦略的自律性を高めようとしたと論じられる。

総じて本書は、イランの石油・核政策を「周辺からの抵抗」として一貫した理論枠組みで説明する点に大きな意義がある。歴史的事実と国際政治理論を接続し、イランの対外政策を構造的文脈の中で理解させる点は非常に明快である。

【評価】
本書の長所は、依存理論的視座を通じてイランの行動を体系的に説明し、石油国有化や核開発を単なる対立行動ではなく、主権確立の試みとして再解釈している点にある。他方で、イランを「被害者」として描く傾向がやや強く、周辺国への影響力行使や地域覇権的行動といった側面への分析は相対的に限定的である。そのため、イランの対外行動をより多角的に理解するには補完的研究が必要であろう。




それでもなお、イランと欧米の歴史的軋轢、エネルギー資源をめぐる政治、核問題の背景を総合的に理解するうえで極めて有益な一冊であり、国際政治経済の観点からイラン研究を志す者にとって重要な文献である。

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