作曲の楽しみ方
はじめに
何気なく口ずさんだ四つの音を、忘れないうちにスマートフォンへ録音する。
聞き返してみると、鼻歌だけだった旋律に、少し寂しそうな上がり方や、何度も戻りたくなる音があることに気づきます。その下へ低い音を一つ加え、一定のリズムを置くと、数秒前まで頭の中にしかなかったものが、短い曲のように動き始めます。
作曲というと、楽譜をすらすら書ける人や、楽器を長く学んできた人だけのものに見えるかもしれません。和音や音階をすべて理解し、何分もある曲を最初から最後まで思い浮かべなければ始められないようにも感じます。
けれど、最初の作品は四小節でも構いません。
二つの和音を交互に鳴らし、その上へ短い旋律を置く。一定のリズムを作り、後半だけ一音変える。スマートフォンやパソコンの中でそれらを並べれば、楽器を演奏できなくても、自分で選んだ音を一つの流れへまとめられます。
大切なのは、最初から立派な作品を作ることではなく、浮かんだ音を消える前に残し、小さくても終わりまで形にすることです。
今回は、自宅のスマートフォンやパソコンを使い、週に二、三回ほど作曲を続ける場合を中心に、必要な機器とソフト、費用、最初の一曲の作り方、音楽理論との付き合い方、作品の保存、著作権、身体や耳への配慮を紹介します。
作曲の基本情報
主な楽しみ方 思い浮かんだ旋律やリズムを端末へ記録し、音を重ねて短い曲へ仕上げる
おすすめの頻度 週2〜3回
1回の制作時間 約60分〜120分
短時間で楽しむ場合 約20分〜40分から
休憩を含めてじっくり取り組む場合 約2時間〜2時間30分
主な制作場所 自宅の机、静かな居室、楽器を使う場合は音楽室や貸しスタジオ
最初に使える機器 手持ちのスマートフォン、タブレット、パソコン
一人での実施 旋律作り、打ち込み、録音、構成、書き出しまで自分のペースで進められる
複数人での実施 作詞、歌唱、演奏、編曲、映像制作などを分担できる
天候の影響 自宅制作ではほとんど受けない
ここで扱う作曲は、旋律、リズム、和音、曲の流れを考え、自分の音楽としてまとめることです。五線譜へ書く方法もありますが、現在はDAWと呼ばれる音楽制作ソフトへ音を入力し、耳で確かめながら組み立てる方法も広く使われています。
DAWは「Digital Audio Workstation」の略で、音符の入力、演奏や歌の録音、音の編集、楽器音の変更、音量調整などを一つの画面で行うためのソフトです。スマートフォン向けのアプリや、ブラウザ上で使える無料サービスもあるため、作曲を試す段階で新しいパソコンを購入する必要はありません。
作曲、編曲、DTM、ミキシングは、互いに関わりながら少しずつ役割が違います。
作曲は、旋律や和音、リズム、曲の構成を考えること。
編曲は、その曲をどの楽器で鳴らし、どのような伴奏や音の重なりにするかを整えること。
DTMは、パソコンやスマートフォンを使って音楽を作る方法や制作環境を表す言葉。
ミキシングは、録音や打ち込みを終えた複数の音について、音量、左右の位置、響きなどを整える工程です。
実際の制作では境目がはっきり分かれないこともあります。旋律を考えながら楽器音を選び、リズムを変えたことで別の旋律が浮かぶこともあるため、最初は分類よりも「短い一曲を完成させること」を優先します。
作曲にかかる費用
作曲は、手持ちの端末を使えば無料から始められます。
スマートフォンの録音機能へ鼻歌を残すだけでも、作曲の入口になります。さらに無料のDAWや音楽制作アプリを使えば、画面上の鍵盤や音符を使って、旋律、ドラム、低音、和音を重ねられます。
手持ちの端末と無料ソフトで始める場合 0円
ヘッドホンや小型鍵盤を追加する場合 約10,000円〜30,000円
有料DAWを導入する場合 約10,000円〜40,000円前後
録音用の機器までそろえる場合 約30,000円〜100,000円前後
無料環境を中心に続ける年間費用 0円〜10,000円ほど
有料ソフトや音源を追加する年間費用 約10,000円〜50,000円以上
現在は、スマートフォン、タブレット、パソコンで使える無料の制作環境があります。端末へインストールするものだけでなく、ブラウザで録音、打ち込み、編集ができるサービスもあるため、最初は対応端末と必要な空き容量を確認して一つだけ選びます。
