リトグラフの楽しみ方
はじめに
版の上へ、やわらかなクレヨンで一本の線を引く。鉛筆で紙へ描くときに近い、ごく自然な手の動きです。
その版を湿らせ、ローラーでインクを重ね、紙と一緒にプレス機へ通す。刷り上がった紙を持ち上げると、版の上に描いた線が左右を反転しながら、濃淡やかすれまで含んだ一枚の絵として現れます。
リトグラフは「石版画」とも呼ばれる版画技法です。木版画のように板を彫るのでも、銅版画のように溝へインクを詰めるのでもなく、水と油が反発する性質を使い、平らな版面の中にインクが付く場所と付かない場所をつくります。
「自宅で気軽に始められるのだろうか」「大きな石やプレス機が必要なのではないか」「薬品を扱うのは少し不安」と感じる人もいるでしょう。本式の石版や金属版を使ったリトグラフには、専用設備と工程の知識が必要です。最初から自宅へすべての道具をそろえるより、版画工房や美術館の体験講座で一度制作し、自宅では下絵や小さな試作を続ける方法が現実的です。
描くことと刷ることの間に、版をつくる工程がある。そこへ水、油、圧力が加わり、同じ絵が複数の紙へ少しずつ違う表情で現れる。リトグラフには、絵を描くだけでは出会えない、間接的な表現の面白さがあります。
リトグラフとは
リトグラフは、版画の中では「平版」と呼ばれる種類に入ります。版の表面を大きく彫ったり削ったりせず、化学的な処理によって、油性インクを引き付ける描画部分と、水を保ってインクをはじく部分を分けます。
伝統的な版材には、表面を平らに磨いた石灰石が使われます。現在は石だけでなく、アルミ板、ジンク板、感光性の版、ポリエステル版なども利用され、描き方や設備に合わせて技法が広がっています。
版面には、リトグラフ用のクレヨンや鉛筆、油性の描画液などを使って絵を描きます。筆圧の強い線、粉を含んだざらざらした調子、筆で広げた墨のような面など、紙へ描くときに近い感覚を残せるのが特徴です。
描画を終えた版は、描いた部分と描かなかった部分の性質を分ける処理を行います。印刷するときは版を湿らせた状態に保ち、ローラーで油性インクを重ねます。水を含む場所はインクをはじき、描画した場所へだけインクが残るため、その状態で紙を重ね、プレス機で圧力をかけて刷ります。
一枚の版から複数枚を刷れるのも版画らしいところです。ただし、手作業で水分、インク、圧力を調整するため、同じ版を使っても一枚ずつ濃さやかすれが少し異なります。完全に同じものを機械的に増やすのではなく、同じイメージを何度も確かめながら整えていく表現です。
リトグラフの基本情報
主な楽しみ方 石版、金属版、ポリエステル版などへ絵を描き、製版と刷りを通して複数の作品をつくる
おすすめの頻度 工房での制作を月1〜2回、自宅での下絵や小さな試作を月2回ほど
自宅で取り組む時間 約35〜110分
工房で制作する時間 一回3〜6時間ほど。石版の研磨や多色刷りでは複数日に分ける
主な場所 版画工房、美術館や美術大学の制作室、自宅の作業机
初心者の入口 一日体験講座、数回の基礎講座、ポリエステル版や簡易リトグラフのワークショップ
自宅で進めやすい工程 下絵、構図、左右反転の確認、色分け、版下づくり、小型版の試作、作品整理
本式のリトグラフは、設備への依存が比較的大きな趣味です。特に石版やアルミ版を安定して刷るには、版の大きさに合うプレス機、インクを練る場所、水を扱う場所、版やローラーを洗浄する設備が必要になります。
一方、作品の構想や下絵づくりは自宅でゆっくり進められます。工房へ行く日は製版と刷りへ集中し、自宅では次の版に描きたい線や色を考える。二つの場所を行き来することで、限られた工房時間も使いやすくなります。
リトグラフにかかる費用
リトグラフの費用は、自宅で画材だけを購入する趣味とは少し違います。版材、インク、紙に加え、専用設備を使うための講座代や工房利用料を考える必要があります。
