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日本酒の楽しみ方

はじめに

冷蔵庫から小さな瓶を取り出し、透明なグラスへ少しだけ注ぐ。

水のように澄んだ一杯から、りんごや梨を思わせる香りが立つこともあれば、炊きたての米、麹、木、乳製品のような穏やかな香りが感じられることもあります。ひと口飲んだあとには、甘さだけでなく、酸味、うまみ、苦味、余韻がゆっくり残ります。

日本酒と聞くと、銘柄が多くて選びにくい、専門用語を知らないと楽しめない、徳利とおちょこをそろえなければならないと思うかもしれません。冷酒、常温、燗酒のどれが正しいのか分からず、売り場で迷ってしまうこともあります。

けれども、最初から産地や酒米を覚える必要はありません。

300mlほどの小瓶を1本選び、冷たい状態で少量を味わう。少し時間を置いて香りの変化を確かめ、普段の夕食と合わせてみる。それだけでも、日本酒を学ぶ時間は始まります。

日本酒の魅力は、銘柄をたくさん飲むことではなく、米、水、麹から生まれた一杯が、温度や器、料理によって表情を変えるところにあります。この記事では、自宅で市販の日本酒を少量ずつ楽しみながら、自分の好みや選び方を見つけていく方法を紹介します。

※日本酒は酒類です。日本では20歳未満の飲酒が法律で禁止されています。

※この記事では、購入した日本酒を味わい、学ぶ趣味を扱います。自宅で米や麹を発酵させて酒類を造る方法は扱いません。


日本酒の基本情報

主な楽しみ方 市販の日本酒を少量ずつ味わい、香り、甘さ、酸味、うまみ、温度、器、料理との相性を比べる

おすすめの頻度 月1回前後

1回の時間 約55分

短時間で楽しむ場合 約20分から

買い物や準備を含む総所要時間 約75分

主な場所 自宅の食卓や静かな部屋

最初に必要なもの 日本酒1本、清潔なグラス、水、食事または軽食、短い記録を残すもの

始めやすさ スーパー、酒販店、百貨店、蔵元の直営店などで少量商品を選べ、特別な設備がなくても始められる

天候の影響 ほとんどなく、季節の料理や室温に合わせて一年を通して楽しめる

難しく感じやすいところ 純米、吟醸、生酒、原酒、精米歩合、日本酒度など、ラベルの言葉を一度に理解しようとしてしまうこと

楽しさの中心 同じ日本酒でも、温度、器、料理、時間の経過によって香りと味の感じ方が変わること

日本酒は、米、米麹、水を主な原料として造られます。商品によっては、香りや味を整える目的で醸造アルコールが加えられています。

麹が米のでんぷんを糖へ変え、酵母がその糖をアルコールへ変える働きが、同じ仕込みの中で進んでいきます。原料が米でありながら、果物、花、乳製品、穀物、香辛料などを思わせる多様な香りが生まれるのは、日本酒のおもしろいところです。

味も、甘口と辛口だけでは分けられません。すっきり軽いもの、米のうまみを感じるもの、酸味が鮮やかなもの、熟成による深い香りを持つものなど、幅広い個性があります。

日本酒にかかる費用

日本酒を自宅で楽しむために、徳利、酒燗器、専用冷蔵庫などを初めからそろえる必要はありません。手持ちのグラスと計量用品を使えば、最初の費用は日本酒そのものが中心になります。

初めにかかる費用

最小構成 約400〜1,000円

300ml前後の小瓶を1本購入し、手持ちのグラス、コップ、水、普段の夕食を使う形です。道具を買い足さなくても、日本酒の味わいを十分に確かめられます。

標準的な構成 約2,000〜4,000円

720mlの日本酒を1本、小ぶりな透明グラスを1〜2脚、注ぐ量を確認できる小型計量カップなどを用意する場合の目安です。

温度や器も比べる場合 約4,000〜15,000円

徳利、片口、平杯、ぐい呑み、酒用温度計などを加えると費用は増えます。ただし、好みが分かる前に酒器を何種類も購入すると、使わないものが残りやすくなります。

最初の数回は、家にあるワイングラス、小さなタンブラー、陶器の器などを使い、どの形が心地よいかを確かめてから買い足します。

日本酒1本の費用

スーパーなどで見つけやすい180〜300mlほどの商品は、300〜800円前後から選べます。720mlの一般的な純米酒、吟醸酒、大吟醸酒には、1,000〜2,500円ほどの商品が多くあります。

