社員の反発を乗り越え「私たちの会社」を創るための、コミュニケーションと制度設計のヒント:いまのたかの組織ラジオ#243より考察
今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。
今回は、第243回目「Our Companyになるために視座の違いを乗り越える」でした。
100人企業の大きな挑戦
今回、今野氏が提示したお話は、従業員100人規模のある企業の組織変革の事例です。この会社は、先代までは社長一人が意思決定を行うトップダウン型の経営スタイルでした。しかし、社長が交代し、「社員みんなで経営する会社にしたい」という強い思いから、組織のあり方を根本から見直す挑戦が始まりました。
100人という規模は、トップダウンでもなんとか経営が成り立つ一方で、社員一人ひとりの顔が見え、全員参加の経営を目指すにも適したサイズ感です。私自身も100人規模企業を支援しているので、よく理解できます。
新しいリーダーは、会社を「社長一人のもの」から、社員全員が当事者である「私たちの会社(Our Company)」へと生まれ変わらせることを決意したのです。この理想を実現するための具体的な第一歩が、今回の物語の中心となります。
理想への一歩が生んだ「想定内の反発」
「みんなの会社」というコンセプトは、言葉として聞けば多くの社員が賛成するでしょう。しかし、その理想を具体的な施策に落とし込んだ瞬間、事態は大きく動きます。会社が打ち出したのは、部門を超えた複数の「委員会」を設置し、社員が経営の一部を担う「全員経営参画」というアイデアでした。教育や人事といったテーマについて、専門部署だけでなく、現場の社員がアイデアを出し、審議に参加するのです。
この案は、正式決定の前に、意見交換の形で社員に提示されました。トップダウン文化からの脱却を目指す、丁寧なプロセスを踏んだつもりでした。しかし、社員たちから返ってきたのは、予想を上回る厳しい反応でした。「これだけ本業が忙しいのに、さらに経営の仕事までやれと言うのか」「委員会に参加したら給料は上がるのか」「本業で手一杯で、そんな余裕はない」。まさに総スカンとも言える状況だったといいます。
これまで「言われたことをやる」文化に慣れていた社員にとって、この提案は「仕事が増える」という負担としてしか映りませんでした。また、意見を求められているにもかかわらず、長年の慣習から「どうせ決まったことなのだろう」と受け止め、一方的に押し付けられたと感じた社員もいたようです。これは、変革の過程で避けては通れない、理想と現実の間に生じるギャップの典型例といえるでしょう。

対立の根源にある、経営と現場の「視座の違い」
なぜ、これほど強い反発が生まれたのでしょうか。その根本的な原因は、経営層と現場社員の「視座の違い」にあります。
経営層は、会社の5年後、10年後といった「未来」を見据えています。今回の委員会制度も、短期的な業務効率だけを考えれば非効率に見えるかもしれません。しかし、長期的に見れば、社員の成長、部門間連携の強化、そして何より社員一人ひとりが経営視点を持つ「Our Company」という未来の組織像を実現するために不可欠な投資だと考えています。
一方、現場の社員が見ているのは、目の前の「今」です。日々の業務、達成すべき目標、そして自分自身の生活。真面目に仕事に取り組んでいるからこそ、その日常に割り込んでくる新しいタスクは、純粋な「負担増」として認識されます。未来の理想を語られても、今の仕事が楽になるわけでも、すぐに給料が上がるわけでもない。この時間軸のズレが、「見えている景色の違い」を生み出し、両者の間に大きな溝を作ってしまったのです。
この対立は、どちらが正しいという問題ではありません。会社を良くしたいという思いは共通しているはずです。しかし、立っている場所が違うため、同じ提案が全く異なる意味を持って見えてしまう。この「景色の違い」を認識し、乗り越えようと努力することこそが、組織変革の鍵となります。
対話への回帰:委員会の「4つの狙い」を言語化する
強い反発に直面した経営層ですが、そこで諦めることはありませんでした。むしろ、この反応を「想定内」と捉え、一方的に進めるのではなく、もう一度原点に立ち返り、対話を通じて理解を深める道を選びます。
