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音楽史の楽しみ方

はじめに

再生ボタンを押すと、少しざらついた音の向こうから歌声が聞こえてくる。続けて、同じ曲を何十年も後に録音された音源で聴くと、旋律はよく似ているのに、声の置き方や伴奏の厚み、曲が進む速さまで違って感じられます。

同じ曲なのに、どうしてこれほど印象が変わるのだろう。

「作曲家や年代をたくさん覚えないといけないのかな」

「楽譜が読めなくても楽しめるのだろうか」

「音楽史というと、クラシック音楽だけを学ぶものなのかな」

音楽史は、作品名と年号を順番に暗記するだけの学びではありません。ある音楽が、どのような場所で生まれ、誰に演奏され、どのような媒体を通して聴かれ、次の時代へ渡っていったのかをたどる楽しみです。

入口は、西洋のクラシック音楽に限りません。邦楽、民謡、歌謡曲、ジャズ、ロック、映画音楽、ゲーム音楽など、普段聴いている一曲からでも始められます。好きな音楽の少し手前にある時代をのぞくことが、音楽史を休日へ取り入れる最初の一歩になります。


音楽史の基本情報

1回の標準実施時間 約90分

短く楽しむ場合 約30分

準備を含む総所要時間 約100分

想定頻度 週2〜3回程度

年間の想定回数 約120回

主な場所 自宅、図書館、音楽資料室、博物館、コンサート会場

1人での実施 好きな曲や年代から自由に読み進められる

複数人での実施 聴き比べ、読書会、コンサート鑑賞へ広げられる

施設への依存 自宅と図書館だけでも始められる

天候の影響 自宅学習ではほとんど受けない

90分あれば、入門書を1節読み、そこで紹介された音源を聴き、気づいたことを短く残せます。30分の日は、1曲だけを最後まで聴き、録音された年代と演奏者を確かめるところまででも構いません。

本を読む時間と音を聴く時間を交互に置くと、年表の情報が実際の響きと結びつきます。すべてを理解してから再生するのではなく、気になったところで何度でも音へ戻れることが、自宅で学ぶ良さです。

音楽史の費用

初期費用 0円〜約15,000円

標準的な初期費用 約2,500円

1回の費用 0円〜約1,500円

標準的な1回の費用 約200円

年間費用 約25,000円

図書館の入門書と、手持ちのスマートフォンや再生機器を使えば、ほとんど費用をかけずに始められます。標準的な初期費用の約2,500円は、年代の流れと音源例が分かる入門書を1冊購入し、ノートやイヤホンなどは手持ち品を使う想定です。

1回約200円は、学習のたびに支払う料金ではありません。無料で資料を読む日と、書籍、CD、レコード、楽譜、展示図録などを購入する日を、年間でならした目安です。すでに利用している音楽配信サービスがあれば、追加費用をかけずに多くの聴き比べができます。

年間約25,000円なら、基本書を少しずつ増やしながら、気になる音源を購入したり、年に数回ほど展覧会やコンサートへ出かけたりする楽しみも加えられます。高価なオーディオ機器や大量の資料は、興味のある時代やジャンルが定まってから考えれば十分です。

3つのおすすめ

1.同じ曲の中に、時代ごとの違いが聞こえてくる

音楽史の面白さを早く感じやすいのが、同じ作品や同じ曲の聴き比べです。古い録音と新しい録音、原曲とカバー、スタジオ版とライブ版を続けて聴くと、旋律だけではない違いが見えてきます。

楽器の編成が違う。歌い方が違う。テンポが違う。録音された音の距離感や、聴衆の反応の残り方も違う。

どちらが正しい演奏なのかを決める必要はありません。「古い方は言葉をはっきり区切っている」「新しい方は低音が前へ出ている」など、自分が感じた違いを一つ言葉にできれば、聴き比べは十分に成立します。

曲そのものが変わっていなくても、演奏する人、使われる楽器、録音技術、聴かれる場所が変われば、受け取る印象も変わります。音楽史では、その違いを失敗や崩れとしてではなく、一曲が時代を渡ってきた跡として楽しめます。

2.音楽の向こうに、当時の暮らしや聴き方が見えてくる

音楽は、最初から現在と同じ方法で聴かれていたわけではありません。舞台で聴かれた曲、踊りや行事とともに演奏された曲、家庭へレコードやラジオを通して届いた曲など、音楽によって生まれた場所も広まり方も異なります。

「どのような人が聴いたのか」「1曲だけ聴いたのか、長い演目の一部だったのか」「家庭で繰り返し再生できたのか」と考えると、音楽が当時の暮らしの中でどのような位置にあったのかを想像できます。

歌詞や旋律だけでなく、楽器、劇場、放送、録音媒体、雑誌、ジャケットなども、音楽が届いた道筋を知る手がかりになります。音の歴史を調べていたはずが、服装、交通、娯楽、若者文化、地域の行事へ関心が広がることもあります。