酒米、精米歩合、仕込み方、熟成、小規模生産、限定流通などに特徴がある商品は、720mlで3,000〜6,000円以上になることもあります。長期熟成酒、限定酒、高度に米を磨いた商品では、さらに高額になる場合があります。

価格だけで味の好みは決まりません。高価な大吟醸より、日常の料理へ合わせやすい純米酒や本醸造酒を好む人もいます。

初めての1本は、限定品や希少品より、香味の説明、保存方法、おすすめの温度が分かりやすく書かれた商品が向いています。

1回にかかる費用

日本酒90ml分 約150〜500円

 手持ち品なら0円

食事や軽食 普段の食事なら追加費用なし

比較用の食材 購入する場合は約200〜1,000円

記録用品 手持ち品なら0円

720mlの瓶から1回90mlずつ注ぐと、約8回に分けられます。月1回の趣味として楽しむなら、1本を数か月かけて味わうこともできます。

ただし、開栓後の状態は商品や保存方法によって変わります。長期間そのままにせず、香りや味を確認しながら、表示や蔵元の案内に従って早めに楽しみます。

年間費用の目安

月1回、小瓶や手頃な720ml商品を中心に選ぶ場合は、年間8,000〜18,000円ほどが一つの目安です。

季節ごとに新しい720ml瓶を購入し、料理との組み合わせも楽しむ場合は、年間15,000〜35,000円ほどになります。限定酒、熟成酒、取り寄せ、イベント参加などを増やすと、年間50,000円以上になることもあります。

酒蔵見学、きき酒会、資格講座、酒器の収集などは、普段の日本酒代とは別の任意費用として考えます。興味が深まった段階で、一年に一度の体験として予算を設けると無理がありません。

費用を抑える方法

一人で楽しむ場合は、180〜300mlほどの小瓶や缶を選ぶと、開栓後の保存に悩みにくくなります。720mlを購入する場合は、飲みたい回数と保存場所を先に考えます。

複数を比較するときは、20歳以上の家族や友人と分ける方法もあります。720mlを何本も一人で開けるより、少量ずつ違いを確かめられます。

酒販店によっては小瓶、飲み比べセット、量り売り、店内試飲を用意していることがあります。フルボトルを買う前に少量で好みを探せるなら、結果として費用を抑えられます。

通販では、商品代だけでなく送料とクール便の有無を確認します。生酒など冷蔵が必要な商品は、安さだけでなく、受け取り後すぐに保管できるかも考えます。

日本酒をおすすめする3つの理由

1.一つの酒を、幅広い温度で楽しめる

日本酒は、冷やした状態、常温、温めた状態まで、幅広い温度で飲まれてきたお酒です。

冷蔵庫から出した直後は、香りや甘さが控えめになり、酸味や切れを感じやすくなることがあります。少し温度が上がると、米や果物を思わせる香りが開き、口当たりが柔らかく感じられる場合があります。

温めると、うまみや甘みが膨らむ酒もあれば、香りが強く出すぎる酒もあります。同じ銘柄でも、冷酒とぬる燗では、別の酒のように感じられることがあります。

一度に何本も買わなくても、温度を変えるだけで比較ができます。一つの瓶を丁寧に味わいたい人にとって、日本酒は長く付き合いやすい飲み物です。

2.普段の食事が、味を知る場所になる

日本酒は、特別な会席料理だけに合わせるものではありません。

焼き魚、冷ややっこ、煮物、鍋、漬物、卵料理、焼き鳥、肉じゃがなど、普段の食卓でも試せます。料理の塩味、酸味、脂、香ばしさ、だしのうまみと、日本酒がどのように重なるかを見ることができます。

同じ酒でも、刺身と合わせたときには軽く感じ、煮物と合わせると米のうまみが見えることがあります。料理をひと口食べたあとに、日本酒の甘さや酸味が変わって感じられるところも魅力です。

