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サクッと読む名作と水彩画 夏目漱石の『こころ』明治の精神に殉死する

夏目漱石の『こころ』の中には、いくつかのテーマがあります。

Kに対して先生が発した「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と言う厳しい言葉や、後半に出て来る「明治の精神」です。
 
特に「明治の精神」は、この物語の究極のテーマがあるんじゃないかと思っています。
 
それは、明治天皇が崩御した新聞記事を読んだ、父親が、「ああ、ああ、天子様もとうとうおかくれになる。己(おれ)も…」と悲嘆に暮れ、その後、父親は毎日食いつくように新聞を読んでいましたが、
 
ある日、乃木大将が明治天皇の後を追ったと言う記事を読み、乃木大将の殉死を知った父親は「大変だ!大変だ!」と大騒ぎをして、自分も残り少ない寿命だから、せめて大将と同じ時に死にたかったと譫言(たわごと)を言います。
 
そしてそれが、先生の死に繋がっていくようになるのです。

明治の精神を生きて来た先生には、来るべく大正ロマンの時代は生きずらく、時代に飲み込まれるように自死へと進みます。
 
「明治の精神」とは、明治維新から明治天皇崩御までの45年間に、日本人の根底にあった「精神」で、急激な開国、それに伴う西洋列国からの、日本の植民地化を回避し、
 
見栄も外聞もなく、西洋の近代文明を取り入れ、と言うよりは猿真似しながら、不平等条約改正、そして金のない日本が日清・日露の戦争にも勝利し、曲がりなりにも、近代国家の体裁を整えたのが明治だったのです。
 
しかしその実態は、前近代的、封建的な明治天皇を置きながら、欧化政策を推進すると言う矛盾がありました。
 
「明治の精神」それ自体、一種の自己矛盾を内在させた「精神」で、それを最も典型的な形で体現したのが乃木大将の殉死でした。
 
明治天皇の大喪の礼を始める大砲が鳴り響くに併せて、乃木希典は自宅で夫人と共に割腹自殺を図ります。
 
それは侍の心境を持ったまま、天皇に向き合った現れだったのでしょう。

だから、夏目漱石も、森鴎外も、司馬遼太郎も殉死にスポットライトを当てて、作品いしたように思えてならないのです。


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