有料DAWには、買い切り型と定額制があります。買い切り型でも大きな更新が有料になる場合があり、定額制では契約を終了すると一部機能を使えなくなることがあります。価格だけでなく、対応するOS、必要な性能、保存形式、契約終了後に過去の作品を開けるかまで確認します。
作曲では、制作するたびに材料を購入する必要はありません。横持ちデータにある一回50円ほどの材料費は削除し、実際にはソフト、音源、保存容量、周辺機器の追加費用として考えます。
最初に購入を考えやすいのは、ヘッドホンです。夜間や集合住宅でも音を確認しやすくなりますが、高価な製品でなければ作曲できないわけではありません。まず端末のスピーカーで短い曲を作り、音の細部を聞き分けたくなった段階で、5,000円〜20,000円ほどの製品を試します。
画面上の鍵盤やマウス操作が使いにくければ、MIDIキーボードを加えられます。これは単体で大きな音を出す電子ピアノではなく、DAW内の楽器を演奏するための入力機器です。小型の製品は1万円前後から見つかりますが、鍵盤がなくても音符を一つずつ配置できるため、初日から必要ではありません。
歌や生楽器を録音する場合は、マイクとパソコンをつなぐオーディオインターフェイスが役立ちます。本体、マイク、ケーブル、スタンドなどを合わせると数万円かかるため、録音したいものが決まってからそろえます。最初の仮歌や環境音は、スマートフォンの内蔵マイクでも記録できます。
追加音源、エフェクト、ループ素材は、少しずつ買ううちに費用が膨らみやすい部分です。最初から多くの音を集めず、ソフトに付属するピアノ、ベース、ドラムなどで一曲完成させてから、足りない音だけを考えます。
作曲を安く続ける一番の方法は、無料ソフトを探し続けることではなく、選んだ一つの環境で作品を完成させることです。新しいソフトへ移るたびに操作を覚え直すより、録音、複製、削除、音量調整、書き出しという基本操作を身につけるほうが、実際の制作は進みます。
作曲をおすすめする3つの理由
1.言葉にならない気分を、音の動きとして残せる
心に残った出来事があっても、その感覚を文章へするのが難しい日はあります。
少し明るいけれど、最後だけ寂しい。
静かに始まり、途中から走り出したい。
同じ場所を何度も歩いているような感じがする。
こうした曖昧な感覚も、音の高さ、速さ、長さへ置き換えられます。高い音へ向かう旋律、同じ音へ戻る旋律、長く伸ばした一音など、自分が選んだ動きによって小さな感情の輪郭が残ります。
曲に題名を付けるのは、完成後でも構いません。最初は「雨の日」「午前二時」「帰り道」のような仮の言葉を置き、その場面に合う音を探します。
録音された音は、作った日の気分をそのまま説明するものではありません。それでも、数か月後に聞き返すと、その頃に選びたかった速さや響きが残っています。
2.同じ四小節が、選ぶ音によって何度も変わる
短い旋律を一つ作ったあと、その下の和音を変えると印象が変わります。
ピアノで鳴らせば輪郭が見えやすくなり、弦楽器の音へ変えると余韻が増える。低い音を長く伸ばせば静かな曲になり、細かなドラムを加えれば前へ進む曲になります。
旋律そのものを変えなくても、速さ、音色、伴奏、休符の位置によって別の表情が生まれます。何かを一から思いつき続けなくても、すでに作った素材を見直すことで次の選択へ進めます。
この「選び直せること」は、デジタル制作の大きな魅力です。元の音を残したまま複製し、速い版と遅い版、明るい版と静かな版を比べられます。
最初の案が正解でなくても構いません。複数の形を聞き比べ、自分が残したいものを選ぶ過程そのものが作曲になります。
3.小さく完成させた曲を、何年後でも育て直せる
作曲では、一度完成とした作品へ再び戻れます。
最初はピアノだけだった曲へ、後から低音を加える。四小節だけだった旋律を、別の展開へつなぐ。歌詞を書ける人と出会ったら、短いインスト曲を歌へ変えることもできます。
過去の作品が、未熟だから無駄になるわけではありません。自分が以前どのような旋律を好み、どこで曲を終えていたかを知る記録になります。