初回体験の費用
美術館や公共施設が開く一日教室では、材料費を含めて4,000円前後から参加できる例があります。数時間かけてアルミ版へ描画し、製版、インクの盛り方、プレス機での刷りまでを一通り体験します。
複数回の講座では、全5回で15,000円ほどなど、一回あたり数千円で基礎工程を学べるものがあります。版を一枚仕上げるまでの変化を追いやすく、一日体験よりも線や濃淡を調整する時間を取れます。
石版を磨くところから学ぶ専門的な講座では、数万円以上になる場合もあります。石版の使用料、専用材料、長時間の指導が含まれるため、最初の入口というより、アルミ版や簡易版を体験したあとに選ぶ内容です。
自宅で下絵や試作をする費用
鉛筆、黒いクレヨン、ペン、紙、トレーシングペーパーなど、下絵用の道具だけなら1,000〜3,000円ほどから始められます。普段使っている描画用品があれば、新たに購入するものはほとんどありません。
ポリエステル版や簡易リトグラフへ進む場合は、小型の版、ローラー、油性インク、紙、インクを練る板、清掃用品などをそろえます。小さな作品用に最小限を選ぶなら5,000〜20,000円ほどが一つの目安です。
ただし、使う版とインクの組み合わせ、刷る方法によって必要な道具が変わります。先に市販品を集めるのではなく、講座で使った技法や、指導者が案内する材料に合わせて購入するほうが失敗を減らせます。
工房を継続利用する費用
版画工房では、月謝制、回数券、時間制、講座制などが採用されています。利用料に指導、プレス機、基本的な薬品や清掃用品が含まれる場合もあれば、版材、紙、インクを別に購入する場合もあります。
料金を見るときは、次の範囲を確認します。
講座代に含まれるもの 版材、インク、試し刷り用紙、作品用紙、薬品、設備使用、講師の指導
別に必要なもの 追加の版、上質な紙、額装、保管ファイル、交通費、展示への参加費
継続条件 入会金、月会費、予約可能な時間、材料の持ち込み、休会や退会の扱い
月1回ほど工房を利用し、自宅で下絵を続ける場合、年間3万〜10万円ほどが一つの目安になります。大判作品、多色刷り、石版、展覧会への出品へ広げると、版材と紙の費用が増えます。
最初から自宅用プレス機を買わなくてよい
リトグラフ用のプレス機は、置き場所、重量、版の大きさ、安全な操作、床の強度まで考える設備です。購入費だけでなく、搬入、設置、保守も必要になるため、初心者の初期費用へ含めるものではありません。
工房で何枚か制作し、使いたい版材や作品の大きさが固まってから、共有工房を続けるか、小型の印刷方法を選ぶかを考えます。大きな設備を持たず、制作日は工房へ通うことも、リトグラフを長く楽しむ自然な形です。
リトグラフをおすすめする3つの理由
1.紙へ描いたような線が、版画として現れる
木版画では、彫り残した場所が形になります。銅版画では、針や腐食でつくった溝が線になります。リトグラフでは、版面へクレヨンや筆を直接動かし、その描き跡を利用して刷るため、手の速さや筆圧が作品へ残りやすくなります。
軽く引いた線は淡く、強く重ねたところは深くなる。クレヨンの粒が版面へ触れた部分には、紙へ描いたときに近いざらつきが現れます。鉛筆画や木炭画のような濃淡を、版画として複数の紙へ写せるところが大きな魅力です。
筆を使った描画では、広い面、にじみ、飛沫、かすれも取り入れられます。版画でありながら、線を彫る技法とは違う、絵画的な動きを残せます。
2.版の上と、紙へ刷ったあとでは見え方が変わる
版面に描いているあいだ、完成した作品はまだ直接見えていません。刷ると左右が反転し、インクの黒さと紙の白さがはっきり分かれ、版上では目立たなかった線が急に現れることがあります。
最初の試し刷りを見ると、淡すぎた場所、黒くつぶれた場所、残したいかすれが見えてきます。版へ戻り、少し調整して二枚目を刷る。その往復によって、描いた絵を別の角度から見直せます。