特に、社長の思いを現場に伝える役割を担う管理職と、改めて「なぜ委員会をやるのか」という目的を共有し、その狙いを分かりやすい言葉で再定義する作業を行いました。その結果、以下の4つのポイントに整理されました。
全社的コミュニケーションの活性化
部門の壁を越えて人が交わることで、これまでになかった連携や一体感が生まれる。個人の成長を促す「第二のエンジン」
本業が成長の「第一のエンジン」なら、委員会活動は、協働スキルや組織的思考力といった、ポータブルなスキルを磨く「第二のエンジン」になる。本業へのポジティブなフィードバック
一見無関係に見える活動から得られる知識や視点が、本業に新しい刺激やヒントをもたらす。例えば、営業担当者が経理の知識を学ぶことで、顧客である経営者とより深い話ができるようになり、信頼関係が向上する、といった具合です。「Our Company」の具現化
これこそが、誰かの会社ではなく「私たちの会社」を自分たちの手で創っていくための、具体的な第一歩なのだと示す。
これらの狙いを、言葉を尽くして丁寧に伝え直す。この地道な対話こそが、凍りついた現場の空気を溶かすために不可欠なプロセスでした。
未来の景色を見せる「ラボ文化」という希望
さらに、この対話ではもう一つ、重要な仕掛けが用意されました。それは、委員会活動の「その先」にある、より魅力的な未来の景色を見せることでした。それが「ラボ文化」というコンセプトです。
「ラボ文化」とは、部署や役職に関係なく、会社の課題に気づいた社員が、非公式かつ自律的にチーム(ラボ)を組み、解決策を考えて経営に提案するような文化を指します。
例えば、「社内の情報共有をもっとスムーズにできないか?」と考えた3人が、自発的に集まって議論し、具体的な改善案を練り上げる。そんな動きが、社内のあちこちで自然発生的に生まれる組織の姿です。
これは、会社から「やらされる」委員会とは一線を画します。自分の意思で、仲間と繋がり、会社をより良くしていく。まさに「Our Company」が理想的な形で機能している状態です。
この「ラボ文化」という未来像を提示したところ、ワークショップに参加していた管理職たちから、非常にポジティブな反応が得られました。「そこまで行きたいですね」「ラボ文化、いいですね」という声が上がったのです。彼らは、委員会の先にある希望の景色を見たことで、委員会の位置づけを「やらされ仕事」ではなく、「理想に至るためのステップ」として前向きに捉え直すことができたのです。
この事例は、変革には痛みが伴うものの、その痛みの先にある「手に入るもの」、つまり魅力的な未来の景色を具体的に共有することが、人々の心を動かし、困難を乗り越える力になることを教えてくるものです。

【人事視点】変革のリアルから学ぶ、次世代の組織開発
この「Our Company」を目指す企業の挑戦は、組織変革や人事制度改革に取り組む者にとって、非常に示唆に富む生きた教材です。理想論だけでは動かない組織のリアルな反応と、それに対する思慮深いアプローチから、私たちが学ぶべき点は数多く存在します。
「社員の反発」は、エンゲージメントの出発点である
まず、人事として心に刻むべきは、「社員からの反発は、失敗ではなく貴重なデータである」という視点です。新しい制度や施策を導入する際、「どうせ反対されるだろう」とコミュニケーションを諦めたり、「決まったことだから」と一方的に通達したりするのは、最も避けるべき対応でしょう。
今回の事例で起きた「仕事が増える」「給料は?」といった反発は、社員が自分の仕事や生活に真剣であることの裏返しです。彼らは無関心なのではなく、変化が自分に与える影響を真剣に考えているからこそ、声を上げるのです。人事担当者は、この反発を「乗り越えるべき壁」と捉えるだけでなく、「社員の関心事を理解し、対話の出発点とする好機」と捉えるべきです。
どのような言葉に不安を感じるのか、何をメリットと感じるのか。その生の声にこそ、施策を成功に導くヒントが隠されています。反発を恐れず、むしろそれを引き出すくらいの覚悟で丁寧なヒアリングを行い、その内容を分析して次のコミュニケーション戦略に活かす。そのプロセス自体が、社員の信頼を勝ち取り、エンゲージメントを高める第一歩となります。
管理職を「翻訳者」から「変革のパートナー」へ