技術が増えると、昔の曲をすべて作り直したくなることもあります。けれど、元のファイルを残しておけば、その頃にしか選べなかった素朴な音も消えません。
完成した作品を並べると、上手さだけでなく、関心の変化が見えてきます。静かな曲が多かった時期、リズムを試していた時期、短い旋律を丁寧に作っていた時期。それらが自分だけの作品集になっていきます。
最初はスマートフォンとパソコンのどちらで始めるか
作曲を始める端末は、すでに持っているものから選びます。
スマートフォンは、思いついた瞬間に録音できることが魅力です。画面は小さいものの、鍵盤やドラムパッドを指で操作でき、短い曲なら録音から書き出しまで進められます。
パソコンは、複数の音を並べた状態を広く表示でき、細かな編集やファイル管理をしやすい環境です。すでに日常で使っているパソコンが制作ソフトの必要条件を満たしているなら、最初から買い替える必要はありません。
タブレットは、指で操作できる手軽さと、スマートフォンより広い画面を両立できます。画面上の鍵盤を弾いたり、音符を直接動かしたりする作業に向いています。
端末を選ぶときは、次の点を確認します。
制作ソフトが現在のOSに対応しているか
保存に使える空き容量があるか
イヤホンやヘッドホンを接続できるか
作った曲を一般的な音声ファイルへ書き出せるか
端末外へバックアップできるか
外部鍵盤やマイクを使う場合の接続方法
無料版の曲の長さやトラック数に制限があるか
有料契約を解約したあとも作品を開けるか
最初のソフトは、機能の数より、操作の分かりやすさで選びます。ピアノ音を一つ立ち上げ、音符を入力し、再生して、保存できれば十分です。
制作例や説明動画を見て、画面が自分にとって見やすいものを一つ決めます。複数のソフトを同時に入れるより、一曲を作り終えてから別の選択肢を比べます。
最初に用意したいもの
最初に必要なもの
スマートフォン、タブレット、パソコンのいずれか 手持ちの端末から始める
音楽制作ソフトやアプリ 無料版または端末に付属するものを一つ選ぶ
音を確認する環境 端末のスピーカー、手持ちのイヤホン、ヘッドホンなど
録音用のメモ機能 鼻歌、言葉、リズムを思いついた瞬間に残す
保存場所 端末内だけでなく、別の媒体やクラウドへ複製できる場所
最初に必要なのは、大きな机や専門的な機材ではありません。端末を安定して置き、肩を上げずに操作できる場所があれば始められます。
続けるなら用意したいもの
MIDIキーボード 画面上の鍵盤より、指で音を探したい場合に使う
ヘッドホン 細かな音や夜間の作業を確認する
オーディオインターフェイス 歌や楽器をパソコンへ録音する
マイクとスタンド 声や生楽器を一定の位置から録音する
外付けストレージ プロジェクトと書き出した音源を二重に保存する
安定した椅子と端末台 長時間の前かがみを減らす
入力機器を買う場合は、接続端子と対応OSを確認します。変換アダプターを重ねなければ使えない製品は、接続が不安定になったり、持ち運ぶ部品が増えたりすることがあります。
最初は買わなくてよいもの
高価なモニタースピーカー
大型のMIDIキーボード
多くの追加音源
録音用マイクを何本もそろえたセット
本格的な防音室
用途の決まっていないエフェクト機器
大量の教本や理論書
初心者向けと書かれた機材一式
音源や機材を増やすと、選ぶ時間も増えます。最初の一曲は、ピアノ、ベース、ドラムなど、ソフトに最初から入っている少数の音でまとめるほうが、旋律と構成へ集中できます。
最初に知っておきたい四つの要素
音楽理論をすべて勉強してから作曲する必要はありません。ただし、制作画面に現れる基本的な言葉を少し知っておくと、思った音へ近づきやすくなります。
拍とテンポ
拍は、曲の中で繰り返される時間の区切りです。手拍子を一定の間隔で続けたとき、その一回ずつが拍になります。
テンポは、拍が進む速さです。数字が小さければゆっくり、大きければ速くなります。最初は60〜100ほどの範囲で、鼻歌を無理なく口ずさめる速さを探します。
数値を先に決められなければ、録音した鼻歌へ合わせて手をたたき、その速さに近い設定を選びます。