思いどおりに再現することだけが正解ではありません。インクがわずかに薄くなった場所や、ローラーの動きによって生まれた調子を見て、次の一枚ではその偶然を意識的に残すこともできます。
3.同じイメージを、色や紙で展開できる
一枚の版ができると、同じ図柄を複数枚刷れます。黒一色で線の強さを見たあと、青や茶色へ変えるだけでも、作品の時間帯や温度が変わって見えます。
白い紙、少し黄みのある紙、ざらついた紙など、紙の色と表面も仕上がりに影響します。同じ版を使いながら数枚を比べることで、自分の線に合うインクと紙の組み合わせが分かってきます。
多色刷りでは、色ごとに版を分け、位置を合わせながら重ねます。色が少しずれた部分を失敗として直すだけでなく、輪郭の外へ色がにじみ出したような効果として生かすこともできます。
本式の石版と、自宅で試せる方法の違い
「リトグラフ」と呼ばれる方法には、使用する版材や設備によっていくつかの入口があります。それぞれの特徴を知り、同じものだと考えずに選ぶことが大切です。
石版リトグラフ
石灰石を版材に使う伝統的な方法です。石の表面を平らに研磨し、専用のクレヨンや描画液で描き、製版処理を行ってから刷ります。
石版は重く、研磨、保管、運搬にも設備が必要です。描画の幅は広いものの、自宅で独学する技法というより、専門の版画工房で指導を受けながら取り組む方法です。
アルミ版リトグラフ
石の代わりに、表面を処理したアルミ板を使います。石より薄くて扱いやすく、公共施設の体験教室でも使われています。
版面へ直接描く感覚と、水と油を利用する基本的な仕組みを体験できるため、初心者が本式のリトグラフへ触れる入口に向いています。製版と刷りには専門材料やプレス機を使うため、最初は工房で学びます。
ポリエステル版リトグラフ
薄いポリエステル製の版へ描画し、平版の原理で刷る方法です。石や金属版に比べて軽く、工程の一部を簡略化しやすいため、教育や小型作品にも使われます。
ボールペンやレーザープリンターを利用できる方式もあり、手描きと写真、文字を組み合わせやすいのが特徴です。ただし、版の種類によって対応する描画材や出力方法が異なるため、購入前に仕様を確認します。
安定した刷りにはプレス機を使うことが多く、完全に設備不要というわけではありません。自宅では版下をつくり、工房で刷るという分け方もできます。
キッチンリトグラフなどの簡易技法
アルミホイルなどの身近な素材を版として使い、リトグラフの原理を簡単に体験する方法があります。短時間で試しやすく、水と油によってインクの付く場所が分かれる面白さを知る入口になります。
ただし、伝統的な石版リトグラフと同じ精度や耐久性を持つ方法ではありません。使用する油性インクや清掃用品は食器や調理器具と共用せず、料理をする台とは分けた作業面を用意します。
身近な材料を使うという言葉だけで、安全や片付けまで簡単になるわけではありません。最初は講座や信頼できる教材で工程を確認し、小さな版から試します。
初回は工房の一日教室から始める
初めてのリトグラフでは、版画美術館、公共のアトリエ、民間の版画工房などが開く初心者向け講座を探します。「リトグラフ一日教室」「アルミ版リトグラフ」「平版画体験」といった名前で案内されることがあります。
申し込む前に、次の内容を確認します。
使用する版材 石版、アルミ版、ポリエステル版のどれか
制作する作品 単色刷りか、多色刷りか。作品の大きさはどれくらいか
講座時間 一日で完成するか、複数回に分けるか
料金に含まれるもの 版材、インク、紙、設備使用料
持参するもの 下絵、エプロン、筆記具、手袋、昼食など
対象年齢と経験 初めてでも参加できるか、基礎経験が必要か
安全上の条件 服装、履物、換気、使用する薬品、アレルギーや体調について相談できるか
