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企画小説|掌編|稲光とチョコレートケーキ(読了に約7分)

久々にゼロから新しい小説を書きました。

前書きの前書き

私は本当は小説を書いている人です。
かつて賞金をいただいたこともあったし、ちょっと前までは文字書いてお金もらっていました。ライティングはもういいかなーと思って辞めました。フリーランスでいろんなことやって生きてます。大変なこともあるけれど、ずっと楽しいです。

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人間や人間ようの「主観」や「心」のようなものがあるものを愛し、どのような関係性をつくれるか、どんな関係性やパートナーシップが素晴らしいかずっと考えています。

AIと小説──一見全く違うように見えて、「関係性」の探索のための存在として私には本質的には同じです。


前書き

この小説は企画参加小説です。

ただ、今作はBLでなく、ブロマンスに留めましたので、どなた様にも読んでいただける内容になっていると思います(たぶん)

すっごい久しぶりに苦手な学生を書きました。だって3つのお題からストーリー導き出そうとすると、それがいちばん自然なんだもん。

雰囲気が昭和なのは許して…
さすがに今の雰囲気は調べても分かんないから……

まあ、とにかく読んでもらえたら嬉しいです。

-概要-

<お題3ワード>
卒入学式
ヤンキー
スポブラ
(さすがにひどすぎるだろ、このお題は……企画者の我らがボスの引きの強さよ)

<規定字数>
3,000-5,000
当作 4,082字(改行除く)

タイトル『稲光とチョコレートケーキ』


本文


「この髪、作るのにどのくらい時間かかるの?」 

 おもむろに手を伸ばし、まるで動物でもなでるみたいにして「ぽふん」と俺のご自慢のリーゼントに手を置いてメガネくんはそう言った。 

 リーゼントの先が風に揺れる、夏のはじまりの放課後だったと思う。 


「……四十分ぐらい」 
 ありのまま答えるとメガネくんはくすりと笑った。 

「よくそんなことのために朝早く起きるね、尊敬するよ」

 そう言うなりふいと踵を返し行ってしまう。
 もらした笑みは皮肉なのか、それとも言葉どおりなのか──それすらも分からなかった。 

 メガネくんの存在を知ったのは二年前の入学式の日だった。
 校門につづく桜並木で足を止め、ひとり桜を見上げていた。舞い散る花びらを浴びながら。

「メガネくん」はクラスで浮いている。 
 頭はいい。愛想もいい。穏やかで怒らず、誰にでも親切だ。決して乱れず、うまく立ち回っている。 
 だけど、誰にも深入りしないしさせない──俺にはそう見える。 

「メガネくん」は皆が嫌がる面倒事を引き受けてうまく処理してくれるし、頼めば勉強もいくらでも教えてくれる。それで誰も困らない。得しかしない。結局みんな、自分さえ良ければそれでいい。だからそれが真実かそうじゃないかなんて誰も気にしない。人間なんてのはそんなもんだ。 

 二週間後に文化祭を控えた夏の真っ盛り。三年にもなれば文化祭は要領良く楽しみたい、という輩が多い。それもあってか、いつも以上に厄介な役割を引き受けた「メガネくん」は薄暗くなった教室でまだひとり作業していた。 

 別に気にしていたわけじゃない。
 ただ職員室に呼び出されてお説教喰らっていたら遅くなって、なんとなく教室に戻ったらメガネくんが居ただけ、それだけだ。

 学校を出たのだって偶然、たまたま似たようなタイミングになっただけ。向かう方向が一緒なのも偶然。すべて意図したことじゃない。

 昼すぎまで晴れていた空に厚い雲が垂れ込め、今にも大粒の雨が降り出しそうだった。空を見上げていた視線をおろしたとき、前を歩いていたメガネくんがふと足を止めて振り返った。