音階と調
音階は、曲の中で使いやすい音を順番に並べたものです。最初はピアノの白鍵を中心に使い、気持ちよくつながる数音から旋律を作れます。
調は、曲の中心となる音や和音のまとまりです。最初から調号を暗記せず、最後に戻りたくなる音がどれかを耳で探します。
使う音を五つほどに絞ると、旋律が散らばりにくくなります。ド、レ、ミ、ソの四音だけでも、音の長さと順番を変えれば複数のフレーズを作れます。
コード
コードは、複数の音を同時に鳴らした和音です。旋律の下へ置くことで、明るさ、落ち着き、緊張などの感じ方が変わります。
初めの曲では、一つのコードを長く鳴らすだけでも構いません。慣れてきたら二つのコードを交互に使い、旋律がどちらに合うかを聞き比べます。
コード名を覚えることより、旋律の下で音を変えたときに、どの響きを残したいかを選ぶことが先です。
曲の構成
構成は、曲の中でどの部分を繰り返し、どこで変化させるかという設計です。
四小節のフレーズを一度作り、そのままもう一度繰り返す。二回目だけ最後の音を変える。それだけでも、前半と後半のある短い曲になります。
最初からイントロ、Aメロ、Bメロ、サビをすべて用意する必要はありません。短い一つの場面を完成させ、必要になったときに前後を加えます。
初めての40分で、30秒の曲を作る
初回の目標は、音のよい作品を作ることではありません。
新しいプロジェクトを開き、音を置き、最後まで再生し、保存する。その一連の流れを経験することが目標です。
1.一つの場面を決める 約3分
「朝の窓」「帰り道」「雨が止んだあと」のように、短い場面を一つ決めます。壮大な物語ではなく、数十秒で表せそうなものを選びます。
題名は仮で構いません。ファイル名を「新規プロジェクト」のままにせず、あとから思い出せる言葉を一つ付けます。
2.速さを決める 約3分
メトロノームを鳴らし、落ち着いて聞ける速さを探します。迷ったら、少しゆっくりに設定します。
速すぎると細かな音を多く置きたくなり、初回の編集が複雑になります。ゆっくりした拍の上で、音を伸ばすところから始めます。
3.四つほどの音で旋律を作る 約8分
ピアノ音を選び、画面上の鍵盤や音符入力を使って四つほどの音を並べます。高さを変えるだけでなく、一音だけ長く伸ばしたり、途中に休みを置いたりします。
うまく思いつかなければ、スマートフォンへ録音した鼻歌を聞き、最初の数音だけを探します。すべてを正確に再現できなくても、似た上がり下がりが見つかれば十分です。
4.四小節へ整える 約5分
作った旋律を四小節ほどの長さへ収めます。音が多すぎる場合は削り、途中に少し余白を作ります。
一度通して聞き、最後の音が途中のように感じたら、中心にした音へ戻してみます。
5.低い音か和音を一つ加える 約6分
旋律の下へ、低い音を長く伸ばします。音を変える場合も、最初は二種類までにします。
伴奏が旋律より目立つときは、音量を下げるか、鳴らす回数を減らします。豪華にするより、旋律を支える場所を作ります。
6.簡単なリズムを加える 約5分
一定の拍を示すドラムや打楽器を一つ加えます。最初から複雑なリズムを選ばず、曲の速さを感じられる程度にします。
静かな曲なら、リズムを入れない選択もあります。加えた音が場面と合わなければ、削除して構いません。
7.全体を複製し、最後だけ変える 約5分
完成した四小節を複製して、八小節にします。後半の最後の一音、リズム、低音のどれか一つだけを変更します。
前半と似ているけれど、少し違う。その変化があるだけで、曲がどこかへ進んだように聞こえます。
8.保存して書き出す 約5分
プロジェクトを保存し、可能であれば一般的な音声ファイルへ書き出します。スマートフォンや別の再生機器で最初から最後まで聞きます。
直したい場所が見つかっても、その日は一度「完成」とします。修正版は別の名前で保存し、最初に作った形も残します。
週2〜3回の制作を続ける組み立て方
毎回二時間かける必要はありません。作曲は、考える日、音を置く日、聞き直す日へ分けられます。
一回目は、鼻歌やリズムをいくつか録音し、その中から一つ選びます。
二回目は、旋律の長さを整え、低音や和音を加えます。
