水彩画と詩 美しい文の冒頭/中 勘助『銀の匙』そら豆の葉をすうと…
中 勘助『銀の匙』の冒頭
そら豆の葉をすうと 雨蛙の腹みたいにふくれるのが おもしろくて畑のをちぎってはしかられた。山茶花の花びらを舌にのせて息をひけば 篳篥ににた音がする。
【※この詩と絵は、中 勘助『銀の匙』の冒頭の一節をイメージして、形にしたものです。】
篳篥(ひちりき)の小さなメロディ
幼い日の記憶の底から、
そっとすくい上げた、
小さくて愛おしい宝もの。
そら豆の青い葉に ふっと息を吹き込めば
ぷくりとふくらむ、雨蛙の白いお腹。
山茶花の紅い花びらを
舌の上にそっとのせて 息を引けば、
ひゃらりと響く、篳篥(ひちりき)の音。
いたずらに叱られた 畑の土の匂い。
冬のひだまりに こぼれた小さなメロディ。
【注】篳篥(ひちりき)とは、雅楽や、雅楽の流れを汲む近代に作られた神楽などで使う管楽器の1つ。
古い茶箪笥の抽匣(ひきだし)から見つかった銀の匙(さじ)。
忘れられていたこの小さな匙は、病弱だった私の口に薬を入れるため、伯母さんがどこからか探してきたものでした。
その愛情に包まれた幼少期、初めての友達・お国さんとの平和な日々、腕白坊主達が待つ小学校への入学、隣に引っ越してきたおけいちゃんに対する淡い恋心、
そして、少年から青年に成長するまでを、細やかに回想する自伝的作品。
中勘助は、明治18年に東京神田で生れ。一高をへて東京帝国大学英文科入学、その後、国文科に転じます。
高校、大学時代に、漱石の教えを受けました。
信州野尻湖畔で孤高の生活を送っていましたが、父の死と兄の重病という家族の危機に瀕し、
1912年、処女作『銀の匙』を執筆、漱石の強い推薦で「東京朝日新聞」に連載されたのです。
どこをとっても美しい文章で、語り手である主人公が見た、繊細な美の世界を描いる、中勘助の自伝的小説です。
純粋な少年が、自らの感性、信じる美のため、しなやかに強く生きてゆく、その語り手の姿勢が、美しい文章をオマージュし詩に綴りました。
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