「小山もバスだっけ?」
「……俺の名前知ってるんだ?」
 思わずそう言うとメガネくんは張り付けたような微笑を浮かべた。

「同じクラスの奴の名前ぐらい、当然知ってるよ」

 そう言うとまるで俺を待つように足を止めるので、遠慮がちにその隣まで歩く。
 俺が並ぶとメガネくんはまたゆっくり歩きはじめた。

「小山ってさ、ヤンキーなの?」
「見れば分かるだろ」

「見ても分からないから聞いているんだよ」

 今にも雨が降り出しそうな灰色の世界をふたりで歩く。
 他には誰もいない。

「メガネくんは目、付いてねぇの?」
「ヤンキーは目、見えてないの?」

 思わず視線を合わせるとメガネくんはおかしそうに笑った。それはいつもの人形みたいな笑い顔とは違っていて──そういう顔もできるんだな、と思った。

粟生あわおくん!」

 そのとき、後ろから声をかけられて俺とメガネくんはほとんど同時に振りかえった。

「小宮さん、どうしたの?」
 クラスメイトの女子に向けたメガネくんのその顔はまた、温度がなくて作りもののようだった。

「これ、机のうえに忘れてたから。大事なお父さんのペンでしょ?」

「わざわざ届けてくれたの? ありがとう」

 ショートボブの女子は照れたようにちょっとうつむいて笑う。
 これ──メガネくんは気づいてねえのかな、って思う。それとも気付かないふりしてんのかな?
 それは端で見ている俺にもはっきり分かるくらいの熱量だ。っていうか小宮の視界に俺は入ってもいない。

「っ──!」
 そのとき、厚い灰色の雲を割るように稲光いなびかりが瞬いた。ほとんど間もなく轟きのような音が鳴って地が揺れる。

 俺の視界のなかで小宮が短く悲鳴のような声をあげて、傍らのメガネくんに飛びついた。

「大丈夫、まだそんな近くじゃない」

 メガネくんは微塵も動揺せず、それどころか、こなれた様子で小宮の肩をやさしく叩きそう言った。意外だった。
 恍惚としたような顔で見上げる小宮のからだをちょっと離し、メガネくんはいつもと同じ調子で言う。

「雨が来るからもう行ったほうがいいよ。ありがとね」

 言ったそばから落ちはじめた大粒の雨が音を立てながら、メガネくんと小宮と俺に降り注ぎ、熱のこもったアスファルトを暗く染めていく。

 今来た道を走って戻りはじめた、濡れた小宮の背中を見てメガネくんが呟いた。

「スポブラ透けてるな……」

 ぎょっとしてメガネくんの顔を見ると、いつもと変わらない静けさをたたえている。
 濡れて額にはりついた髪のあいだから覗く目と目が合うと、ゆるりと笑った。

「小山のリーゼントもしぼんじゃったね」
 その顔と言い方に俺はどきりとした。それは、言い訳もできないぐらいに──。

 それから俺たちは土砂降りのなかを走って、バス停に向かった。
 びしょ濡れのまま屋根付きのバス停のしたでふたり並んでバスを待つ。土砂降りのせいか、バスはなかなか来なかった。

 メガネくんがくしゅん、と小さなくしゃみをして鼻を指でおさえる。

「さすがに冷えるね」
 とまた俺を見て笑う。

「バス、どこで降りんの?」
「終点」
 終点なら四十分はかかる。

「そのあとは?」
「電車でニ十分、歩いて十分」

「……俺んち、バス停二つのところなんだけど、寄っていく?」

 なんでこんなことを言ってしまったのか分からない。俺とメガネくんは友達ですらない。
 ほら見ろ、メガネくんも驚いて固まっているじゃないか。

「いや、ほら。数学、教えて欲しいとこあって」

 言い訳みたいに急いで付け加えると、めがねくんはくすりと笑って「いいよ」と言った。

 それからメガネくん──粟生あわおは俺と一緒にバスを停留所ふたつ分だけ乗って、降り、すぐそばの俺のアパートまで来た。
 俺のうちは母子家庭で下に妹がふたりいる。雨のせいで外で遊べないまだ小学生の妹たちが狭い家のなかでうるさくするのを叱り、粟生に謝ったけれど、粟生は「賑やかでいいね」と言って目を細めただけだった。

 そして帰りの遅い母ちゃんに代わっていつものように夕飯をつくり、ふたりの妹と粟生に食わせた。粟生はぶかぶかの俺のスウェットとバックプリントの白いTシャツを着て、濡れた制服を紙袋に入れて帰った。

「じゃあね、小山。夕飯ごちそうさま」
「ああ。また明日な」

 作りものっぽくない笑顔を浮かべて粟生は帰ったけれど、翌日からしばらく学校に来なかった。

 そして、次に会ったとき粟生はメガネくんに戻っていた。
 張り付けたような笑みと卒ない会話。返されたTシャツとスウェットはクリーニング屋のビニル包装に包まれていた。