三回目は、余計な音を減らし、前半と後半をつないで書き出します。
40分ほどの日なら、次のように分けられます。
5分 前回の曲を一度だけ聞く
10分 直す場所を一つ決める
15分 その部分だけを編集する
5分 最初から最後まで聞く
5分 別名で保存し、次に行うことを一行残す
再生するたびに違う場所を直していると、いつまでも完成しません。「今日は旋律の長さ」「次回は低音」というように、作業の範囲を一つへ絞ります。
作業を終える前に、次に行うことを短く記録します。「八小節目の最後を変える」「ドラムを半分に減らす」など、具体的な一行があれば、次回に画面を開いてから迷いにくくなります。
一曲を完成させるために、増やすより削る
作曲を始めると、音を足すことへ意識が向きやすくなります。
ピアノだけでは寂しいから弦楽器を加える。
低音が欲しいからベースを入れる。
盛り上がりが足りないからドラムを増やす。
さらに効果音を置き、別の旋律も重ねる。
音が増えるほど豊かになる場合もありますが、初めに作った旋律が聞こえにくくなることもあります。
迷ったら、曲の中で一番残したいものを決めます。旋律が中心なら、ほかの音はその邪魔をしていないかを確かめます。リズムが中心なら、長く伸ばした音を減らし、動きが見える余白を作ります。
一度すべての音を止め、旋律だけを聞く。次に低音を戻し、必要ならリズムを加える。一つずつ重ね直すと、なくても困らない音が見つかります。
完成とは、これ以上何も加えられない状態ではありません。今の自分が聞かせたい部分が、最後まで途切れずに伝わる状態です。
音楽理論は、作ったあとにも学べる
音楽理論を知らずに作ると間違いになるのでは、と不安になることがあります。
けれど、最初は耳で選び、あとから仕組みを調べても構いません。作った旋律に合う和音が分からなければ、その疑問がコードを学ぶ理由になります。
理論書を最初から順番に読むより、現在の曲で必要な言葉を一つずつ調べます。
音がぶつかって聞こえるなら、音階やコード構成音。
曲が落ち着かないなら、終止や中心音。
単調に感じるなら、リズムやフレーズの反復。
展開が急に聞こえるなら、曲の構成やつなぎ方。
すでに自分の音があると、理論が抽象的な決まりではなく、作品を確かめる道具として見えてきます。
理論に合わない響きを見つけても、すぐ削る必要はありません。意図して残したい音なのか、入力を間違えた音なのかを聞き分けます。説明できないけれど好きだと感じる響きも、作曲では大切な出発点です。
ループや既存曲を使う前に、利用条件を確認する
制作ソフトには、あらかじめ演奏されたドラム、楽器、声などのループ素材が含まれていることがあります。並べるだけで曲の形を作れるため、リズムや構成を学ぶ入口として便利です。
ただし、「無料で聞ける」「無料でダウンロードできる」ことと、自由に作品へ組み込み、公開や販売ができることは同じではありません。
使用する前に、次の内容を確認します。
個人制作で使えるか
インターネットで公開できるか
商用作品に使えるか
素材だけを再配布してはいけないか
作者名や提供元の表示が必要か
加工して使えるか
動画、ゲーム、配信など用途別の条件があるか
有料契約を終えたあとも、制作済みの曲を公開し続けられるか
利用条件は後から確認できるよう、規約のページ、素材名、取得日を記録します。ファイル名を変更しても、どの素材だったか分かる状態にしておきます。
市販の曲や配信音源から一部を切り出して使う場合は、作詞・作曲の著作権だけでなく、録音された音源に関する権利も関わります。数秒だけなら自由に使えると決めつけず、権利者から必要な許諾を得られる場合だけ使用します。
練習では、好きな曲のコード進行や構成を分析することがあります。その場合も、旋律や録音をそのまま自作曲として公開しないよう、自分の作品と研究用のファイルを分けます。
自分の曲は、作った時点から著作物になる
自分で創作した楽曲の著作権は、作品を作った時点で発生し、権利を得るための登録は原則として必要ありません。
一方で、いつ、どのように作ったかを後から確認できるよう、制作途中のファイルも残しておくと安心です。
日付を入れたプロジェクト
