東京ヘボプラネッツ
プロ野球『東京ヘボプラネッツ』球団事務所。
監督室。
監督「ふと思ったんだがよお、コーチばっかり教えるのずるいよな」
コーチ「何ですか、急に。監督だってたまに教えることもあるでしょう」
監督「もっと教えたい。もっと教えさせろ。おまえばっかり教えてずるいんだよ」
コーチ「『監督はお飾り、コーチは実務』。これが『教え界』の不文律でしょう」
監督「理屈なんかどうだっていい。オレはおまえよりいっぱい教えたいんだよ。この前、例の選手を教えたら楽しかった。だからもっと教えたくなった。コーチ、オレにも『教え選手』を少し分けろ」
コーチ「『教え選手』は分けませんよ」
監督「うるせえ、いいからオレにもっと教えさせろ。さもないと嫌いになるぞ、おまえのこと」
コーチ「わがまま言わないでくださいよ。そういえば監督、試合中にサイン出すの、あれ面白そうじゃないですか」
監督「ダメだ。おまえにはやらせねえぞ」
コーチ「なら、お互いの線引きはしっかりしておきましょうよ」
監督「うるせえ、つべこべ言わず、オレに例の選手を教えさせろ。ぜったいオレが教えた方が伸びるぞ」
コーチ「いい加減にしてくださいよ。例の選手はわたしが責任を持って教えますから、監督は横から余計な教えを差し込まないでくださいよ」
監督「てめえこそいい加減にしろ。オレがこんなに教えたくてウズウズしてるってのに、教えさせねえなんてよ」
コーチ「ええ、教えさせません。特に例の選手はゼッタイに教えさせませんからね」
監督「コノヤロー、だいたいオレとおまえはキャラが被ってるから、前から虫が好かなかったんだ」
コーチ「ちょっと、これっぽっちも監督とわたしはキャラ被ってないでしょう、冗談じゃない」
監督「だまれ、てめえこのクソ。ちょっとでいいからオレに『教え選手』を分けろっつうんだよ」
コーチ「監督のことだから、わたしが一人でも『教え選手』を分けたら、調子に乗ってさらに『教え選手』を要求してくるでしょう」
監督「あたりめえだろ。オレはなあ、コーチ。いずれはおまえよりたくさん『教え選手』を集めるつもりなんだよ」
コーチ「まったく、困った人だ。だったら、こうしましょう」
監督「なんだってんだ?」
コーチ「ほら、甲子園で大活躍して我が球団がドラフト1位で獲得した、あの選手。肩の怪我で一軍二軍を行ったり来たりしてる、あの選手を教えさせますから、今度わたしに一試合サインを出させてくださいよ」
監督「やだねっ! あの選手はやだねっ! あの選手は教えるとすぐどっかが痛い痛い、言い出すから、やっだっねっつってんだっ!」
コーチ「では交渉決裂ですね。コーチとして、わたしはこれからもたくさん教えさせてもらいますよ」
監督「ふざけやがって、てめえのことはもう完全に嫌ったからな。覚えとけよ」
コーチ「おっと、すみません監督。これから『教え時間』なので失礼させていただきますね。
まったく『教え選手』がこうも多いと時間がいくら合っても足りませんよ」
監督「待てコノヤロー、ニヤついてんじゃねえ、俺にも見させろ」
コーチ「見るだけですからね。横からへんな教え声かけないでくださいよ」
監督「へんな教え声かけるに決まってんだろ、バカヤロー、てめえ」
コーチ「では、今日の試合は、わたしがサインを出しても?」
監督「出させるか、ボケっ。おまえなんか嫌いだっ!」
こうして、『東京ヘボプラネッツ』は今年もダントツ首位で突っ走るのだった。
(終)