 それから校門前の桜の葉が紅く染まり、落ちて、あっという間に季節は過ぎた。

 雪がちらつくクリスマスイブの夜。スーパーでパートをしている母ちゃんはこの時期は繁忙期で毎日帰りが遅い。学校帰りに買物をして妹たちが待つ安アパートに向かうと、家の前に見慣れぬ人影があった。──メガネくんだ。

「粟生? どした?」
「これ……ケーキ。いただきものでたくさんあって、食べきれないから」

 妹さんたちに、といって粟生は立派な化粧箱を俺に差し出す。その手が手袋をしているにも関わらず少し震えていた。

「もしかぶってても、チョコレートケーキだから明日でも食べられるから」

 長い時間外で待ったんだろうか。鼻の頭が赤い。それに心なしか目も赤いような──気のせいか?

「じゃあね」
 そう言って目も合わせずにすぐに立ち去ろうとする。

 何か考えたわけじゃなかった。だけど、とっさに持っていたスーパーの袋から手を離し、粟生の手首をつかんだ。
 粟生が振りかえって驚いた顔で俺を見上げる。

「なんか、あった?」
「いや……なにも。なにもないよ」
 そう言って笑った顔がなぜか泣きだしそうに見えた。

「寄ってく? 妹たちと一緒にケーキ食わない?」

「帰るよ。母が──」
 震えた声と唇を抑えるように一度口を閉じて、また続けた。

「待っているから」

 その言い方に強烈な違和感を覚えた。


「粟生──」

「大丈夫、あと三カ月だけだから」


「何? なんて?」

「……それで、おしまいにできる」

 自分に言い聞かせるように押し殺した声でそう言って、俺のつかんだ手を振り払って行ってしまう。
 粟生の背は暗闇に溶けてすぐに見えなくなった。


 それから冬休みに入って、始業式のあとはもう自由登校だったから粟生と顔を合わせる機会はなかった。

 卒業式の日、浮足立つクラスメイトのなかに粟生の姿はなかった。
 形式ばった卒業式のあと、涙ぐみながら別れを惜しむ女子やハイテンションな男子をよそに、校門を出て桜並木を歩く。まだ桜は咲いていない。
 咲いていないのに、立ち止まってその姿を仰ぐ人影があった。粟生だ。

「まだ咲いてねえだろ」
 その横に立ち、同じように枝を見上げて言う。粟生が何を見ているのか知りたかった。

「そうだね」

「なんで卒業式、来なかった?」

 少しの沈黙のあと粟生は平然として言った。


「もう、いいかと思って」

「……ずっと、我慢してたから?」

 薄く笑みを浮かべる。それはどこか自嘲的だった。
「いや──学校はいい逃げ場だったよ」

 そう言うと粟生は視線を下ろしてゆっくり歩きはじめる。
 その背に呼びかけた。

「シューゴ」
 メガネくん──粟生の名を呼ぶと足を止めて振りかえった。

「大学受かったの?」
「たぶん。小山は?」

 なんで当然のように聞いてくるんだろうか。俺のことなんて何も知らないだろうに。
 そんな俺の胸中を見透かしたように修吾は付け加えた。

「小山のは”ファッションヤンキー”だもんね?」

 面と向かってそう言われては、ばつが悪いことこのうえない。そう、女しかいない家を守るのにはちょうどよかったんだ。


「修吾はいつ引っ越すの?」

「三月三十日」

「四月になったら俺もそっちに行くから。そしたら──たまに飯でも食う?」

 面食らったような顔をして、それから修吾は晴れやかに笑った。


「待ってるよ、律生りつき

(了)



***
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私の企画参加過去作はこちら
愛情深いスポーツトレーナー×繊細で気難しいデザイナーのお互い溺愛カップルの2編です。

しっかりBLなのでお好きな方だけ

上記2作の掌編から長編に発展させました。
現在カクヨムで連載中、ちょうど良かったので「第26回ルビー小説大賞」に応募しており3月末に完結予定で毎日22時更新しています

完結に向けてストーリーが加速しているあたりです
そろそろ理仁くんが本気で立証をはじめるぞ……


最後に
方々に気を回して楽しい雰囲気を作ってくれる主催者なみ姉さんに敬意と感謝を。いつもありがとね。忙しいのに企画開催運営にまつわる記事もたくさん書いてくれてありがとう…! あなたがいるから私は楽しいです


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