鼻歌を録音した元データ
途中の書き出し
使用した素材と利用条件
共同制作者との役割や合意
公開した日と公開先
これらを一つのフォルダへまとめます。
共同制作では、旋律、歌詞、編曲、演奏、録音などを誰が担当したかを早い段階で話し合います。作品を公開する前に、名義、収益の分け方、後から修正する場合の連絡方法も文章で残します。
自作曲を動画や配信サービスへ公開するときは、利用するサービスの規約を確認します。自分が作った曲でも、外部のループ、共同制作者の演奏、画像や映像を含む場合は、それぞれの権利と公開条件が関係します。
最初の作品を家族や友人へ聞かせるだけなら、難しい手続きへ進む必要はありません。ただし、どこかで見つけた音を無条件に使わず、自分で作ったものと借りたものを区別する習慣は、早い段階から持っておきたいところです。
作品を失わないための保存方法
音楽制作のプロジェクトは、一つの音声ファイルだけではありません。楽器音、録音、設定、編集内容など、複数のデータが組み合わさっています。
端末が故障したり、ソフトを入れ直したりしたとき、プロジェクトだけでは音源を再現できないこともあります。制作途中のファイルと、再生できる音声ファイルの両方を残します。
フォルダ名には、日付と仮題を入れます。
2026年8月4日 雨上がり
01 鼻歌
02 最初の打ち込み
03 構成を追加
04 完成版
書き出し音源
使用素材と条件
このように分けておくと、どれが最新か分からなくなるのを防げます。「完成」「完成2」「本当の完成」のような名前を増やすより、日付や番号を使います。
保存先は、端末内だけにしません。外付けストレージやクラウドなど、別の場所へ定期的に複製します。自動同期を利用していても、誤って削除した内容まで同期されることがあるため、節目ごとに独立した複製を残します。
ソフトを変更する可能性がある場合は、完成した音源だけでなく、楽器ごとに分けた音声やMIDIデータも書き出しておくと、別の環境へ移しやすくなります。
耳と身体を休ませながら作る
作曲では、同じ数秒を何度も繰り返して聞くことがあります。細かな音を確認しようとして、気づかないうちに音量を上げてしまうこともあります。
最初は小さめの音量から始めます。聞こえにくい部分があっても、すぐ音量を上げず、周囲を静かにする、ほかの音を一時的に止めるといった方法で確認します。
長時間ヘッドホンを使い続けず、途中で外して静かな時間を作ります。耳鳴り、音がこもる感じ、普段より聞こえにくい感覚がある場合は、その日の音作りを終えます。
大きな音を出せるスピーカーを使う場合も、近隣や家族の生活へ配慮します。低音は壁や床を通して伝わりやすいため、夜間はヘッドホンへ切り替え、スピーカーを床や壁へ直接密着させません。
画面作業は、45分〜60分ほどで一度区切ります。保存して画面から目を離し、立ち上がって姿勢を変えます。長く作業する日は、短い休憩だけでなく、10分〜15分ほど端末から離れる時間も入れます。
ノートパソコンを低い机へ置くと、首を曲げた姿勢が続きます。画面を見やすい高さへ近づけ、外付けのキーボードやマウスを使う場合は、肩を上げずに操作できる位置へ置きます。
小さなMIDIキーボードでも、身体から遠すぎると腕を前へ伸ばし続けます。端末、鍵盤、マウスを同時に使う場合は、一番長く触るものを身体の正面へ置きます。
作品が思うように進まないときは、画面の前へ座り続けるより、散歩をしながら鼻歌を録音する、紙へ曲の流れを書くなど、別の作業へ切り替えます。考えている時間も作曲の一部ですが、休むことまで制作時間へ含めてしまわないよう、終える時刻も決めておきます。
続けるほど変わる五つの楽しみ方
第1段階 短い旋律を一つ保存する
最初は、鼻歌や画面上の鍵盤から四つほどの音を選びます。
音程が正確でなくても、曲の一部らしい動きが残れば十分です。数秒の録音を保存し、後からもう一度聞ける状態にします。
頭の中にしかなかった音が、端末の中へ残る。その小さな変化が、作曲の最初の喜びになります。
第2段階 四小節を最後まで形にする
短い旋律へ拍を付け、低音や和音を加えます。四小節を作り、もう一度繰り返して、30秒ほどの作品へまとめます。