一曲を単独の作品として眺めるだけでなく、その曲が鳴っていた場所まで想像できる。そこに、音楽史ならではの奥行きがあります。

3.好きな一曲から、自分だけの音楽地図が広がる

年代順の教科書を最初から最後まで読むことだけが、音楽史の学び方ではありません。好きな一曲の作曲者や演奏者を調べ、影響を受けた音楽、同じ時期に発表された作品、後のカバーへ進む方法もあります。

現在聴いている曲から、10年前、30年前、さらにその前へとさかのぼる。反対に、古い一曲が後の音楽へどのように受け継がれたのかを追う。こうしてつながりを一本ずつ増やすと、自分の好みを起点にした音楽地図ができます。

有名な作曲家や名盤をすべて通らなくても構いません。ある楽器の音だけを追う、女性歌手の表現の変化を見る、地域の民謡と現代の楽曲を比べるなど、入り口は細くても、その先には長い道があります。

知らない作品を増やすことより、「なぜ、この音が好きなのだろう」と考えられること。その問いが次の一曲を連れてくるところに、長く続けられる魅力があります。

最初の学習環境では、作品・演奏・録音を分けて残す

音楽史の記録では、「曲が作られた年」「初めて演奏された年」「聴いている音源が録音された年」「発売された年」が同じとは限りません。すべてを一つの年代として扱うと、後から情報が混ざりやすくなります。

ノートやデジタル文書へ、作品名、作詞・作曲者、演奏者、録音年または発売年、使用した資料を分けて残します。不明なところは空欄にし、「おそらくこの頃」と推測で埋めないようにします。

国立国会図書館のリサーチ・ナビでは、楽譜、録音資料、音楽家、音楽ジャンル、音楽産業など、音楽に関する資料の探し方が案内されています。邦楽、ポピュラー音楽、ジャズなどテーマ別の調べ方も用意されているため、好きなジャンルから資料を探す入口として利用できます。

同館の「歴史的音源」では、1900年代初めから1950年頃までに国内で製造されたSP盤などから、邦楽、民謡、流行歌を含む約5万点の音源がデジタル化されています。公開範囲は音源によって異なりますが、現在の録音とは違う歌声や演奏を自宅や対応施設で聴く手がかりになります。

さらに深く読みたくなったときは、日本音楽学会の機関誌『音楽学』の一部をJ-STAGEで閲覧できます。最初から論文をすべて理解しようとせず、気になる曲名、人物名、ジャンル名が題名に含まれるものを探すところからで十分です。

最初の1冊は、年表の厚さより音源へ戻れるかで選ぶ

最初の入門書は、古代から現代までを細かく網羅しているかより、本文で紹介された音楽を実際に聴きたくなるかで選びます。曲名や演奏者が具体的に示され、時代の説明と音源例が近い場所に置かれている本は、読む時間と聴く時間を行き来しやすくなります。

西洋クラシック、日本音楽、ジャズ、ポピュラー音楽など、すべてを1冊へ詰め込んだ本が、自分にとって最も読みやすいとは限りません。まずは関心のあるジャンルを中心に置き、その前後の時代にも少し触れているものを選ぶと、話が途切れにくくなります。

索引、参考文献、音源案内があるかも確認します。作品が生まれた年と録音年が区別されていること、音楽の変化を1人の天才だけで説明せず、演奏者、聴衆、社会、媒体にも目を向けていることも、長く使える本を選ぶ手がかりになります。

購入前に図書館で2冊ほど開き、好きな曲や知っている人物の説明を比べてみてください。読み終えたあとに、その曲をもう一度再生したくなる本は、最初の1冊になりやすいでしょう。

初めての1日は、好きな1曲を2つの録音で聴く

初回の目標は、音楽の歴史全体を理解することではありません。好きな曲について、年代の異なる録音や演奏を2つ見つけ、違いを一つ言葉にすることです。

最初は解説を読まず、2つの音源を続けて聴きます。声、楽器、速さ、音の広がり、曲の長さの中から、気になった部分を一つだけメモします。

次に、演奏者、録音年または発売年、使用されている楽器など、分かる範囲の情報を確認します。そのうえでもう一度聴き、「なぜ、この時期にはこの表現が選ばれたのだろう」と疑問を一つ残します。

答えまで見つからなくても構いません。「古い録音では歌が前にあり、新しい録音では伴奏が広く聞こえる」と書けたなら、最初の聴き比べは完成しています。

最初に必要なもの

最低限必要なもの

入門書または図書館で借りた参考書、音源を正規に再生できる環境、ノート、筆記具があれば始められます。記録には曲名だけでなく、演奏者と録音年も添えます。

あると便利なもの

PCやタブレットは、解説、年表、音源情報を並べて見るときに便利です。イヤホンまたはヘッドホン、スピーカー、付箋、ブックスタンドがあると、読書と聴取を切り替えやすくなります。