最初から細かな絵を用意すると、描画だけで時間を使い切ってしまいます。はがきからA5ほどの小さな画面を想定し、人物の横顔、植物、カップ、街の一角など、明るい場所と暗い場所を分けやすい下絵を選びます。
文字や向きのある図柄は、直接刷ると左右が反転します。下絵をスマートフォンで反転表示して確認したり、トレーシングペーパーの裏から見たりすると、完成後の方向を想像しやすくなります。
初めての一日の流れ
講座によって工程は異なりますが、アルミ版を使った単色刷りでは、下絵、描画、製版、インクの準備、試し刷り、本刷りという順に進むことが一般的です。
1.下絵を小さく整理する
最初に、描きたい形を紙へまとめます。写真をそのまま細密に写すより、主役となる輪郭と、最も暗くしたい場所を決めます。
リトグラフでは淡い線も刷れますが、初回は線が少なすぎると、版上でどこまで描けたか判断しにくくなります。輪郭、広い影、細かな調子の三つほどに分けると整理しやすくなります。
2.版面へ描く
版面の状態を確認し、講師の指示に従ってクレヨン、鉛筆、描画液などを使います。手の脂や汚れが版へ付くと、意図しない場所へインクが付く原因になるため、描画部分以外へむやみに触れません。
クレヨンを強く押し付けるだけでなく、軽く横へ動かして粒を残したり、短い線を重ねたりします。紙へ描く感覚に近い一方、あとから消しゴムで簡単に戻せるわけではないため、薄い調子から進めます。
3.製版処理をする
描き終えた版は、描画部分へインクが付き、周囲が水を保つように処理します。この工程では専用の薬品や材料を使うことがあるため、初心者が自己判断で濃度や手順を変えません。
講師が行う作業もよく見ておきます。どのくらい乾燥させるのか、版面をどの状態に保つのかが、次の刷りへつながります。
4.版を湿らせ、インクをのせる
刷るときは、版面の水分を保ちながらローラーを動かします。水が多すぎても、乾きすぎても、インクの付き方が不安定になります。
最初の数回は、ローラーを強く押し込むより、一定の速さと方向で版面を通します。インクを一度に厚く盛らず、薄い層を何度か重ねることで、描画部分が少しずつ立ち上がります。
5.プレス機で試し刷りをする
版へ紙を重ね、位置を確認してプレス機へ通します。プレス機のローラーや圧力部分には手を近づけず、操作は講師や工房の指示に従います。
紙を持ち上げると、最初の試し刷りが現れます。線の濃さ、広い面、汚れ、紙の位置を確認し、必要に応じて版の調整やインクの盛り直しを行います。
6.本刷りを残す
状態が整ったら、作品用の紙へ何枚か刷ります。同じ版でも、インクの量、水分、圧力によって違いが出るため、一枚ずつ番号や順番をメモしておきます。
刷り終えた紙は、重ねてこすらず、指定された場所で乾かします。版、ローラー、インク台の片付けまでが、その日の制作です。
自宅では下絵と「線の見本帳」をつくる
工房へ行かない日も、リトグラフの準備は進められます。自宅では小さな紙を区切り、線と濃淡の見本をつくります。
細い線、太い線、短い線、点、網のように重ねた線、クレヨンを寝かせた広い面。描き方を変えながら、次の版で使いたい調子を探します。
一度工房で制作したあとは、試し刷りと自宅の線見本を並べます。紙へ描いた線が版画ではどのように変わったかを見ると、次の描画で強くする場所や、薄く残す場所が分かります。
35分ほどの日は、下絵を一つ反転させる、白黒へ整理する、色ごとの版下を分けるなど、工程を一つだけ進めます。毎回作品を完成させなくても、次の工房制作へつながる準備になります。
多色刷りは、色を分けて考える
一色刷りに慣れたら、二色の作品へ進めます。多色刷りでは、完成図をそのまま一枚の版へ描くのではなく、どの部分を一色目にし、どこを二色目にするかを分けて考えます。