途中に気になる音があっても、まず書き出します。始まりと終わりのある作品を一つ持つことで、次の曲では何を変えたいかが分かります。
第3段階 自分の選びやすい音や構成を知る
何曲か作ると、同じような速さ、音色、旋律の動きを選んでいることに気づきます。
静かなピアノ音が好きなのか、細かなリズムへひかれるのか、短い繰り返しを少しずつ変える構成が合うのか。自分の癖は、直すべき欠点ではなく、作風の種にもなります。
いつもの選択を残しながら、一曲だけ別の速さや楽器を試すことで、表現の範囲が広がります。
第4段階 一つのテーマから複数の曲を作る
季節、時間帯、短い物語、架空の場所など、一つのテーマを決めて数曲を作ります。
同じ旋律を別の速さで使う。共通する楽器音を入れる。曲の最後を次の曲の最初へつなげる。単独の作品だけでなく、並べたときの流れも考えられるようになります。
一曲にすべてのアイデアを入れず、別の作品へ分ける判断もできるようになります。
第5段階 人の声や演奏と出会い、作品を外へ開く
自分で作った旋律を、誰かに歌ってもらう。楽器を演奏する人へ渡し、弾きやすい形へ整える。映像やゲームを作る人と相談し、場面に合わせて曲を作る。
一人で完結していた作品へ、別の人の呼吸や解釈が加わります。想像していた音と違っても、その変化から新しい作り方を知ることがあります。
公開や販売を目標にしなくても、家族へ聞かせる、友人と一曲だけ共同制作する、過去の作品を小さなアルバムとしてまとめるなど、自分に合った方法で音を届けられます。
五つの段階は、作曲家としての優劣を決めるものではありません。四小節の旋律へ戻る日も、長い作品を作る時期も、そのときの生活と関心に合った作曲の形です。
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ピアノ
ピアノは、低い音から高い音までが鍵盤の並びとして見えるため、旋律や和音の関係を確かめやすい楽器です。両手で難しい曲を弾けなくても、右手で旋律、左手で低音を一つ鳴らすだけで、作曲した音の骨組みを確かめられます。
フィールドレコーディング
フィールドレコーディングは、街、自然、建物などで聞こえる音を録音する楽しみです。雨音、足音、電車の通過音など、自分で録った音を作品の背景やリズムへ使うことで、音源集だけでは作れない場所の記憶を曲へ加えられます。
音楽鑑賞
音楽鑑賞では、好きな曲をただ聞くだけでなく、旋律、低音、リズム、楽器の入り方へ順番に耳を向けられます。作曲を始めたあとに同じ曲を聞き直すと、サビの前で音が減ることや、二回目だけ伴奏が変わることなど、作品を組み立てる工夫が見えてきます。
頭の中の数秒を、消えない一曲へ変えていく
最初の一日は、長い曲を作れなくても構いません。
思いついた鼻歌を録音し、その中から四つの音を探す。一定の拍へ並べ、低い音を一つ加える。最後まで再生できたら、日付と仮の題名を付けて保存します。
それだけでも、頭の中を通り過ぎるはずだった数秒が、自分の作品として残ります。
作曲を続けていると、音を思いつくことだけでなく、選ぶことが大切だと分かってきます。どの音を残し、どこへ余白を置き、何を加えずに終えるか。その小さな判断の積み重ねが、一曲の輪郭になります。
次の休日には、手持ちの端末で使える無料の制作ソフトを一つだけ開いてみてください。ピアノ音を選び、四つの音を並べ、30秒の作品として書き出すところまで進めれば、作曲の最初の一周を経験できます。
一音目が立派である必要はありません。
その音を二音目へつなぎ、最後まで残しておくことから、自分だけの音楽が始まります。
休日のよりみち帖では、気軽に試せるものから、少しずつ時間をかけて深めていくものまで、さまざまな趣味やレジャーを紹介しています。「次の休日は何をしよう」と迷ったとき、新しい楽しみを見つける小さなきっかけになれたらうれしいです。これからも思わず試してみたくなる趣味を丁寧に紹介していきますので、ぜひフォローして、次の記事も覗いてみてください。
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