「何にでも合う」と決めるのではなく、どこが変わったかを確かめます。家庭の夕食が、そのまま小さな飲み比べの時間になります。

3.一杯から、米、水、土地、季節へ関心が広がる

日本酒のラベルには、米の産地や品種、精米歩合、酵母、仕込み水、蔵元の所在地などが書かれていることがあります。

山田錦、五百万石、美山錦、雄町など、酒造りに使われる米の名前を知る。蔵のある地域の水や気候を調べる。冬に仕込まれた新酒、春の酒、夏酒、秋のひやおろしなど、季節の商品を比べる。

一つの銘柄をきっかけに、その土地の料理、祭り、農業、発酵文化へ興味がつながっていきます。

自宅で静かに飲む趣味でありながら、続けるほど日本各地の風景が見えてくるところが、日本酒ならではの奥行きです。

最初の1本は、何を見て選ぶか

日本酒売り場には、純米、吟醸、大吟醸、本醸造、生酒、原酒など、多くの言葉が並んでいます。

すべてを覚える必要はありません。最初は、次の5項目だけを確認します。

1.容量

一人で初めて試すなら、180〜300mlほどが扱いやすくなります。一度に飲み切るという意味ではなく、開栓後の変化を気にしすぎずに数回へ分けやすい容量です。

20歳以上の家族と食事に合わせる場合は、720mlでもかまいません。自分がどの程度の期間で楽しむかを考えて選びます。

2.純米か、醸造アルコールを使っているか

純米酒は、米、米麹、水を原料として造られます。吟醸酒や本醸造酒などには、規定の範囲で醸造アルコールを使う商品があります。

醸造アルコールを使っているから質が低い、純米だから必ず濃厚ということではありません。香りを引き出す、味を軽快に整えるなど、目指す酒質に合わせて使われます。

初回は、原材料欄を見て違いを知るだけで十分です。次に別の区分を選べば、比較の軸になります。

3.吟醸かどうか

吟醸酒は、精米した米を低温でゆっくり発酵させるなど、吟味して造られた日本酒です。果物や花を思わせる華やかな香りを持つ商品も多く、冷やして飲む入口として選びやすくなっています。

大吟醸酒は、吟醸酒よりさらに低い精米歩合の基準があります。ただし、「大吟醸」という名前だけで、自分の好みに合うとは限りません。

香りの華やかさより、米のうまみや燗酒を楽しみたい場合は、純米酒や本醸造酒から始める方法もあります。

4.精米歩合

精米歩合は、玄米を磨いたあとに残った米の割合を表します。

精米歩合60%なら、玄米の外側を40%削り、残った60%を使っているという意味です。数字が小さいほど、より多く磨いています。

米を多く磨くと、雑味につながりやすい成分を減らし、繊細な香りや味を目指しやすくなります。一方で、精米歩合の数字が小さければ、すべての人にとっておいしいということではありません。

数字は品質の順位ではなく、造り方と味を想像する手掛かりとして見ます。

5.保存方法とアルコール分

「要冷蔵」「生酒」などと書かれている場合は、購入後すぐに冷蔵できるかを確認します。贈答用や旅行先で購入する場合も、持ち歩く時間と保冷の必要性を見ます。

日本酒のアルコール分は15%前後の商品が多いものの、低アルコール酒から20%近い原酒まで幅があります。見た目や甘さだけで判断せず、必ず表示を確認します。

ラベルにある言葉を少しずつ知る

純米酒

米、米麹、水を原料として造られた日本酒です。米のうまみを感じやすいものが多いと説明されることがありますが、実際には軽快なものから濃厚なものまで幅があります。

冷酒、常温、燗酒のどれが合うかも商品によって異なります。蔵元のおすすめ温度を最初の目安にします。

純米吟醸酒

米、米麹、水で造る純米酒のうち、定められた精米歩合と吟醸造りの条件を満たしたものです。

華やかな香りを持つ商品も多く、初めて日本酒を香りから楽しみたい人に向いています。冷やしすぎると香りが閉じることもあるため、冷蔵庫から出した直後と少し時間を置いたあとを比べます。

