対人恐怖症営業マンテラダ
テラダ「ぼく、対人恐怖症なんですよね」
吉本「え?」
テラダ「なのに販売営業課に配属されちゃいましてね」
吉本「え?」
テラダ「ここでお会いしたのも何かのご縁です。うちと契約を結んでいただけませんか?」
吉本「……ひょっとして、オレに言ってる?」
テラダ「あなた以外に他に誰が?」
吉本「個室トイレでたまたま隣り合った、顔も知らないオレに?」
テラダ「個室トイレでたまたま隣り合った、顔も知らないあなたに」
吉本「アットランダムにもほどがありすぎるわ」
テラダ「差し支えなければ、お試し契約でいいですから」
吉本「いや、差し支えしかないわ」
テラダ「そのために松竹産業さんのトイレで必死に営業活動してるんですから」
吉本「場所の選択からしておかしいねん」
テラダ「対人恐怖症だからに決まってるでしょう」
吉本「強気な対人恐怖症やわ」
テラダ「これでも、トイレの敷居越しにあなたの目を想定して、しっかり目を見て話してるつもりなんです」
吉本「想定で目ぇ合わせられても怖いわ」
テラダ「あ、自己紹介がまだでしたね」
すっ……
吉本「ちょっと、床の隙間から名刺を滑り込まさんといて」
テラダ「……」
吉本「なんで黙るんですか」
テラダ「あなたの名刺が滑り込んでくるのを待ってるんです」
吉本「交換する流れになってへんやろ」
テラダ「そうですか」
吉本「引くのも早いな」
……
テラダ「実は……今日はわたしの誕生日なんです」
吉本「嘘くさいな」
テラダ「嘘ですけど」
吉本「やっぱりかい」
テラダ「契約一件という形で祝っていただければ、最高のバースデープレゼントになります」
吉本「だから誕生日って嘘なんやろ」
テラダ「でも毎日浮かれ気分ですよ」
吉本「毎日トイレでブラインド営業してる人の感想ちゃうやろ」
テラダ「毎日トイレでブラインド営業しながら浮かれ気分なんですよ」
吉本「どこに浮かれる要素あんねん」
吉本「だいたい、そんなんで契約なんか取れるんか?」
テラダ「契約は取るものじゃないんです」
吉本「ほな何なん?」
テラダ「滑り込んでくるものなんです」
吉本「もうええわっ!」
テラダ「では、ご検討のほどをよろしくお願いします」
ジャーーーーッ……
ガチャッ。
コツコツコツ……
(終)