続けるなら用意したいもの

好きなジャンルの音楽史、人物別の評伝、演奏記録、CDやレコードの解説書、コンサートのプログラムなどが候補です。紙でもデジタルでも、資料の出典と聴いた音源を同じ場所へ残せる形を選びます。

後回しにできるもの

高価なオーディオ機器、専門的な楽譜、音楽制作ソフト、大量のCDやレコード、有料の学習管理ツールは、最初には必要ありません。音質、楽譜、収集のどこへ関心が向いたのかが分かってから、必要なものだけを加えます。

安全に楽しむために

イヤホンやヘッドホンでは、細かな音を聞こうとして音量を上げすぎないようにします。WHOは、音量と聴取時間の両方が聴覚への負担に関係し、機器の音量を最大の60%以下にすることや、途中で耳を休ませることを案内しています。耳鳴りや聞こえにくさが続く場合は再生を中断し、専門家へ相談します。

長時間の読書や画面作業では、45〜60分ほどを目安に一度立ち、目、首、肩、腰を休ませます。聴き比べを続けると音の違いが分かりにくくなることもあるため、集中が切れたら無理に判断せず、別の日に聴き直します。

音楽史の記録を公開するときは、解説文の引用だけでなく、音源、歌詞、楽譜、ジャケット画像の扱いにも注意します。古い作品でも、使用する録音には実演家やレコード製作者などの権利が関係する場合があります。音源の切り抜きや歌詞、楽譜の画像をSNSや動画へ載せるときは、文化庁、権利管理団体、利用するサービスの案内を確認します。

続けるほど変わる五つの楽しみ方

1.好きな1曲の周りに日付を置く

作品が作られた頃、演奏された頃、聴いている音源が録音された頃を確認します。最初は正確な年表を作るより、一曲にも複数の時間があると気づくところから始めます。

2.同じ作品を別の演奏で聴く

演奏者、楽器、テンポ、録音年代の異なる音源を比べます。違いを細かな専門用語ではなく、「軽く聞こえる」「言葉が近く感じる」など、自分の言葉で残します。

3.音楽が届いた場所を調べる

劇場、放送、映画、レコード、ライブ会場など、その音楽がどのような場所や媒体を通して聴かれたのかへ目を向けます。作品の歴史と、聴く人の暮らしがつながり始めます。

4.自分の問いで時代を横断する

好きな楽器、歌声、地域、作曲家、レコード会社など、関心の軸を一つ決めます。同じ時期の別ジャンルや、後の作品への影響を比べると、自分で資料を選ぶ楽しさが生まれます。

5.小さな音楽年表を育てる

聴いた曲、録音年、気づいた違い、参考資料を並べ、自分だけの年表やプレイリストを作ります。家族へ一曲の背景を紹介しても、公開せず静かに聴き返す記録として残しても構いません。

この五つは、上へ進むための順位ではありません。好きな一曲を何度も聴いても、年表を作らず演奏の違いだけを楽しんでも、しばらく音から離れても自然な続け方です。聴く、読む、比べる、出かけるを、その時の休日に合わせて行き来できます。

あわせて楽しみたい関連する趣味

音楽

音楽の楽しみ方では、気分や生活の場面に合う一曲を探し、アルバム、年代、関連するアーティストへ聴く範囲を広げられます。音楽史を始める前に、まず自分がどの音や作品へ惹かれるのかを見つけたい人にもおすすめです。


レコード・CD収集

レコードやCDには、音源だけでなく、発売年、演奏者、制作スタッフ、曲順、解説、ジャケットなど、その作品が届けられた時代の情報も残されています。配信で聴いた一曲を、当時の媒体やアルバム全体の流れから見直したい人に向いています。


クラシックコンサート鑑賞

クラシックコンサートでは、過去に作られた作品が、現在の演奏者と会場によって新しく響く瞬間を体験できます。音楽史で曲の背景を知ってから聴く方法も、先に生演奏を聴き、気になった部分を帰宅後に調べる方法も楽しめます。


同じ旋律の間に流れた時間を聴く

音楽史を学んでも、一曲が生まれた理由や、ある演奏が広く聴かれた理由を、すべて一つの答えにまとめられるとは限りません。資料によって年代が違うことも、本人の記録が残っていないこともあります。

それでも、同じ曲の古い録音と新しい録音を続けて聴いたとき、単なる音質の違いではなく、その間に流れた時間まで少し想像できるようになります。

次の休日は、好きな一曲の別の録音を一つだけ探してみてください。聞き慣れた旋律がもう一度始まり、以前とは違う音が聞こえた瞬間、その二つの演奏の間にある歴史が静かに開き始めます。


休日のよりみち帖では、気軽に試せるものから、少しずつ時間をかけて深めていくものまで、さまざまな趣味やレジャーを紹介しています。「次の休日は何をしよう」と迷ったとき、新しい楽しみを見つける小さなきっかけになれたらうれしいです。これからも、思わず試してみたくなる趣味を一つずつ丁寧に紹介していきますので、ぜひフォローして、次の記事も覗いてみてください。

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