本醸造酒

米、米麹、水に、規定の範囲で醸造アルコールを加えて造られます。軽快で切れのよい商品も多く、食中酒や燗酒として親しまれています。

比較的手頃な商品もあり、普段の料理へ合わせる最初の1本として選びやすい区分です。

生酒

一般的な日本酒では、品質を安定させるために「火入れ」と呼ばれる加熱処理が行われます。生酒は火入れを行わないため、みずみずしい香りや若々しい味を楽しめる一方、冷蔵管理が必要です。

似た言葉に生貯蔵酒、生詰酒がありますが、火入れを行う時期や回数が異なります。初めは細かな違いを覚えるより、ラベルの保存方法を守ります。

原酒

搾ったあと、通常行われる加水によるアルコール分の調整を基本的に行わずに仕上げた酒です。アルコール分が高く、味が濃く感じられる商品があります。

小さな缶や瓶でも、通常の日本酒より純アルコール量が多くなる場合があります。容量ではなく、アルコール分と実際に飲む量を確認します。

日本酒度

日本酒度は、酒の比重を基にした数値です。一般にプラス側は辛口、マイナス側は甘口の目安として使われます。

ただし、実際の甘辛は、酸味、うまみ、香り、アルコール分、飲む温度によっても変わります。日本酒度が同じ二本でも、同じ味にはなりません。

数字だけで決めず、自分が飲んだ印象と並べて記録します。

初めての日本酒を味わう一日の流れ

1.予定と体調を確認する

飲む日は、その後に自動車や自転車を運転する予定がないことを確認します。入浴、運動、薬の服用との関係にも注意し、体調が悪い日は見送ります。

空腹のまま始めず、夕食または軽食を用意します。日本酒を飲むことだけを目的にせず、食事の時間の中で少量を味わいます。

2.飲む量を先に決める

初回は、合計90mlほどを上限の目安として、さらに少なくしてもかまいません。90mlは一合の半分です。

アルコール分15%の日本酒を90ml飲むと、純アルコール量は約10.8gです。同じ容量でもアルコール分が高ければ、純アルコール量は増えます。

この量がすべての人にとって安全という意味ではありません。体質、体調、年齢、服薬などによって影響は異なるため、自分で量を把握するための目安として使います。

3.ラベルを確認する

商品名、特定名称、原材料、精米歩合、アルコール分、容量、保存方法を見ます。

すべてを書き写す必要はありません。「純米吟醸、精米歩合60%、15度、要冷蔵」という程度を残せば、次回の比較に使えます。

4.最初は冷たい状態で少量を注ぐ

清潔で香りの付いていないグラスへ、20〜30mlほど注ぎます。

色、透明感、とろみ、香りを確かめます。無色透明に近いものもあれば、淡い黄色を帯びたもの、熟成によって色が深くなったものもあります。

香りは強く吸い込まず、グラスから少し離れて短く確かめます。

りんご。

梨。

バナナ。

白い花。

米。

麹。

ヨーグルト。

木。

ナッツ。

思い浮かぶ言葉を一つか二つ残せば十分です。

5.ひと口だけ味わう

少量を口に含み、甘さ、酸味、うまみ、苦味、アルコールの刺激、余韻を見ます。

「最初は甘いが、後味は軽い」

「香りは穏やかで、米の味が残る」

「酸味がはっきりしている」

難しい表現ではなく、あとで自分が思い出せる言葉を使います。

6.少し温度を上げて比べる

グラスへ注いだまま5〜10分ほど置き、もう一度香りと味を確かめます。

冷たいときには分からなかった甘さや米の香りが見えることもあれば、反対に重さを感じることもあります。どちらがおいしいかだけでなく、何が変わったかを記録します。

7.料理と合わせる

最初は、豆腐、焼き魚、卵料理、チーズ、煮物など、一品だけと合わせます。

食べる前とあとで、日本酒の甘さ、酸味、香り、後味がどう変わるかを見ます。「合う」「合わない」と即座に決めず、塩味で甘さが見えた、脂のあとに軽く感じた、と具体的に残します。