組織変革において、経営トップのメッセージを現場に届ける「翻訳者」としての管理職の役割は、極めて重要です。しかし、彼らを単なる「伝言役」にしてはなりません。今回の事例のように、社長が直接語るだけでなく、管理職が自分の言葉で部下と対話し、反発を受け止め、一緒になって考えるプロセスを支援することが不可欠です。
人事としては、管理職を「変革のパートナー」として巻き込むための、意図的な仕掛けが必要です。例えば、以下のような取り組みが考えられます。
変革の背景・目的の共有ワークショップ
新しい施策について、管理職自身が「なぜやるのか」を深く理解し、腹落ちさせる場を設ける。今回の事例における「4つの狙い」の再定義のようなプロセスを、管理職と共に行うのです。Q&Aセッションの事前準備
部下から出そうな質問を想定し、管理職同士で回答を議論する。これにより、自信を持って部下と対話できるようになります。管理職自身の成功体験の支援
まずは管理職のチームで小さく新しい取り組みを試行し、「やってみたら意外と良かった」という成功体験を積んでもらう。その体験が、部下への説得力を増します。
管理職が疲弊し、「上からも下からも板挟みだ」と感じてしまえば、変革のエンジンは停止します。彼らを孤独にせず、人事として並走し、知恵とツールを提供し続けることが成功の鍵となります。
「越境体験」を「成長実感」に変える制度設計
委員会活動のような本業以外の取り組みは、社員から「余計な仕事」と見なされがちです。この「やらされ感」を、いかにして「貴重な成長機会」へと転換できるかが、人事の腕の見せ所です。
そのためには、こうした「越境体験」が、社員個人のキャリアにとって明確なプラスになることを、具体的な制度として示す必要があります。
評価制度との連動
委員会活動への貢献度や、そこで発揮したリーダーシップ、協働性などを、人事評価の項目に組み込む。ただし、結果だけでなくプロセスや挑戦した姿勢も評価の対象とすることが重要です。キャリア開発との接続
委員会での経験を通じて身につけたスキル(例:プロジェクトマネジメント、ファシリテーション、部門間調整力など)を、本人のキャリアプランや次のステップにどう活かせるかを、1on1などの場で上司と共に考える機会を設ける。ナレッジの共有と賞賛
委員会活動から得られた学びや成功事例を、全社で共有する場を設ける。「営業のAさんが経理の知識を活かして大型契約を取った」といったストーリーは、他の社員にとって最高のモチベーションになります。活動そのものを賞賛し、価値あるものとして会社が公式に認める姿勢が大切です。
単に「成長しろ」と言うのではなく、「これがあなたの成長に繋がる道であり、会社として全力で応援する」というメッセージを、具体的な制度を通じて伝えることで、社員の意識は大きく変わるはずです。

組織文化の未来像「ラボ文化」を育む土壌づくり
今回の事例で最も希望に満ちていたのが、「ラボ文化」という未来像です。社員が自律的に課題を見つけ、仲間と協働して解決に動く。これは、エンゲージメントが高く、イノベーションが生まれやすい組織の理想形と言えるでしょう。
しかし、このような文化は、号令一つで生まれるものではありません。人事は、ラボが自然発生的に生まれるような「土壌」を、時間をかけて耕していく必要があります。
心理的安全性の確保
「こんなことを提案したら馬鹿にされるかもしれない」「失敗したら責任を問われる」といった不安がある環境では、自律的な行動は生まれません。失敗を許容し、どんな意見でも歓迎される風土を醸成することが大前提です。情報のオープン化
社員が会社の課題を見つけるためには、経営状況や各部署の取り組みといった情報にアクセスできる必要があります。情報を囲い込まず、可能な限りオープンにすることが、社員の当事者意識を育みます。非公式なコミュニケーションの奨励
「ラボ」は、公式な会議室よりも、雑談の中から生まれることがよくあります。部門を超えたシャッフルランチや部活動支援、フリースペースの設置など、意図しない出会いと対話を生む仕掛けが有効です。
「ラボ文化」という魅力的なゴールを示すことは、社員が目先の困難を乗り越えるための強力な動機付けになります。人事は、そのゴールへの道のりを描き、一歩ずつ着実に土壌を改良していく、息の長い庭師のような役割を担うべきなのです。この事例は、組織変革が単なる制度の変更ではなく、人の心と文化を育む営みであることを、改めて教えてくれました。