たとえば、植物の茎と輪郭を黒、葉の面を緑にする。夕方の建物を濃い青、空を薄い黄にする。色が重なる場所では、新しい色が生まれることも考えます。
複数の版を使う場合は、紙を毎回同じ場所へ置く「見当」が必要です。数ミリのずれでも輪郭の印象が変わるため、版と紙の基準位置を決め、試し刷りで確認します。
最初から四色、五色へ増やすと、製版と位置合わせが複雑になります。二色で重なりを経験し、次に必要な色が見えてから版を増やします。
試し刷りと本刷りを分けて残す
制作途中に刷った紙は、完成品ではないからと捨てる必要はありません。最初の薄い一枚、インクを増やした一枚、版を調整したあとの一枚を順番に並べると、作品が整う過程が見えます。
試し刷りには、日付、インク、紙、調整した場所を鉛筆で書いておきます。「水分が多かった」「線を少し強くした」「二回目のローラーで面が出た」と短く残すだけでも、次回の手がかりになります。
同じ状態で刷る本刷りの枚数を決めた場合は、作品の余白へ番号を入れることがあります。「3/10」であれば、同じ版から刷った十枚のうち三番目という意味です。
試し刷りや作家保存分には、別の記号を使うこともあります。番号や署名には工房ごとの考え方もあるため、初めて販売や展示をするときは、講師に一般的な記載方法を確認します。
安全に制作するために
本式のリトグラフでは、酸性の処理剤、油性インク、有機溶剤などを使う工程があります。初心者が材料名だけを見て代用品を混ぜたり、濃度を自己判断で変えたりせず、製品表示と工房の手順に従います。
作業中は飲食をせず、薬品やインクを食品用の容器へ移しません。必要な手袋、保護眼鏡、エプロンは、使用する材料に合うものを選びます。手袋をしていても、顔、スマートフォン、ドアノブへ触れる前には外します。
溶剤や油性インクを扱う場所では換気し、火気を近づけません。においが強い、目や喉に刺激を感じる、頭痛や気分の悪さが出た場合は、作業を止めて新鮮な空気の場所へ移動し、工房スタッフへ伝えます。
余った薬品、インク、洗浄液を家庭の流しへ捨ててよいとは限りません。工房では指定された廃液容器や清掃方法を使い、自宅で簡易技法を行う場合も、使用製品の廃棄表示を確認します。
インクや溶剤を含んだ布や紙は、通常のごみと同じように机へ積み重ねず、工房が指定する容器へ入れます。作業後は版だけでなく、ローラー、インク台、机、床への付着も確認します。
石版は非常に重く、一人で持ち上げたり、不安定な机へ置いたりすると危険です。運搬や研磨は、設備の整った場所で指導者と一緒に行います。手を挟みやすい位置、石を置く向き、持ち上げる人数も工房の決まりを優先します。
プレス機には、ローラー、版、台の間に手を入れないための操作手順があります。紙がずれたときも動作中に直そうとせず、完全に止めてから確認します。
長時間版面をのぞき込むと、首、肩、腰、手首へ負担がかかります。30分ほどで一度姿勢を変え、描画台の高さを調整します。細かな線へ集中しているときほど、手と目を休ませる時間を入れます。
自宅では、子どもやペットが版、インク、ローラーへ触れない場所を確保します。制作用品は調理用品と分け、使用後はふたの閉まる箱へまとめます。
続けるほど変わる五つの楽しみ方
第1段階 一色の版を一枚刷る
初心者向け講座で、小さなアルミ版や簡易版へ絵を描きます。製版、インク、プレスという流れを経験し、最初の試し刷りを紙から持ち上げます。
描いた線が左右を反転し、インクの黒へ変わった瞬間を見ることが、最初の楽しみです。完成度より、版を通して絵が現れる仕組みを確かめます。
第2段階 線と濃淡を安定して刷る
クレヨンの筆圧、描画液の量、ローラーの動かし方を少しずつ整えます。同じ版を何枚か刷り、前の一枚に近い濃さを再現できるか試します。
濃くしたい場所へインクを増やすだけでなく、水分や版の状態も見るようになります。描く技術と刷る技術が別々にあることが分かってきます。