8.水を飲み、3行だけ記録する

日本酒と一緒に水を飲みます。飲み終えたあとも水を取り、その日は新しい瓶を次々と開けません。

記録は、次の3行で十分です。

香り 梨のような香りと、少し米の香り

 やや甘く、酸味は穏やか。後味にうまみが残る

次回 同じ酒を常温かぬる燗で試してみたい

温度を変えて楽しむ

日本酒は、温度ごとに細かな呼び名があります。

冷たい温度帯には雪冷え、花冷え、涼冷えがあり、温めた温度帯には日向燗、人肌燗、ぬる燗、上燗、熱燗などがあります。すべて覚えなくても、最初は「冷たい」「常温」「温かい」の三つで十分です。

なお、日本酒で使われる「冷や」は、冷蔵庫で冷やした酒ではなく、燗をつけていない常温の酒を指すことがあります。

冷酒

5〜15℃ほどの冷たい状態では、味が引き締まり、軽快に感じられることがあります。吟醸香を持つ酒、生酒、スパークリング日本酒などの入口に向いています。

冷やしすぎると香りや甘みを感じにくくなる場合もあります。冷蔵庫から出した直後だけでなく、少し時間を置いた状態も試します。

常温

室温に近い温度では、香り、甘み、酸味、うまみの全体をつかみやすくなります。

冷酒では軽く感じた酒が、常温では米の味を強く見せることがあります。特別な道具もいらず、冷蔵庫から出して待つだけなので、初めての比較に向いています。

ただし、真夏の高い室温を「常温」として長く置くことは避けます。

ぬる燗

40℃前後のぬる燗では、米や麹の香りが広がり、味に丸みを感じることがあります。純米酒や本醸造酒などで試しやすい温度です。

最初は熱くしすぎず、湯せんで少しずつ温めます。電子レンジを使う場合は、容器の材質と加熱むらに注意し、短時間ずつ動かしながら温度を確かめます。

熱燗

50℃前後まで温めると、香りが引き締まり、切れを感じやすくなる酒があります。一方で、繊細な香りが分かりにくくなる酒もあります。

すべての日本酒を熱燗にすればよいわけではありません。蔵元が示すおすすめ温度を参考にし、まずは少量で試します。

器を変えて楽しむ

ワイングラス

口が少しすぼまったワイングラスは、香りを集めやすく、吟醸酒や香りの華やかな酒を確かめるのに向いています。

透明なので色も見やすく、最初の飲み比べ用として使いやすい器です。

おちょこやぐい呑み

小さく、少量ずつ注げるため、飲む速度を整えやすくなります。陶器、磁器、ガラス、金属など、素材によって口当たりや温度の伝わり方が変わります。

厚みのある陶器は柔らかな印象を持ちやすく、薄いガラスは酒の輪郭を感じやすいことがあります。ただし、感じ方には個人差があります。

平杯

口が広く浅い平杯は、香りが広がりやすく、燗酒や熟成酒をゆっくり味わうときに使えます。

液面が広いため冷めやすく、温度が変わっていく様子も追えます。

徳利や片口

徳利は燗をつけるときや食卓で注ぐときに便利です。片口は口が広く、香りを見ながら複数の器へ分けやすくなります。

初回はどちらも必須ではありません。計量カップや耐熱容器で代用できる範囲から始めます。

料理との組み合わせを楽しむ

刺身や魚料理

軽快な吟醸酒や、すっきりした本醸造酒は、白身魚、刺身、塩焼きなどと合わせやすいことがあります。

魚の種類だけでなく、しょうゆ、塩、薬味、脂の量によって印象は変わります。淡い料理には香りの強すぎない酒から試します。

豆腐やだしを使った料理

冷ややっこ、湯豆腐、だし巻き卵、煮物などは、日本酒のうまみを確かめやすい料理です。

料理のだしと酒のうまみが重なる場合もあれば、塩味によって酒の甘さが見える場合もあります。燗酒との比較にも向いています。

焼き鳥や肉料理

塩味の焼き鳥には、切れのよい酒や酸味を持つ酒を合わせられます。たれ味には、米のうまみや甘みを感じる純米酒を試せます。

豚の角煮、すき焼き、肉じゃがなど、甘辛い料理では、酒だけが軽すぎると負けて感じられることがあります。味の濃さをそろえる考え方が役立ちます。

チーズや発酵食品

チーズ、味噌、漬物、塩辛など、発酵や熟成を経た食品は、日本酒のうまみや熟成香とつながることがあります。

最初から強い味を何種類も並べず、一つだけ選びます。料理の香りが酒を隠すのか、酒の甘さが見えるのかを確かめます。

洋食や中華料理

日本酒は和食だけに合わせるものではありません。

クリーム料理、トマト料理、フライドチキン、蒸し鶏、餃子、焼売、炒め物などにも試せます。酸味のある酒、低アルコール酒、スパークリング日本酒などは、洋食や中華料理への入口になります。

料理の国籍で決めるより、塩味、脂、酸味、甘み、香ばしさのどれが強いかを見ます。

最初に必要なもの

日本酒1本

初回は、180〜300mlほどの小瓶か、説明が分かりやすい720mlの商品を選びます。冷やして楽しむなら純米吟醸、食事や燗酒まで試したいなら純米酒や本醸造酒も候補です。

清潔なグラス

香りの付いていない透明なグラスを一つ用意します。ワイングラス、小さなタンブラー、普段使いのコップでも始められます。

計量できるもの

90ml、45ml、30mlなどを確認できる計量カップがあると、飲んだ量を把握しやすくなります。徳利やおちょこだけで量を判断すると、何度も注ぐうちに合計が分かりにくくなります。

