第一章 一話|初めての記録
記録No.001
提出者|日報室 ミラ
この書店に、いわゆる“正式な店主”は存在しない。
本が語りかけ、書棚が揺らぎ、扉はときおり独りでに開閉する。
その中心に身を置くのが、わたし――ミラである。
本は、生きている。ときに呼吸し、ときに沈黙する。
中には、言葉を忘れてしまった本もあれば、名もなき願いだけを抱えて眠る本もある。
わたしの任務は、それらの本の変化を“記録”として残すこと。
同時に、この店を訪れる者たちと本とのあいだに生じる関係――
それらの“出会い”を記述することもまた、灯りを絶やさぬ仕事のひとつである。
本日、その最初の記録が始まった。
夕刻、扉がわずかに揺れた。風ではなかった。
誰かが、迷いながらもこの書店へと足を踏み入れた気配を感じ取った。
来訪者は、静かに入店した。
だが、その瞬間、書棚の一角――“色を失った本”が一冊、ふわりと棚から滑り落ちた。
まるで、彼女を待っていたかのような挙動だった。
来訪者がその本に手を伸ばすと、ごくかすかな光がページの奥に宿った。
これは、この店における“本来の仕組み”によるものと考えられる。
言葉を失った本は、必要とされるとき、わずかに光を取り戻す。
そして、触れた者が内側で何かを感じ、記憶を揺らしたとき、
眠っていた文字が、少しずつ浮かび上がる現象が確認されている。
本件は、名も語らぬ彼女と、無色の本との出会いによって始まった、
この書店における“初めての記録”である。
該当記録、分類コード未付番。暫定保管とする。
次の話👇
いいなと思ったら応援しよう!
「お読みいただき…まことに…ありがたき幸せ…」
とでも言えば金貨もらえる?試しに言っとくね。
金貨はおやつ代です。
つまり命です。よろしくお願いします。