第3段階 紙、インク、版材を選ぶ
黒一色だけでなく、青、茶、深い緑などへインクを変えます。紙の白さ、厚さ、表面のなめらかさも比べ、自分の線が見えやすい組み合わせを探します。
石版のやわらかな調子、アルミ版の扱いやすさ、ポリエステル版の軽さなど、版材ごとの違いにも目が向きます。表現したいものに合わせて技法を選ぶ段階です。
第4段階 二色刷りと連作へ広げる
色ごとに版を分け、紙の位置を合わせながら重ねます。ぴたりと重ねる作品だけでなく、少しずれた色を動きとして残すこともできます。
同じ人物、植物、街の風景など、一つのテーマで複数の版をつくると、作品同士のつながりが生まれます。一枚を完成させる楽しさから、数枚で一つの世界をつくる楽しさへ広がります。
第5段階 刷りの記録を人へ届ける
作品が増えたら、展示、小冊子、ポートフォリオなどへまとめます。版画は複数枚をつくれるため、一枚を手元へ残しながら、別の一枚を贈ったり、交換したりできます。
販売する場合は、版の種類、制作年、刷った枚数、使用した紙などを記録します。教室の作品展へ参加したり、初めての人へ試し刷りの変化を伝えたりすることも、版画文化を次へつなぐ楽しみ方です。
五つの段階は、上手さの順位ではありません。一色刷りへ戻る、下絵だけを描く時期をつくる、同じ版を別の紙へ刷り直すなど、好きな工程を行き来しながら続けられます。
あわせて楽しみたい関連する趣味
木版画
木版画は、版木の残した部分へ絵の具を付け、紙へ刷る凸版画です。リトグラフとは版の仕組みが異なりますが、下絵を反転させること、試し刷りを見て版を整えること、同じ図柄を複数枚へ展開する楽しさがつながります。
ペン画
ペン画は、線や点の密度を変えながら、白黒の画面を組み立てる表現です。リトグラフ用の下絵を考えるときにも、どの線を残し、どの場所を紙の白として空けるかを整理する練習になります。
シルクスクリーン
シルクスクリーンは、細かな網目の一部をふさぎ、開いている場所からインクを押し出して刷る版画です。リトグラフの繊細な線とは違い、均一な色面や鮮やかな配色をつくりやすく、同じ図柄を紙、布、小物へ展開する楽しさがあります。
版を離れた線が、紙の上で初めて作品になる
リトグラフでは、版面へ絵を描き終えた時点でも、作品はまだ完成していません。水を保ち、インクを重ね、紙を置き、プレス機を通して、ようやく描いた線が版から離れます。
紙を持ち上げたとき、淡いと思っていた線が残っていたり、予定していなかった粒やかすれが現れたりします。その一枚を見て版へ戻り、もう一度ローラーを動かす。描画と印刷を往復する時間が、リトグラフの表情を少しずつ育てます。
次の休日には、自宅へ大きな設備をそろえるのではなく、初心者向けの一日講座を一つ探してみましょう。参加日が先なら、はがきほどの紙へ黒一色の下絵を描き、鏡やスマートフォンで左右を反転させて眺めてみます。
一本の線が版を通り、少し違う姿で紙へ戻ってくる。その変化を自分の手で確かめたとき、普段の描画とは違う、新しい一枚の始まりが見えてきます。
休日のよりみち帖では、気軽に試せるものから、少しずつ時間をかけて深めていくものまで、さまざまな趣味やレジャーを紹介しています。「次の休日は何をしよう」と迷ったとき、新しい楽しみを見つける小さなきっかけになれたらうれしいです。これからも思わず試してみたくなる趣味を丁寧に紹介していきますので、ぜひフォローして、次の記事も覗いてみてください。
ほかの趣味やレジャーも探してみたい方は、こちらの一覧から気になるものを覗いてみてください。
記事作成に使用している元情報や、データの整理方針についてはこちらで紹介しています。
https://note.com/hearty_hippo7250/n/n8e215003b6d