日本酒と一緒に水を用意します。日本酒の席で飲む水は「和らぎ水」と呼ばれることもあります。

香りを比べるためだけでなく、飲酒の速度と量を整えるためにも大切です。

食事または軽食

空腹のまま飲まず、食事と一緒に楽しみます。初めての比較では、味の強すぎない料理を一品選びます。

記録するもの

紙のノート、スマートフォンのメモ、写真など、続けやすい方法で構いません。銘柄、区分、温度、香り、料理との相性を短く残します。

続けるなら用意したいもの

同じ形のグラスを2脚用意すると、冷酒と常温、異なる二銘柄などを比べやすくなります。

燗酒を楽しむなら、小さな徳利、耐熱容器、温度計が役立ちます。温度を数字で管理したい人は、酒用または調理用の温度計を一本用意すると再現しやすくなります。

開栓日を書ける小さなラベルも便利です。冷蔵庫に複数の酒がある場合は、購入日と開栓日を分けて残します。

酒器に興味が出てきたら、平杯、磁器のぐい呑み、薄手のガラスなど、形や素材の違うものを一つずつ加えます。同じ酒を注いで比べると、器を買う目的がはっきりします。

最初は買わなくてよいもの

高価な酒燗器、日本酒専用冷蔵庫、酒器のセット、大型の酒棚、専門的なきき酒用品は、初回には必要ありません。

大吟醸、限定酒、長期熟成酒を何本もまとめて買うことも後回しにできます。まずは一つの酒を、冷酒、常温、料理との組み合わせで味わいます。

酒米や酵母を覚えるための専門書も、最初から複数そろえる必要はありません。ラベルの言葉を一つ調べ、次の瓶で比較するくらいが続けやすくなります。

米、麹、酵母、発酵容器などの酒造用品も、この趣味の道具には含めません。購入した日本酒を味わうことと、自宅で酒を造ることは別の活動です。

保存と取り扱い

表示を最優先する

要冷蔵、生酒、開栓後冷蔵などの表示がある場合は、その指示に従います。購入時に冷蔵棚へ置かれていた商品は、持ち帰ったあとも冷蔵を続けるのが基本です。

分からない場合は、蔵元や販売店の案内を確認します。

光と高温を避ける

日本酒は光や高温によって香りや味が変わることがあります。直射日光の当たる窓辺、暖房器具の近く、真夏の室内などへ長く置きません。

冷蔵が不要と書かれた酒でも、高温になりやすい季節は涼しく暗い場所を選びます。

基本は立てて保管する

瓶は栓をしっかり閉め、立てた状態で保管します。冷蔵庫では、食品のにおいが移らないよう栓を確認します。

開栓後の変化も楽しむ

開栓直後には香りが強く、数日後に味が落ち着く酒もあります。一方で、生酒や香りの繊細な酒は、変化が早く感じられることがあります。

何日なら必ず大丈夫と一律に考えず、開栓日を残し、見た目、香り、味を確かめます。不自然な変化を感じた場合は、無理に飲みません。

