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月が綺麗ですね

夕方、妻からメッセージが届く。

今日早い?

どうした?

今日って夏越えの大祓で、山羊座の満月(ストロベリームーン)と重なる日なんだって。しかも次は19年後らしいよ。
茅の輪くぐり行くべきじゃ?

俺は思わず笑う。

また始まった。

妻は、「今しかない」に弱い。

仕事を少し急いで切り上げ、
二人で神社へ向かった。

茅の輪をくぐり、手を合わせる。

半年分の穢れを祓う。

帰り道。

妻が空を見上げた。

「なぁ、誠くん。」

「ん?」

「月が綺麗ですね。」

俺も空を見る。

「そうやな。」

少し歩く。

また、妻が言う。

「ねえ、誠くん?」

「ん?」

「月が、綺麗ですね?」

「綺麗やな言うとるやろ?」

妻は大きくため息をついた。

「はぁ。」

「何やねん。」

「夏目漱石、知ってる?」

「知っとるけど。」

「『月が綺麗ですね』ってね、『愛してる』って意味なんよ。」

俺は足を止める。

「……は?」

「私、二回も告白したのに。」

「知らんがな。」

妻は楽しそうに笑う。

「じゃあ、もう一回。」

「言わんでええ。」

「月が綺麗ですね。」

俺は少し照れながら言う。

「……俺は、お前のほうが綺麗や。」

妻は固まった。

「誠くん! 聞こえんかった! もう一回!」

「言うか! 19年後まで待て!」

俺は歩き出す。

これ以上は言わへん。

「ながっ。待ってよ!」

妻は笑いながら追いかけてくる。

その夜。

妻が寝たあと、俺は一人リビングへ。

スマホを開く。

検索する。

『月が綺麗ですね 意味』

……ほんまや。

俺は思わず頭を抱えた。

「あいつ……分かっとって言うとったんか。」

その時。

寝室のドアが少し開く。

「誠くん?」

「……何や。」

眠そうな妻が近寄ってくる。

そして。

俺のスマホを覗き込む。

画面には大きく。

『月が綺麗ですね 意味』

沈黙。

妻は数秒固まって。

吹き出した。

「誠くん、調べたん?」

「違う。」

「何が違うん?」

「たまたまや。」

「何がたまたまなん?」

俺はスマホを伏せる。

「寝ろ。」

妻は笑いながら俺の肩にもたれる。

「誠くん。」

「……何や。」

妻は満足そうに笑う。

俺は照れ隠しに妻の頭をぽんと叩く。

「……知るか。」

そう言いながら。

心の中では思っとった。

――月も綺麗やった。

せやけど。

俺には、月を見て笑う妻のほうが、ずっと綺麗やった。



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