情と理の狭間で。恩人である管理者を解雇した、経営者として最も苦い決断
【前回までのあらすじ】
「虐待認定」という最悪の事態。
私は「体裁を整えて逃げる」のではなく「全てを根本から洗い直す」という茨の道を選びました。
収益性を捨てて「20名定員」への切り替えを断行し、第三者を招いた委員会を設立。
しかし、現場では「経営」と「理想」の溝が深まり、組織の立て直しは一筋縄ではいきませんでした。
今回は、私が会社のために管理者に、決別を告げた時の記録です。
福祉と経営のあいだに
虐待認定後、私は組織の再生のために、働きやすさと支援の質を重視した現場運営へと舵を切りました。
しかし、私が運営する「児童発達支援」は、センター需要が極めて大きく、常に利用者数が少ない状態が続いていました。
10名定員に対し、平均利用者数は5名。運営としては赤字が常態化している状態です。
そんな中、私はある管理者に全権を委ねていました。
しかし、その管理者から出される言葉は、経営者である私にとって重いものでした。
「現場が足りない」 「職員育成ができていない」
当初は「私の前の職員の質が悪すぎる。数で補う必要がある」という言葉を信じ、人件費をかけて職員を補充し続けました。
しかし、1年経っても状況は変わりません。それどころか「安全確保のため」「みんな忙しい」「療育の中に売上の話を持ち出すな」と、経営の現実から目を背ける言葉が繰り返されるようになりました。
その人は、他社でボランティアを行うような高い志を持つ人物でした。しかし、福祉を純粋な「ボランティア」だと信じるその姿勢は、企業として存続させなければならない私の立場とは、決定的なズレを生んでいたのです。
恩人との別れ、そして「解雇」という決断
毎月の面談で現状の金額を提示し、児発の赤字補填の構造を伝え、何度も対話を試みました。しかし、溝は埋まりません。
会社立ち上げ時に火中の栗を拾ってくれ、ロゴまで作ってくれた大切な恩人です。できる限り続けてほしかった。
しかし、会社を守るためには看過できる限界を超えていました。
毎月の面談において「言った・言わない」の不毛な争いを避けるため、改善を求める内容や指示を全て議事録として残しました。
その都度、本人にも内容を確認させ、精査を繰り返すという徹底したプロセスをとりました。
社労士とも相談を重ね、法的に順当なプロセスを踏んだ上で、最終的に「解雇」を言い渡す決断を下しました。
普段のうちの会社は、職員が言いたいことを言い合える風通しの良さがあり、どちらかと言えば職員の方が立場が強いと感じる瞬間さえありました。
しかし、いざ法的な解雇の局面となれば、立場は逆転し、会社側が圧倒的な力を持つことになります。
「会社側が圧倒的に強い」とされているこの国の労基の仕組みの中で、いざ自分がその権力を行使する側として動くとき、その重みに押しつぶされそうになりました。
やはり労基法というセーフティネットは、経営者にとっても、働く側にとっても、避けては通れない必要な規律なのだと痛感しました。
ストレスが身体を蝕むとき
解雇を申し伝えようとしていた時期、私の心身は限界を迎えていました。
ストレスから目に水が溜まり、視野が極端に狭くなったのです。
キラキラと視界が霞み、文字を読むことすら困難でした。虫眼鏡を覗き込み、わずかに見える焦点だけで必死に書類を確認する日々。
手術は日帰りでしたが、術後は蛍光灯の光さえも禁じられ、真夏の暗闇の中で3日間を過ごすことになりました。
「目が見えなくなった」という事実は、物理的な障害であると同時に、それまで抱いていた「福祉に対する甘い幻想」を強制的に遮断され、経営の冷徹な現実を直視せざるを得なくなった瞬間だったのかもしれません。
経営者という孤独
解雇の話し合いは、私の人生で最もつらく、申し訳ない出来事でした。
ただ、不思議なことに、後にその方は他社で働きながら、当時の私の経営判断にある一定の理解を示してくれるようになりました。
今では管理者ではありませんが、パートとして勤務してくれることもあります。かつてのような対立はなく、話し合いに応じ、指示を聞いてくれる関係に戻っています。
経営者とは、誰からも理解されず、恩すらも自ら切り捨てなければならない瞬間がある。
あの泥沼のような日々は、二度と味わいたくない体験です。
しかし、この苦い決断と、身体が震えるほどのストレスを経て、私はようやく「会社を守るための経営者」へと形を変えることができたのだと思います。
すべての始まり
私が慢心し、すべてを破壊するきっかけとなった「あの頃」については、以下の記事に綴っています。
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