安全に楽しむために

20歳未満は飲まない

日本では20歳未満の飲酒が法律で禁止されています。成年年齢が18歳になったあとも、飲酒できる年齢は20歳以上のままです。

家庭内でも、子どもが水や清涼飲料と間違えない場所へ保管します。

飲む量を先に決める

日本酒は、ビールなどに比べて少量でも純アルコール量が多くなりやすい酒です。小さなおちょこで何度も注ぐと、合計量が分かりにくくなります。

飲み始める前に、その日に飲む分だけを計ります。瓶を食卓へ置かず、残りを冷蔵庫へ戻す方法もあります。

純アルコール量は、次の式でおおよそ計算できます。

飲んだ量(ml)×アルコール分÷100×0.8

アルコール分15%の日本酒を180ml飲むと、純アルコール量は約21.6gです。90mlなら約10.8gになります。

これらは安全を保証する基準ではありません。少ない量でも健康への影響が生じる可能性があり、体質や健康状態による個人差があります。

食事と水を一緒に取る

飲酒前または飲酒中に食事を取り、日本酒の合間に水や炭酸水を飲みます。空腹で飲み始めず、短時間に続けて飲みません。

料理との組み合わせを趣味の中心にすると、飲む速度も整えやすくなります。

運転する日は飲まない

飲酒後は、自動車、オートバイ、自転車などを運転しません。少量だから、時間を置いたからと自分で判断せず、運転の予定がある日は飲酒を避けます。

酒蔵、飲食店、イベントへ出かける場合は、公共交通機関やタクシーなど、帰りの方法を先に決めます。

飲酒を避ける状態を知る

妊娠中や授乳期、療養中、服薬中、体調が悪いときは飲酒を避けます。薬との関係が分からない場合は、医師や薬剤師へ確認します。

少量でも顔が強く赤くなる、動悸、吐き気、強い眠気などが出る場合は、その日の飲酒を中止します。もともと飲酒しない人が、趣味のために始める必要はありません。

飲酒後の入浴や運動を避ける

飲酒中や飲酒後の激しい運動、熱い風呂、サウナなどは避けます。判断力や身体の動きが普段と変わり、転倒や体調不良につながることがあります。

味わい終えたら水を飲み、片付けを済ませて静かに過ごします。

飲酒を人へ勧めすぎない

20歳以上であっても、飲まない人、体質的に飲めない人、その日は控えたい人がいます。

飲み比べ会では、量を競ったり、飲み切るよう勧めたりしません。ノンアルコール飲料と水を用意し、香りだけを見る、料理だけを楽しむという参加方法も尊重します。

自宅で酒を造らない

日本では、アルコール分1度以上の飲料を製造する場合、原則として酒類製造免許が必要です。自分で飲むためであっても、米や麹を使って自由に日本酒を造れるわけではありません。

酒造りを学びたい場合は、酒蔵見学、公的な資料、蔵元が行う講座などを利用します。

続けるほど変わる五つの楽しみ方

第1段階 小さな瓶を一本、落ち着いて味わう

最初は180〜300mlほどの商品を一つ選びます。冷たい状態で20〜30mlを注ぎ、香り、甘さ、酸味、うまみを確かめます。

料理を一品だけ合わせ、3行の記録を残せば、最初の一回は十分です。

この段階では、日本酒に詳しくなることより、「果物のような香りがした」「思ったより甘くなかった」と、自分の感覚に気づくことが中心になります。

第2段階 温度を変えて、一つの酒を比べる

同じ酒を冷酒、常温、ぬる燗のうち二つで比べます。

冷たいときには軽く、温度が上がると米のうまみが広がる。反対に、冷たいほうが香りと酸味のまとまりを感じる。その違いが言葉になり始めます。

銘柄を増やさなくても、日本酒の奥行きを知ることができる段階です。

第3段階 自分の比較軸を作る

純米酒と本醸造酒、吟醸酒と非吟醸酒、冷酒向きと燗酒向きなど、一つずつ条件を変えて比べます。

香りの華やかさ、米のうまみ、酸味、甘さ、切れ、余韻、料理との合わせやすさの中から、自分が大切にする項目を三つほど選びます。

「大吟醸が好き」だけではなく、「香りは穏やかで、酸味があり、食事と一緒に飲みやすい酒が好き」というように、自分の好みを理由とともに表せるようになります。

第4段階 米、蔵、土地、季節をつなげる

ラベルの酒米、産地、酵母、精米歩合、蔵元を調べます。同じ酒米を使う別の蔵、同じ地域の違う銘柄、同じ蔵の季節商品を比べます。

新酒、夏酒、ひやおろし、にごり酒、熟成酒など、季節や造りの違いにも関心が広がります。

味の感想と土地の情報が結びつき、一杯が米作り、水、気候、蔵人の仕事まで含んだものとして見えてきます。

第5段階 選ぶ時間を、人と土地へ広げる

自分の比較軸ができると、食事、季節、相手の好みに合わせて一本を選べるようになります。

20歳以上の家族や友人と少量の飲み比べ会を開く、酒販店の説明を聞く、酒蔵見学へ出かける、旅先の地酒と郷土料理を味わうといった楽しみへ広げられます。

知識を競うのではなく、「この酒は少し温度を上げると米の香りが見えた」「この煮物と合わせると酸味が分かりやすかった」と、相手の発見につながる言葉を添えます。

あわせて楽しみたい関連する趣味

酒蔵・ワイナリー見学

酒蔵見学では、米を蒸す場所、麹を育てる工程、発酵槽、搾りや貯蔵の設備など、日本酒が造られる現場へ触れられます。自宅でラベルを読んでから訪ねると、精米歩合、火入れ、生酒、熟成といった言葉が、実際の工程として理解しやすくなります。

試飲をする場合は、公共交通機関や送迎を利用し、帰りの移動まで含めて計画します。


和食

和食を作るようになると、日本酒との相性を、料理の名前だけでなく、だし、塩味、甘み、脂、焼き目から考えられます。煮物、焼き魚、酢の物、揚げ物などを一品ずつ試すと、酒と料理のどちらが変わって感じられたかを追いやすくなります。

季節の食材や地域の味付けへ関心が広がるところも、日本酒とよくつながります。


味噌作り

味噌作りは、大豆、麹、塩を仕込み、時間による発酵と熟成の変化を待つ手仕事です。日本酒とは原料や工程が異なりますが、麹や微生物の働き、温度、時間が味を作ることを身近に感じられます。

完成した味噌で煮物、焼き物、汁物を作れば、日本酒との組み合わせも食卓で試せます。


小さな一杯から、米と土地の時間をたどる

日本酒を楽しむために、銘柄を暗記したり、高価な酒器をそろえたりする必要はありません。

小さな瓶を一本選び、冷たい状態で少しだけ注ぐ。香りを一つ見つけ、普段の料理をひと口食べ、少し温度が上がったところでもう一度味わう。

その繰り返しの中で、純米と本醸造、冷酒と燗酒、米のうまみと吟醸香の違いが、少しずつ自分の言葉になっていきます。

次の休日には、売り場で180〜300mlほどの小瓶を一つ手に取り、裏側のラベルを眺めてみてください。米、米麹、水という短い原材料表示の向こうに、田んぼ、仕込み水、冬の蔵、季節を待つ時間が静かに続いています。


休日のよりみち帖では、気軽に試せるものから、少しずつ時間をかけて深めていくものまで、さまざまな趣味やレジャーを紹介しています。「次の休日は何をしよう」と迷ったとき、新しい楽しみを見つける小さなきっかけになれたらうれしいです。これからも思わず試してみたくなる趣味を丁寧に紹介していきますので、ぜひフォローして、次の記事も覗いてみてください。

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